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小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」(10月19日)

グローバル化により無意味化進む国家と企業 資本再生産を妨げる、効率の悪い“乗り物”に

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
グローバル化により無意味化進む国家と企業 資本再生産を妨げる、効率の悪い“乗り物”にの画像1「Thinkstock」より

 前回連載では、

(1)Beyond boundary(これまでの境界や常識は通用しない)
(2)Acceleration(変化は加速度的に速くなる)
(3)Leverage(小さな力で大きなものを生み出せる)

という3つのキーワードが、情報通信技術の発展を核とする技術革新と結合・融合し、加速化する現在のグローバル化(ハイパーグローバリゼーション)がもたらすパラダイム転換を示唆することを解説した。

 そもそも、グローバル化とは、技術と資本による世界のネットワーク化によるTransaction cost(取引費用)の大幅な抑制であるということができるが、現在進行しつつあるデジタル化を核とするハイパーグローバリゼーションは、取引費用の飛躍的な低減を可能とし、それが上記の3つの大きな変化をもたらしたとえいる。

 冷戦の終結後、資本や生産財【註1】の国境を越えた自由な移動が可能となり、Singularity(技術的特異点)に向かって指数関数的に高度化する技術と結合・融合し、取引費用を劇的に抑制することを可能とした現在のハイパーグローバリゼーションの下では、国家が、自国民を定義・特定し、自国民に有利な決定を実行することは極めて難しくなってきている。

●資本再生産の観点からの、国家と企業と個人の意味合いの変化

 例えば、ある国で外国資本による企業の買収を規制すれば、その国の企業の力は落ち、その国に海外からの投資が行われなくなるので、結果的には、短期的に自国企業としての存在を守ったとしても、その国の労働者を守ることには必ずしもならないということである。もはや、国家がその専権性を振りかざして国民を守ることは難しくなりつつあると考えるべきであろう。

 言い換えれば、資本のグローバル化、すなわち、資本や生産財が自由に世界を移動できる状況の中で、資本の再生産には、もはや国家は重要ではなくなりつつあるといえるのではないか。

 ハイパーグローバリゼーションの中で、資本の再生産の効果的・効率的乗り物は、国家から企業、企業から個人に移行しつつある。資本にとって、生産の手段を支配できなくなった国家は、もはや効果的かつ効率的な資本の再生産の乗り物ではなく、それどころか、むしろ巨大化した権益装置である社会福祉国家は、足を引っ張るコスト要因になりつつある。ちなみに社会主義の崩壊は、国家により生産の手段を独占しようとする試みの最終的な失敗を意味する。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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