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林總「かみくだいてご説明しますと……」

搾取される中間層 金持ちはより金持ちに、貧乏はより貧乏になる理由 進む富の偏在

文=林總/公認会計士・税理士
搾取される中間層 金持ちはより金持ちに、貧乏はより貧乏になる理由 進む富の偏在の画像1『21世紀の資本』(トマ・ピケティ/みすず書房)

『21世紀の資本』(トマ・ピケティ/みすず書房)が売れている。日本では昨年12月に発売され、通販サイトのアマゾン・ドットコムの総合順位(書籍)で5位(1月27日現在)というから、売れ行きのすさまじさは想像を超えている。通常アマゾンの上位ランクは、グラビアアイドルの写真集や啓発本、それから漫画が占める。経済学の専門書である同書が、出版不況の真っただ中でこれほど売れるのは奇跡といってよい。もちろん購入しても読まない人も多いはずだし、そもそもベストセラーとは普段本を読まない人が買うから何十万部、何百万部も売れるのだ。

 とはいえ、この現象は単なるブームではないような気がする。今の時代を覆う理不尽さに対する国民の不満の表れと思えて仕方ないのだ。同時に、始まったばかりの相続増税について、それまで考えてもいなかった疑問が湧いてきた。

 まずはピケティの理論を簡単にみておこう。ピケティは膨大な税務データを分析することで、資本主義社会では富と所得の格差は必然的に広がる、とする法則を導き出した。こうした手法は社会科学では新しいわけではないが、ピケティの斬新さは、分析した税務データが過去200年間に蓄積された膨大な「生データ」という点だ。こうした作業が可能になったのは、いうまでもなく情報技術の進化にほかならない。手作業の時代にピケティと同じ問題意識を持つ研究者がいたとしても、分析作業にコストと時間がかかりすぎ、法則までたどり着くのは不可能だったに違いない。

 ピケティはまず、アメリカやフランスにおける所得格差に注目する。例えば、現在のアメリカでは、人口の1%が同国総所得の25%を占めている。さらに人口の10%が同50%を占めている、と現実を突きつける

 次は資産格差だ。アメリカの上位10%が所有する資産は全体の70%、次の10~50%の中位層は同25%、そして残り50%の下位層は同5%にも満たない。ヨーロッパはどうか。上位層が同60%、中位層が同35%、そして下位層が同5%で、中間層の割合が異なるだけでヨーロッパでも下位層は資産をほとんど持っていない。しかも興味深いことに、1810年当時のヨーロッパでも上位層は同90%の資産を独り占めしており、残りの10%を中位層と下位層が5%ずつ保有していたというのだ。

 つまり、所得と資産の大半は200年前から一部の金持ちに偏在していたということだ。そして、時代と共に中間層が形成されたものの、下位層は相変わらず貧乏のままなのだ。

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 では、なぜいつの時代も上位層は所得も資産も多いのか。

 この問いに対する答えがr>gだ。rは資本収益率。ここで資本とは、投資に回した資金のことで、同時に実物資産と金融資産の合計を意味する。資本収益率rは、資金を資産に投資した結果得た利益。つまり、rは資本の投資利回りである。gは経済成長率を意味するので、r>gとはこの200年間rが常に経済成長率gを上回っていたということだ。経済成長とは国全体の付加価値(富)が増えることだから、国全体の付加価値の増加gより、資本運用によって得た所得rの増加のほうが多かったということである。

林總/公認会計士、経営コンサルタント、会計専門職大学院教員

林總/公認会計士、経営コンサルタント、会計専門職大学院教員

中央大学商学部卒業。外資系会計事務所、監査法人を経て開業。現在、株式会社林總アソシエイツ代表、公認会計士林總事務所代表、日本原価計算学会会員。国内外の企業に対して、ビジネスコンサルティング、ITを活用した管理会計システムの設計導入コンサルティング、講演活動等を行っている。

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