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全国の農業に「大変な事態」到来の危険 机上の空論&現実無視の農業改革

文=小倉正行/フリーライター
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全国の農業に「大変な事態」到来の危険 机上の空論&現実無視の農業改革の画像1「農林水産省HP」より

 今国会で農協法等一部改正案の審議が行われ、その法案には農業委員会法改正が含まれているが、同法改正で全国に大変な事態が到来する可能性が出てきている。

 農業委員会は、農地法に基づく農地の売買・貸借の許可など農地に関する事務を執行する行政委員会として、全国1750市区町村のうち1708市区町村で計1732個が設置されている。市区町村数より設置農業委員会が多いのは、複数設置されている自治体があるからである。

 今回の農業委員会法改正における大きな問題の一つが、農業委員の公選制廃止と、市町村長による農業委員任命制の新設である。現在、全国で2万7368人の農業委員が公職選挙法に基づく公選制で選出されているが、それを市町村長による任命制に変えることになる。任命制になると事務手続きは大変で、任命前に市町村長は農業者や農業団体等から委員候補者の推薦や募集を行い、候補者名簿を整理・公表し、市町村議会の同意を得て任命することになる。その際、農業委員の過半数が認定農業者でなければならず、委員の年齢や性別等に著しい偏りが生じないよう配慮しなければならない。

 これまで市町村は、行政委員会である農業委員会に対して、まったく関与がなかった。それは、行政委員会の独立性からして当然なことであった。農業委員は、選挙で選出されてきた。市町村議会選挙と同様に、話し合い等で定数を上回る候補者がいなければ無投票選挙となる。それが一転、市町村が前面に出て、農業委員の推薦・募集から名簿の公表・選任までしなければならなくなる。

 また、農業委員の過半を認定農業者にするという要件をクリアするためには、認定農業者の説得作業まで行うことになる。認定農業者は農業の担い手と位置付けられているが、それだけに耕作面積も他の農業者より大きく、農作業に従事する時間も長い。公職に就けば農作業に影響も出てくるので、その説得は大変である。

危ぶまれる農業委員会の中立性

 さらに問題なのは、今回の法改正で農業委員のうち1人以上は、中立委員を置かなければならない点だ。この中立委員について農林水産省は、例示的に弁護士、司法書士、行政書士、会社役員などを示しているが、中山間地や過疎地域をはじめ、農村地域では弁護士や司法書士、行政書士が存在していないところも多い。さらに、農地・農業に詳しい人物という要件が課せられているので、人選が難航することは必至である。

 そこで心配される事態が、市町村長の任命制の下で首長の親戚や縁戚、後援会関係者などが中立委員として選任されることである。農業委員会は、農地転用案件の意見具申など重要な権能を持っている。さらに、地方分権一括法により、農地転用許可権限が大幅に市町村長に委ねられることになった。そこに市町村長の息のかかった関係者が中立委員として送り込まれることになれば、農地転用を市町村長の意向に沿った形で容易に進めることになりかねない。当然、そのような人選が行われることになれば、大きなトラブルの元になりかねない。

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