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荒木肇「あなたの習った歴史はもう古い!」

あの悪徳&賄賂政治家、実は日本を飛躍的に発展させた革新的リーダーだった!

文=荒木肇/作家

あの悪徳&賄賂政治家、実は日本を飛躍的に発展させた革新的リーダーだった!の画像1田沼意次(「Wikipedia」より/Valdis72)
 江戸時代の「賄賂政治家」といえば、田沼意次の名を出す人も多いだろう。昭和の時代には、教科書にも「賄賂がしきりに行われて、役人の地位も金で売買されるようになったから、幕府の統制力も衰えるようになった」と書かれていた。

 現代の教科書には、田沼は行き詰まった幕府の財政を立て直すために商人の力を利用しようとしたことに触れ、おかげで「民間の学問・文化・芸術が多様な発展を遂げた」と好意的に書かれている。もちろん、その後には、幕府の役人の間で賄賂や縁故による人事が横行し、武士本来の士風を退廃させたという批判があったことも付け加えられている。

側用人と老中を兼務した田沼

 田沼がなぜ権力を振るえたのかというと、側用人と老中を兼務したことに理由がある。側用人とは、将軍に仕える側近や秘書官のような役割である。禄高(現在の給料)は、譜代大名の中でも少ないほうだ。

 5代将軍の徳川綱吉は、小姓だった柳沢吉保を側用人に登用したことで知られている。幕府が巨大化するにつれて、老中ですら将軍に接見するのが簡単ではなくなり、将軍の信頼を得た側用人は絶大な権力を持つようになった。本来は側用人よりも偉いはずの老中のほうが、逆に側用人のご機嫌をうかがうようになってしまったのだ。

 側用人を諸悪の根源として廃止したのは、8代将軍の徳川吉宗である。吉宗は開祖の徳川家康を敬い、将軍親政(将軍が積極的に政治に関わること)を大切にしたため、老中との対話を重んじた。9代将軍の徳川家重は、生まれつき言語が不自由だったといわれ、通訳のために側用人を復活させた。10代将軍の徳川家治は、お気に入りの田沼を側用人に登用し、老中を兼務させたのだ。

田沼の革新的な手腕

 田沼の革新的な点は、身分にこだわらず、多くの階層の人から建策を受け入れたことである。幕閣の中心にいながら、商人、大名の家臣、軽輩の献言に至るまで、良いと思えばすぐに実行した。それが、それまでの大名政治家と異なるところだ。主に、以下の3点が挙げられる。

(1)大坂(おおざか、現在の大阪)、江戸の商人に株仲間の結成を呼びかけた。株仲間とは、幕府や藩の許可を得た商工業者の同業組合である。幕府は独占を許す代わりに、運上金を上納させた。

(2)下総国(現在の千葉県)の印旛沼の干拓を許した。いわゆる新田開発である。干拓を許された商人は、合法的に土地の一部を所有することができた。

(3)ロシアとの交易を念頭に置いて、北辺の開発を行った。仙台の伊達家の家臣・工藤平助の献言を受け、最上徳内を蝦夷地に派遣したのだ。ロシアと交易を行い、その利益を幕府が独占する計画だったといわれている。

先駆的な政治家としての再評価

 田沼の賄賂好きは有名だ。もともと、日本社会は贈答に寛容な風土がある。現代でも、訪問先への手土産の持参や、中元や歳暮を贈る習慣は一般常識になっている。

 田沼は、わずか600石の小姓組番士の出身で、家来も6~7人にすぎなかった。しかし、それから何度も加増(禄高や領地を増やすこと)され、5万7000石という、譜代大名の中では上位の身代に成り上がった。ちなみに、「忠臣蔵」で有名な赤穂藩浅野家が5万石である。

 田沼の家来は、士分だけでも150人くらいに増えたと思われる。下士や足軽、小者も入れれば1000人規模だろう。そして、この家臣たちが調子に乗ってしまった。口利きやコネ、血縁関係が現在より重視される時代だったために、誰もが礼物や賄賂に関心を持つようになったのだ。

 田沼が政権の中心にいたのは、わずか10年余りである。老中になったのは1772年で、罷免されたのは86年のことだ。この間、現代の教科書に書かれているように、学問・芸術・文化は確かに発展した。

 古いしきたりや慣習が見直され、都市と地方の格差が是正された。各大名家では、家臣の教育のために藩校がつくられた。国学の研究も盛んになり、川柳や狂歌、小説や錦絵なども流行したのだ。

 殖産興業に力を注ぎ、日本の発展に貢献した先駆者。賄賂のイメージが強い田沼には、実はそういった側面もあるのだ。
(文=荒木肇/作家)

荒木肇/作家

荒木肇/作家

1951年東京生まれ。横浜国立大学大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。著書に「学校で教えない自衛隊」など。

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