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名郷直樹「健康についてウェブで検索するな!」

「認知症は早期発見が大切」はナンセンスである かえって弊害多く

文=名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック
「認知症は早期発見が大切」はナンセンスである かえって弊害多くの画像1「Thinkstock」より

 今回は認知症の早期発見について少し考えてみたい。

 がんや生活習慣病など、多くの病気で早期発見の重要性が強調される。どんな病気でも早期発見が無条件で重要という前提がある。そういう感じがする。しかし、その前提は間違いである。早期発見が重要というためには、少なくとも下記の2条件が満たされる必要がある。

(1)正常者と異常者を区別する境界が明確であること
(2)早期の患者に対して有効な治療があること

 がん検診ですら、この2つの条件を満たすものはそれほど多くない。今回はまず(1)の条件について取り上げてみよう。

 認知症に関していえば、現状では正常者から早期の認知症を区別して明確に定義づける基準はない。その基準を決定するためには、まだまだ多くの研究が必要である。

 しかし、現実はどうかというと、適切な基準を決めるというよりは、とにかく認知症の診断は早ければ早いほどいいという方向にあるり、まったくナンセンスである。どんな検査を利用して認知症の早期発見をするにせよ、本当は認知症ではない人を認知症と間違って診断する危険がある。その危険は、早期に発見すればするほど大きくなるからである。

 事実、はっきりした認知症とはいえないものの早期の認知機能異常と診断された患者の大部分は進行しない単なる物忘れで、異常と診断された人のうちで1年以内に実際に進行する人は10%程度という研究がある。この研究結果からしても、とにかく早期に発見することが重要とはいえないことがわかる。90%の人が進行しないのなら、そうした人に対する早期発見は効果がないばかりでなく、認知症への不安を植え付けるだけである。

 こういう状況でもひたすら早期発見を勧めるのはなぜか。

 それは、進行しない軽度認知機能異常が多いということと関係している。早期発見、早期治療を勧める人たちが、認知症の早期発見が重要だと強調して、多くの軽度認知機能障害の患者を見つけ出し、そうした患者にいろいろな医療を提供し、1年たったところで「全然進行していません。よかったですね」というのである。そうやって何か世の中の役に立っていると考えるようなナイーブな人が、医者も含め多くの医療関係者の大部分だからである。

 確かに進行していないのでよかったわけであるが、それは早期発見のせいでも、早期に治療を開始したからでもなく、もともと進行しない人が90%だというだけである。そのように論理的に考えることができない医療関係者があまりに多すぎる。困ったことである。

求められる明確な基準

 しかし、厚生労働省のホームページを見ると、以下のように書かれている。

「早期診断、早期治療が大事なわけ:認知症はどうせ治らない病気だから医療機関に行っても仕方ないという人がいますが、これは誤った考えです。認知症についても早期受診、早期診断、早期治療は非常に重要です」

 そんなことはまだよくわかっていない。厚生労働省は、少なくとも早期発見の明確な基準を示すべきである。そうでなければとにかく早く見つければ見つけるほどいいという世の中の風潮に押され、認知症でない人を認知症だと不安にさせ、さらには無駄のコストを強いるだけかもしれない。

 認知症の早期発見に関しては、厚労省のホームページの情報すら信用してはいけないのが実情なのである。
(文=名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック)

名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック

名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック

武蔵国分寺公園クリニック 名誉院長
地域家庭診療センター センター長
CMECジャーナルクラブ編集長
臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)理事
武蔵国分寺公園クリニック

Twitter:@nnago

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