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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

セブンを急成長させたPOSシステム、意外な落とし穴?ここが他店との差別化ポイント!

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

POS(Point of Sale)とは

セブンを急成長させたPOSシステム、意外な落とし穴?ここが他店との差別化ポイント!の画像1「Thinkstock」より

 もともと会計時のキャッシュレジスターは単なる大きな計算機のようなもので、商品ごとの金額を入力し、合計金額がわかるというものでした。しかしながら、コンビニエンスストアをはじめ、多くの店において商品のバーコードを読み取るだけで、もはや金額の入力すら必要なくなったPOSシステムが普及しています。

 POSはアメリカで店員の金額の入力ミスや不正を防ぐために開発されたシステムですが、日本に導入され、その用途は飛躍的に拡大しました。POSは単に合計金額だけでなく、いつ、どの商品が何個売れたということまで教えてくれます。よって受注システムと統合化させることにより、品切れや過剰在庫を最小化させる効率的な在庫管理が行えるようになったわけです。

セブンの成功の裏にPOSあり

セブンを急成長させたPOSシステム、意外な落とし穴?ここが他店との差別化ポイント!の画像2『「高く売る」戦略』(大崎孝徳/同文舘出版)

 現在、飛ぶ鳥を落とす勢いのセブン-イレブンも開業当時は大層苦戦したようです。その要因のひとつに在庫管理の問題がありました。当時の日本では、問屋からの仕入れは大きなロットにまとめられていたため、狭い倉庫しか持たないコンビニ各店舗では扱える商品が限定されました。また新製品を納入したくても在庫の置き場はなく、逆に消費期限切れで廃棄する商品も多かったようです。

 こうした状況に対して、セブンは小分けでの商品納入を志向するようになります。そのために店舗を特定のエリアに集中して出店するドミナント戦略を実行します。1店舗当たりの量は少なくともエリア全体の店舗を合わせるとかなりのボリュームとなり、しかも各店舗が近くにあるため、問屋も小分け配送を了承したわけです。

 しかしながら、小分け納入にはもうひとつ重要なポイントがあります。それは随時、注文数を確定しなければならないということです。そのためには、どの商品が何個売れたかという情報を把握しなければなりませんが、従来の合計金額のみがわかるキャッシュレジスターには、そうした機能がありません。よって当初は手作業で集計していましたが、これはもちろん大変な手間がかかります。こうした集計作業をPOSは自動化してくれたわけです。

POSによる仮説検証型発注

 また、鈴木敏文会長がセブンの強みとしてしばしば指摘している仮説検証型発注もPOSにより実現しています。従来、チェーンストアは本部の指示に従い、仕入れを行ってきましたが、POSにより、その店の過去の販売データを蓄積できるようになりました。例えば、前年同月の休日の販売データに天候に関する情報などを加味した発注品目および数量の決定(仮説)、その後、実際にどういう販売結果になったかを考え(検証)、次の発注に生かすというサイクルが仮説検証型発注の仕組みにおいて誕生しています。

 こうした仕組みは、単なる品ぞろえや在庫管理といった領域を超え、ただ本部に従うのではなく、自ら主体的に発注できることにより、スタッフのモチベーションを大きく高めるといわれています。

 さらに、近年、急速に普及してきているnanacoPontaといったカードの情報とPOSを組み合わせれば、いつ、何を、何個に加え、誰がという情報も加味されるため、今後、さらに発展したマーケティング施策が展開されることでしょう。

POSの悪影響

 では、POSによる悪影響というものはないのでしょうか。POSのメリットは、何が何個売れたかが瞬時にわかることです。裏を返せば何が売れていないかも簡単にわかってしまいます。例えば、新製品の場合、昔であれば大きなロットで入荷され、毎日販売状況を確認するような小売店も少なく、売れていなくてもある程度の期間は店頭に並べられていたものの、POSによる厳格な管理では、あっという間に店頭から外されてしまいます。

 大手メーカーであればテレビ広告などのプロモーションにより、新製品に対する需要を喚起することも可能でしょうが、通常、中小のメーカーにそうした力はありません。積極的な広告展開などしなくても、以前なら、例えば商品のおいしさが口コミで広がり大ヒットといったこともあったでしょうが、POSによる管理はそうした状況を許してくれそうにはありません。中小企業にとっては頭の痛い問題でしょう。

ヴィレッジヴァンガードにおけるPOS活用

 書店でありながら、数多くの雑貨を扱い、ショッピングとアミューズメントを融合させた店舗展開を図り、若者を中心に人気の高いヴィレッジヴァンガードの売上高が回復してきたとの記事を先日、新聞で見ました。

 記事では、その要因としてPOSの導入を挙げていました。以前の発注は店舗ごとに個性が出るように店長の勘や経験に100%依存していたものの、店舗増加により経験の浅い店長が増え、うまく機能しなくなり、業績が悪化していたようです。そこでPOSを導入したのですが、100%POSに頼るのではなく、例えば需要予測が立てやすいショッピングセンター内の店舗では積極的に活用するものの、流行感度の高い若者が集まる店ではPOSに依存しすぎない個性的な店づくりを目指すとの社長のコメントがありました。

 POSが当たり前になってしまった今日における他店との差別化においては、このようにどの部分に活用し、またどの部分ではあえて活用しないという見極めが重要になるのかもしれません。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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