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西川淳「ボンジョルノ!クルマ」

メルセデス・ベンツとBMW、なぜ日本で最近「売れて」いるのか?

文=西川淳/ジュネコ代表取締役、自動車評論家
メルセデス・ベンツとBMW、なぜ日本で最近「売れて」いるのか?の画像1メルセデス・ベンツS400ハイブリッド(「Wikipedia」より/Tokumeigakarinoaoshima)

 2015年に日本で新規登録された輸入車の中で、ブランド別登録台数ナンバー1となったのは、メルセデス・ベンツだった。2位以下を1万台以上引き離し、対前年比107%の約6.5万台。暦年年間ではもちろん過去最高であり、このままいけば3年連続で単年度(4~翌3月年度)登録台数が過去最高となることは、よほどのアクシデントでもない限り間違いなさそうだ。

 その「よほどのアクシデント」に見舞われたフォルクスワーゲン(VW)のオウンゴールによるメルセデス・ベンツの完勝。えてしてそう思われがちだが、実際には決してそうではない。その証拠に、1月からVWの排ガス規制逃れ発覚直前の8月までの累計台数でも、メルセデスは登録台数トップを独走しており、VWショック直後で影響がまだ顕在化していなかった上半期(4~9月)登録台数では、初めて輸入車第1位を獲得していた。
 
 メルセデスサイドにしてみれば、「VWショックなどなくとも堂々と1位になれたのに」といった“悔しさ”があるに違いない。投げをうつ絶好のチャンスを前に、相手が自ら土俵を割ってしまった感じだろうか。

 輸入車全体としては、前年の実績を割り込んだ。ちょうどVWの減少分がマイナスになった勘定だ。それでも、VWショックの影響は今のところ限定的だといってよさそうである。というのも、当初はVWグループ以外の輸入ブランドにも悪影響が及ぶと予測されていたからだ。

 VWショックはディーゼルエンジン問題で始まったゆえに、ディーゼル市場がようやく回復しつつあった日本では大きなイメージダウンが心配されていたのだ。折しも、国産ハイブリッド勢に対抗すべく、燃費のいいディーゼル車を核にしたエコカー販売戦略を始めていた輸入ブランドも増えていた。日本では売っていないVWディーゼル車の悪評で、日本へ正規輸入される他ブランドのディーゼル車販売にも悪い影響が出てしまう――。そんな不条理に、ディーゼル車ラインナップを持つブランドはさらされていたわけである。

 今ではディーゼル車が人気のメルセデスやBMWの堅調ぶり、さらにはディーゼル車を主役に据えたばかりのボルボの躍進などをみるにつけ、VWショックに対して日本の消費者は比較的冷静に反応したようにも思える。もとより、VWのセールスはショック前から低空飛行気味であったし、VWグループで不正発覚の影響を被ったアウディも主要モデルのフルモデルチェンジを控えて苦戦中で、一連の事件は“だめ押し”とはなってしまったものの、好調な他ブランドの勢いを大いに削ぐまでには至らなかった。つまり、VWショックの影響は限定的であったということだ。

ブランドの棲み分け

 こうした背景には、VWとほかの好調ブランドの棲み分けが以前からはっきりしていたことも影響しているように思われる。つまり、メルセデスやBMWは評判の確立したロイヤリティユーザーの多いプレミアムブランドであり、VW事件は「対岸の火事」だと認識されたのだ。

 また、プレミアム化をめざしながらもユーザー層がVWと重なるボルボあたりは、ショックとは無縁の非ドイツ車として、VWやアウディが本来獲得すべき新規ユーザーを収容する受け皿となったのだろう。

 こうして、VWショック後の日本の輸入車マーケットは、VWとアウディの“ふたり負け”状況となり、全体的にはプラス基調でありながら、この大きな2ブランドのマイナスが響いて全体数におけるマイナス成長を余儀なくされたに違いない。
 

B登録を回避

 もうひとつ、12月の輸入車新規登録台数を見ると、面白いことがわかる。実はトップ4が軒並み前年割れとなっているのだ。VWとアウディは不正ショックの影響である。これは単純な理由だ。では、メルセデスとBMWがそれぞれ販売台数を約11%、約5%落としたのは、いったいなぜだろうか。

 推測するに、VWとアウディが自滅してくれたことで、メルセデスもBMWも必要以上に新規登録獲得に力を入れなかったのだろう。たとえば14年末は、登録台数争いが最も熾烈だった年末で、VWとメルセデスが登録台数1位をかけて大接戦を演じた。結果、メルセデスがなんとVWに140台差にまで迫ったのだ。つまり、メルセデスはもう一昨年から勢いづいていた。

 その裏には当然、比較的安価な車両をディーラー登録する、いわゆるB登録戦法があったに違いない。15年初の中古車オークションや中古車販売店には、“登録済み未使用車”のメルセデス・ベンツAクラスやBクラスがたくさんあった。
 
 15年末に限っては、世界ビッグ4のうち巨人のVWが自滅し、上昇機運にあったアウディにも急ブレーキがかかった。メルセデスとBMWは、無理せずとも目指す地位を確保できたため、大量のB登録という事態を回避できたのだろう(それでも大手販売店には今年も登録済み未使用車が並んでいるが)。

 ブランドを傷つけずに済んだ輸入元はもちろん、販売店も大いに安堵したはずだ。B登録戦法を使うと、輸入元からの報奨金などで一次的には潤うものの、いずれにせよ一端登録しただけの車両なのでそのまま放置するわけにはいかず、自社で捌ききれなかった場合は中古車市場に回すほかない。

 軽自動車マーケットをみてもわかるとおり、いきすぎたB登録は中古車相場の値崩れを必ず引き起こす。超高品質な中古車(新古車などと呼ぶ)による供給過剰状態に陥るのだ。B登録するようなクルマはある程度人気の高い売れるものが多いので、必然的に中古車市場における流通台数も多い。そこに、新車のような中古車が大量に流れ込んで健全なマーケットが保たれるわけがない。セールスの先食いでしかないから、ボディブローのようにじわじわと後々の新車販売にも悪影響を及ぼす。

輸入車市場のターニングポイント

 16年にVWグループは、信頼回復を何よりも優先することだろう。そして、いまいちど日本市場におけるブランドの方向性を構築すべく、新たな戦略を立てるに違いない。一方でメルセデスやBMWといったプレミアムブランドは、VWやアウディの得意とする小型車マーケットを精力的に開拓しつつ、確実に地歩を固めて成長しようとすることだろう。台数よりも質という転換を図るブランドもあるかもしれない。

 日本市場における輸入車マーケットは驚くほど小規模であり、ついに米フォードは今月、日本市場からの撤退を表明した。しかし、海外勢にとってはまだポテンシャル=見込みのある市場だと考えることもできるだろう。

 VWショックというピンチを、はたしてチャンスに変えることができるのかどうか。いずれにせよ、16年は日本市場における輸入車市場のターニングポイントになりそうだ。
(文=西川淳/ジュネコ代表取締役、自動車評論家)

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