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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

アサヒ、今考え得る最高のビール発売…コク・キレ炸裂でも糖質半分、ドライ依存と決別

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授
アサヒ、今考え得る最高のビール発売…コク・キレ炸裂でも糖質半分、ドライ依存と決別の画像1「アサヒ ザ・ドリーム」(「アサヒビール HP」より)

 アサヒビールは1月6日、新しいビールを3月23日に発売すると発表しました。「アサヒ ザ・ドリーム」(以下、ドリーム)と名付けられた新商品では、麦芽使用比率を通常の1.2倍に高め、しっかりとしたコクのある味わいを具現化させています。また高度な酵母管理技術を採用し、発酵度を極限まで高めることにより爽快なキレ味を実現したと強く謳われています。

 さらに、健康志向の高まりに対応して糖質を50%オフとするなど、ビールに対する近年の主たる消費者ニーズのすべてをてんこ盛りしたような製品になっています。

 ビールづくりに関してまったくの素人である筆者には、技術面の問題は皆目見当がつきませんが、たとえばコクと糖質オフなどはトレードオフの関係にあり両立させることは容易ではないように思われますが、実際はどうなのでしょうか。発売される3月を楽しみに待ちたいと思います。

7年ぶりの新ブランド・ビール

アサヒ、今考え得る最高のビール発売…コク・キレ炸裂でも糖質半分、ドライ依存と決別の画像2『すごい差別化戦略』(大崎孝徳/日本実業出版社)

 アサヒビールからビールにおける新ブランドが発売されるのは、2009年の「アサヒ ザ・マスター」(以下、マスター)以来、7年ぶりです。マスターは名古屋工場のみで生産され、当初の年間販売目標は210万箱でしたが、ドリームは福島工場をはじめ全国4工場で生産され、年間販売目標も400万箱としていますので本気度の違いを感じます。ちなみに、広告のキャラクターにはラグビー日本代表の五郎丸歩選手を起用するという力の入れようです。

 みなさんご存じの通り、アサヒビールには国民的ヒット商品「アサヒスーパードライ」(以下、ドライ)があり、近年の新製品では「ドライプレミアム」「ドライブラック」など、ドライに大きく依存した、いわゆる“一本足打法”的な商品展開が目立っていました。

 もちろん、ドライという強力な商品ブランドを活用し、商品のラインアップを充実させることは正しい戦略といえるでしょう。しかし、たとえば麒麟麦酒(キリンビール)の「キリンラガービール」や三菱自動車工業の「パジェロ」など、圧倒的な人気を得ながらも、時代の変化や競合他社商品の台頭により低迷するというパターンは数多く見受けられます(2015年8月27日付本連載記事『絶好調アサヒビール、最大の脅威は自社のスーパードライ?業界トップ保守化のジレンマ』参照)。よって、敢えてドライのブランドに依存しないという今回の商品展開は、挑戦的な取り組みで大変好感が持てます。

大ヒットへの道は険しい?

 しかしながら、一般に商品が大ヒットとなる確率は極めて低いわけです。また、ヒットしている商品の中には長い時間を要しているものも少なくはありません。たとえば、長きにわたり日本のプレミアムビールの代表的な存在であるサッポロビールの「ヱビスビール」は、大ヒットとなるまでに20年を要しています。

 ヱビスビールは、もともとは1890年に発売されましたが、第2次世界大戦勃発により、すべてのビールは配給品とされ、「麦酒」の統一ラベルとなり、ヱビスの名も消えてしまいました。しかし、71年に、当時社長であった内多蔵人氏の強いリーダーシップにより28年ぶりにヱビスビールは復活しました。その時には、新聞、雑誌、ポスターなどで積極的な広告展開がなされ、大きな話題となっています。

 その後、会社の方針によりヱビスビールの広告を行わないことになり、売り上げは最盛期の10分の1程度にまで落ち込み、長い低迷期に入ってしまいます。転機となったのは、94年の「ヱビスビールあります。」キャンペーンです。当時、ヱビスビールは一般消費者に広く認知されていたわけではないものの、こだわりのある飲食店を中心に極めて高い評価を得ていました。そこで、「ヱビスビールあります。」のコピーが大きく印刷されたポスターを製作し、飲食店の店先に掲げてもらい、「ヱビスビールを取り扱っている店は、料理にもこだわりのある名店」というイメージを消費者に訴求し、ヱビスビールと飲食店の双方にとって大きな相乗効果を上げることに成功し、現在に至っています。

 また、近年、成長著しいサントリービールの「ザ・プレミアム・モルツ」も、発売当初の売り上げは好調とは言い難かったものの、2005年のモンドセレクション最高金賞受賞を契機に、徹底した全社的取り組みにより、現在の大ヒットに至っています(15年10月9日付本連載記事『「ウィスキーくさい」と酷評から市場トップへ!プレモル誕生まで40年の死闘』参照)。

 このように大ヒットに向けて、長きにわたり全社的に本腰を入れて取り組む覚悟のようなものが重要になってくる場合もあるでしょう。

新ブランド投入の是非

 もちろん、全力で取り組んだものの、うまくいかなかったという結果に終わることも想定されます。それでも、ドライという既存の強いブランドを敢えて利用しない今回の商品展開は、マンネリになりがちな日々の業務を大きく変えるはずです。また新ブランドの立ち上げには大きな資金を必要とするため、タイミング的にもドライのヒットで好調な業績を維持できている今こそ好機といえます。

 仮にドリームがヒットしなかったとしても、今回の取り組みを通じて、アサヒビールにおいては多くの知見や挑戦する風土の育成など、大きな成果を得ることでしょう。こうした成果は企業の長期的な発展に重要な役割を果たすはずです。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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