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江川紹子の「事件ウオッチ」第49回

再燃した【巨人・野球賭博】、問題は選手個人の「甘さ」「弱さ」だけじゃない!

文=江川紹子/ジャーナリスト
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再燃した【巨人・野球賭博】、問題は選手個人の「甘さ」「弱さ」だけじゃない!の画像1野球賭博への関与が発覚し、謝罪会見を行った高木京介投手(画像はANNニュースより)

 プロ野球公式戦が、いよいよ来週末に開幕する。その明るい気分に水を差しているのが、巨人の野球賭博問題だ。今月に入って、賭博に関わっていた選手が新たに発覚し、問題の根の深さと広がりをあらためて感じさせた。この際、膿を出し切ることが必要だが、賭博という違法行為だけに注目するのではなく、選手たちがギャンブルに馴染み、はまっていった環境をよく吟味し、ギャンブル依存症など医学的観点も含めて調査を行うことも大切なのではないか。

ギャンブルが常態化していたロッカールーム

 この問題は、昨年秋に発覚。巨人や日本野球機構(NPB)の調査委員会(大鶴基成委員長)での調査の結果、野球賭博に関与していた福田聡志、笠原将生、松本竜也の3投手が巨人から解雇され、NPBからは無期失格処分を受けた。さらに、今月になって高木京介投手が賭博に関わっていたことが発覚し、渡邉恒雄最高顧問ら球団の首脳3人が引責辞任した。しかし、問題の全容解明にはまだ至っておらず、NPB調査委員会の大鶴委員長も、「とても開幕(までの解明)は無理」と言っている。

 名前が挙がっている4選手以外にも、球団内では球場のロッカールームなどで選手間の賭け麻雀、賭けトランプが行われていたことがわかっている。解雇された松本元選手が「週刊文春」(文藝春秋)で、日常的にそうしたギャンブルが行われていた状況を告白しているが、驚くことに練習中にも金銭を賭ける行為が日常だったという。

 笠原元選手も産経新聞などの取材に対して同様の証言をし、「ロッカールームでギャンブルの習慣がついていたから、野球賭博もその延長でやっていた」と語っている。

 両選手とも、練習中の賭けなどは自身が入団する前から常態化していたと語っている。

 また、選手には競馬好きも多く、重賞レースなどには数十万円単位で賭けている選手もいるようだ。公営ギャンブルは違法ではないし、個人の金の使い道は自由であるとはいえ、これが賭け事に多額の金銭をつぎ込むことへの慣れが生じるきっかけになっているかもしれない。

 社会経験のない若者が契約金や年俸で高額の金銭を得て、ギャンブルが当たり前のように行われる環境の中に入っていけば、どうなるか。それを考えると、賭博に関わった者を探し出してペナルティを科すこと以上に、彼らをとりまく環境こそに注目すべきだと思う。

 勝負を前にした緊張感や気持ちが熱くなり、勝った時の高揚感が相通じるのか。そうでなくてもスポーツ選手にはギャンブル好きが多いといわれる。

 昨年7月2日号の「週刊新潮」(新潮社)によると、中日ドラゴンズ、横浜DeNAベイスターズなどで活躍した元選手が、ギャンブルなどによる借金がかさんで自己破産したという。その元選手について、中日時代の同僚だった愛甲猛氏は、同誌にこう語っている。

「(彼は)ロッカーで競馬、競輪、競艇、パチンコの新聞や雑誌を読んで研究していたけど、麻雀でも気の毒なくらいカモにされちゃう。弱いくせに高い役で上がろうと頑張ったり、でかい夢見ちゃうのね。それで負けが込みはじめると目がマジになる。何人かで韓国に行ったときは別行動でバカラやルーレットやって、2日で“300万スッた”と言って、翌日、“300万取り返した”。再び相当な額を注ぎ込んだってことで、一歩間違えたら大やけどではすみません」

 昨年は、韓国のプロ野球でも賭博が問題となり、名門チーム・サムスンライオンズの投手で、日本の東京ヤクルトスワローズでも活躍した林昌勇が、マカオのカジノでバカラ賭博に興じたとしてチームから解雇され、賭博罪で罰金刑を受けた。同様に元阪神タイガースの呉昇桓投手(米メジャーリーグ、セントルイス・カージナルス)も賭博罪で罰金刑を科された。

 野球以外でも、たとえば多くの力士や親方が関わっていた大がかりな大相撲野球賭博事件があった。この時に日本相撲協会から解雇された元関脇・貴闘力(第16代大嶽親方)は、自身がギャンブルに浸かっていった体験を、昨年11月に行われたイベント『ギャンブル依存症対策推進フォーラム』で語っているが、その中でこんな発言があった。

「土俵に上がった時のドキドキ感と、ギャンブルで自分の給料以上のものをポンッと張った時の緊張感には、似たようなものがあるんですね。それで勝ったときの嬉しさとかがあるからやっぱりスポーツ選手は、はまると依存症になりやすいかもしれないですね」

依存症には適切な医療サポートを

 貴闘力によれば、相撲部屋でもギャンブルが日常化していた。ある時、5000円の馬券を買ったところ、それが40万円に化けたビギナーズラックからギャンブルにのめり込んでいき、相撲の稽古以外はギャンブル漬けの生活になった。借金は1億円に膨らんだ。義父の大鵬親方の力も借りて整理したものの、「一切ギャンブルしません」と約束した手前、隠れてこっそりとやるようになり、そのうち野球賭博に手を出した。その時の心境を、次のように語っている。

「自分では『やめとこ、悪いなあ』ということもわかってはいたんですけど、別にヤクザも入ってないわけだし、『身内同士でやってるんやし、わからんからええやろ』と」

 本人は悪いと頭ではわかっているのに、やめられない。それがギャンブル依存症の怖いところだ。仲間内だけでやっていればバレないだろうという、妙な楽観主義も加わって、ずるずると続けてしまう。

 このフォーラムでは、ギャンブル依存症に取り組む医師らが参加し、ギャンブル依存症は本人の心の弱さの問題ではなく脳の機能に異変が生じる「病気」であり、治療法もある程度確立していることが報告されている。ここでは、巨人の野球賭博問題も話題になった。

 解雇された選手は球団を通して、「軽はずみに始めてしまった。その後もどうしてもやめられなかった。自分の甘さを後悔している」というコメントを出し、それが報じられている。こうした問題では、とかく個人の選手の「甘さ」「弱さ」が問題にされる。ギャンブルにのめり込んだ側も、自身の「甘さ」「弱さ」のせいだと思い込み、自分が依存症であることを認めようとしない。

 しかしギャンブル依存症であった場合、いくら当人を責めても問題は解決しない。貴闘力も職を失い、離婚し、すべてを失ったうえに「マスコミに無茶苦茶叩かれ、ずっと逃げてました」と言うが、騒ぎが一段落し新たに開いた焼き肉店が軌道に乗ると、またギャンブルに手を出した。

 フォーラムの中で、筑波大学准教授(精神保健学)の森田展彰氏は、ギャンブルを「どうしてもやめられない」という人たちを、社会が排除し叩くのではなく、治療に結びつけ復帰する道を用意することの大切さを指摘した。

「(巨人の選手も)これでダメな人間として巨人軍が放逐するし、社会からも放逐するみたいなことではなく、治療に繋がるようにしてあげないといけない。日本人はしっかりした道徳感のある民族だとは思いますけれど、(道徳から)外れてしまったときに非常に容赦がない。本当はちゃんと(社会に)戻って来られるはずなのに、戻って来づらくしてしまう面がある」

 巨人の選手たちが、ギャンブル依存症であるかどうかはわからない。しかし、「どうしてもやめられない」という言葉からは、その可能性を疑ってみる必要もありそうだ。そうした視点がまるでない報道に対して、「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表理事は、「本人の甘さみたいなこと一辺倒だと社会はなかなか変わっていかない。ギャンブル依存症かもしれないという視点も出していただければ」と注文をつけた。

 報道だけでない。NPBの調査や巨人が行う対策にも、もっと医学的なサポートを取り入れるべきではないだろうか。

 NPBの調査委員会のメンバーは、元検事の大鶴基成弁護士のほか、公認会計士で監査法人代表の加藤善孝氏、NPBの顧問弁護士を務める吉田和彦弁護士の3人。いずれも、違法行為などの事実を洗い出したり、法的な観点から問題を処理することには長けた方々なのだろうが、このメンバーの選定からは、ギャンブル依存症という医学的な視点がまるで欠けている。本当は、専門的な観点から選手がおかれている環境や個々の選手の状況を調査し、そのうえで必要な場合は治療に結びつけ、あるいは予防の観点から対策を講じることが必要なのではないか。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

〈参考〉
「ギャンブル依存症対策推進フォーラム」
公営競技から野球賭博までギャンブル漬け 角界を解雇処分までなった「元関脇 貴闘力氏が語る赤裸々ギャンブル体験」
http://logmi.jp/112266

体験者と医師によるシンポジウム「ギャンブル依存症とはどんな病気なのか?」
http://logmi.jp/113073

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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