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金森努「マーケで斬る」

新商品が売れない…コンビニやスーパー、なぜ超定番商品とPBだらけ?棚めぐる競争熾烈

文=金森努/金森マーケティング事務所取締役、マーケティングコンサルタント
新商品が売れない…コンビニやスーパー、なぜ超定番商品とPBだらけ?棚めぐる競争熾烈の画像1コンビニの陳列棚(撮影=編集部)

 世の中の動きや新商品の狙い、ヒット商品が売れるワケなどを「マーケティング」を切り口として考えてみようという連載の第2回、今回は食品業界の動きに目を向けてみよう。

食品大手「定番集中」の理由と問題

『食品大手、新商品を大幅削減』という見出しが「日経MJ」(日本経済新聞社/3月16日号)に掲載されていた。明治、山崎製パン、キユーピー、森永乳業という名だたる食品大手が、新商品の上市を4~5割削減し、加えて既存製品も100~150品目にわたって撤退や生産終了を決めている。

「マーケティングコストをブランド力の高い既存の主力商品に回す」(同紙より)ことによって、「品数の絞り込みで物流や生産の効率も上げ原材料高などに対応する」(同)狙いだという。物流は「ドライバー不足で人件費が高騰することでコストがかさむ」(同)状況への対応だ。

 コンビニエンスストアスーパーなど流通の力が強くなっていることも、要因として指摘されている。

「コンビニでは売場のスペースが限られる上、新商品は売れ筋の定番品と競い合う。発売から短期間で売れ行きを伸ばさなければ改廃の対象になり売場に定着しにくい」(同)

 棚をめぐる競争環境の熾烈さが窺える。量販店でも「新商品は各社の定番品と小売が力を入れるプライベートブランド(PB)商品と競合する」(同)なかで、PBブランド「セブンプレミアム」が店内商品の過半を占める大手コンビニ、セブン-イレブンなどは食品メーカーにとってはもはや恐怖の対象だろう。

定番偏重で老いるブランド

 同記事では、そんな定番集中の問題点も指摘している。

「少子高齢化や人口減で食品各社は市場の成熟化に直面している。そうした中で売場では発売から30年や40年を超えるロングセラーが多い。こうした主力品に若い消費者を呼び込めなければメーンの消費者層が高齢化を続け、いずれは衰退する」(同)

 若年層の取り込みに必死な食品会社としては、日清食品の動きが顕著だ。「カップヌードル」は1971年発売、「どん兵衛」「U.F.O.」は共に76年の発売で、いずれも堂々の40年超えの大定番商品である。発売当時に飛びついてユーザーとなった世代は健康を気にしてブランド離れした。その世代にはなかなか理解しがたい珍奇なCMを最近連発しているのも、離れてしまった中高年の代わりに若年層を振り向かせたいがためであることは間違いない。

「食品業界では『10年に1つヒット商品が出せれば成功』(食品大手幹部)と言われるほどヒット商品は少ない。消費税増税を控え消費者の購買行動は刻々と変わる。変化の芽をとらえニーズを掴む販促が鍵を握る」(同)

 しかし、マーケティングは広告・販促(Promotion戦略)だけでどうにかなるものではない。やはり、商品(Product戦略)も必要なのだ。

「不」の字=ニーズに注目:ニッチで攻める明治の洋風冷蔵加工食品

 前掲の通り明治は定番シフトを行っている一方、ニッチなターゲットを狙った新商品で新市場を開拓しようと勝負を賭けている。「デイリーリッチ」ブランドの主力商品である「具だくさんクッキングソース」という商品がおもしろい。

 同商品は「野菜入りで、鶏肉やチーズを入れてフライパンで調理することでトマト煮などの洋風料理が簡単に作れる」(日経MJ<3月18日号>より)だが、簡単調理ソースの定番商品としては「味の素・クックドゥ」などがある。それに真正面から戦いを挑んで商機はあったのか。既存のクックドゥなどの商品は「具材が少なく別に揃える必要があったり和・中華の料理に偏ったりしており、具を増やした洋食の需要はあると見た」(同)という。

 ニーズのあるところには、必ず「不」の字が隠れている。具材の「不足」。洋食メニューの「不在」。そして何より、「『調理に時間はかけたくないが、出来合いの料理を出す罪悪感も感じたくない』という30~40代の共働き夫婦のニーズを探った」(同)ということが開発の原点のようだ。

 共働きゆえに時間が「不足」している、しかし夫に愛情「不足」とは思われたくない。まして、子供にレンジでチンしただけの食事を与えるのは「不憫」であると考えるターゲットのニーズを実に見事に掘り当てている。販促や商品を考える以前に、世の中の「不の字探し」をして、強いニーズを持ったターゲットを見つけ出すことが戦略としては一番重要なのである。

必要なのはニッチの積み重ね

 定番品やPBに負けて新商品は棚が取れないという問題も、工夫でクリアしている。自社のヒット商品「プロビオヨーグルト」で実績のある「スーパーの乳製品売り場の近くに専用コーナーを設け、約1500店で展開。店頭やイベントに出展しての試食販売で認知度を高める」(同)ほか、「調理に必ず必要なチーズや鶏肉の売り場に置くコラボ販売も展開する」(同)という。棚が取れなければ、つくればいいのだ。

 このニッチなターゲット向けの商品では、メガヒットは難しいかもしれない。しかし、消費者ニーズが細分化した今日、大衆(マス)向けにメガヒットを狙うこと自体がナンセンスだともいえる。むしろ、細かなニーズを拾い集めてターゲットを見極め、ニッチな商品を開発し、文字通り棚のすき間(ニッチ)を獲得するような活動の積み重ねこそ求められるのではないか。
(文=金森努/金森マーケティング事務所取締役、マーケティングコンサルタント)

金森努/金森マーケティング事務所取締役

金森努/金森マーケティング事務所取締役

有限会社金森マーケティング事務所取締役・マーケティングコンサルタント。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャービジネスとマーケティング)兼務。東洋大学経営法学科卒。大学でマーケティングに触れ、大手コールセンターに入社。顧客の「顧客の生の声」から、「この人はナゼ、こんなコトを聞いてくるんだろう」「ナゼ、こんなモノを買うんだろう」など、消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングの世界に踏み込む。その後、コンサルティング会社や広告代理店を経て、2005年に独立。マーケティング一筋四半世紀以上を過ごす。新商品の上市計画や売れない商品の復活プラン策定などを得意とする。コンサルの現場・教育・執筆では、一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

●著書
『図解 よくわかるこれからのマーケティング』(同文舘出版)
『“いま”をつかむマーケティング』(アニモ出版)
●共著書
『ポーター×コトラー 仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本』(TAC出版) 等

有限会社金森マーケティング事務所ホームページ

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