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江川紹子の「事件ウオッチ」第55回

【女子大生刺傷事件】から約1カ月――悲劇を繰り返さないためのストーカー対策とは

文=江川紹子/ジャーナリスト
【女子大生刺傷事件】から約1カ月――悲劇を繰り返さないためのストーカー対策とはの画像1金高雅仁・警察庁長官は記者会見で、今回の事件を防げなかったことについて「重く受け止める必要がある」としたうえで、これまでの教訓を全国的に共有していくと述べた(「警察庁の情報発信ポータルサイト」より)

 またも起きてしまった、ストーカーによる深刻な事件。東京・小金井市で、芸能活動をしていた女子大学生(20)が、ファンの男(27)に刃物で襲われて重体となった事件では、被害者は事前に警察に相談していた。警察庁長官は「重く受け止める」と述べたが、過去にも事前に警察に相談していたにもかかわらず、重大な結果を招いたストーカー事件が起きている。なぜ、同じことが繰り返されるのだろうか。

繰り返されるストーカー被害

 過去の事件としては、たとえば2012年11月に、神奈川県逗子市でデザイナーの女性が、かつて交際したことのある男に殺害された事件がある。男は、「お前だけ幸せになるのは許さない」「殺す」などのメールを女性に送り付け、脅迫容疑で逮捕された。その際に読み上げられた逮捕状から、男は女性の現住地と結婚後の姓を知った。

 執行猶予付判決を受けた後も、男は「精神的慰謝料を払え、婚約不履行だ」などのメールを送り付けた。女性は警察に相談したが、当時のストーカー規制法では「つきまとい行為」にメールでの嫌がらせは含まれていなかったことから、警察の動きは鈍かった。その後、メールは止み、ストーカー行為は終息したと思われたが、男は探偵社を使って女性の詳細な住所を調べ、自宅を襲った。

 その前年12月、長崎県西海市で、男が元交際相手の女性の母と祖母を殺害した事件でも、警察は相談を受けていた。女性の住まいが管内にある千葉県警習志野署が男に警告したが効果はなく、逆に男の行動はエスカレート。女性の友人などにも「居場所を教えなければ殺す」との脅迫メールが送りつけられるようになった。女性と家族が被害届を出すために同署を訪れたが、「一週間待ってほしい」と言われ、すぐに対応してもらえなかった。その10日後に事件は起きた。

 さらにその前年の10年2月に、当時18歳の少年が宮城県石巻市で元交際相手の少女の実家に押し入り、姉と友人の2人を殺害したうえに男性1人にも大けがを負わせた事件でも、宮城県警石巻署は少女側から12回にわたって相談を受け、2度少年に警告を発していた。

 13年10月に発生した東京・三鷹ストーカー殺人事件も、14年2月の群馬・館林市で女性が射殺されてストーカー行為をしていた男も自殺した事件でも、やはり被害者サイドから警察への相談はあった。

 そして今回の事件。警察の対応には、いくつもの問題点があった。

警察の不手際の数々

・警視庁武蔵野署が、事件前にツイッターへの執拗な書き込みなどについて被害者の女子大生から相談を受けていたが、「ストーカー相談」として扱わず、本部の専門部署にも報告しなかった。

・同署は、女子大生に電話で近況を尋ね、ライブ出演を知っていた。男が「ライブ等に押し掛け、トラブルを起こす可能性がある」として、女子大生の携帯番号を「犯罪被害防止等即時対応システム」に登録もしていたが、ライブ会場を入力していなかった。そのうえ、110番通報があった際、通信司令本部は携帯電話の位置情報を確認せず、警察官を被害者の自宅に向かわせ、現場到着が遅れた。

・この男は、以前にもアイドル活動をしていた別の女性のブログに、嫌がらせなどの書き込みを繰り返していた。女性から相談を受けた警視庁万世橋署が、男を特定して出頭を要請したが、書き込みが止まったため立件されなかった。警視庁では、この種の事案の相談があった場合、被害者や加害者の名前などを登録することになっていたが、同署は男の名前の入力を忘れていた。そのため、女子大生から相談を受けた武蔵野署が、過去に同様の事案がなかったかどうか検索した際にヒットしなかった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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