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宇多川久美子「薬剤師が教える薬のリスク」

最も高い「がん消失」率のがん治療薬誕生!抗がん剤よりはるかに効く!根治切除不能でも治療

文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士
最も高い「がん消失」率のがん治療薬誕生!抗がん剤よりはるかに効く!根治切除不能でも治療の画像1オプジーボ

 日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで命を落とすといわれています。日本人の死因トップであるがんの治療は、主に3大治療といわれる外科的手術、放射線治療、そして化学療法(抗がん剤治療)によって行われています。

 しかし、このがん治療が大きく変わる可能性が出てきたのです。日本の医療体系を覆してしまうかもしれない薬の名前は「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)といいます。がん細胞によってブレーキをかけられていた免疫細胞を解放し、自分の免疫力を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬(免疫チェックポイント阻害薬)としてオプジーボが承認されたのです。

 世界に先駆けて免疫チェックポイント阻害薬を実用化したのは、関西の中堅製薬会社である小野薬品工業です。

 本連載では、オプジーボに関して効果や副作用などを細かく検証してみたいと思います。今回は、オプジーボが誕生するまでの流れをみてみます。

オプジーボががんに効く仕組み

 2012年、「オプジーボが従来の抗がん剤と比べ、極めて有効」という論文が臨床医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載され、「過去30年で試みられたがん免疫療法で、最も高い奏効率(がん消失、または一定割合以上縮小した人の割合)」と称されました。この論文は、国際的な経済新聞である「ウォール・ストリート・ジャーナル」などでも大きく取り上げられ、世界的な革命技術として13年には米科学誌サイエンスがその年の画期的な研究に与える「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾りました。

 14年9月に台湾・台北市で開かれた「唐奨」の授賞式で、オプジーボの生みの親である本庶佑(ほんじょたすく)京都大学客員教授が表彰されました。唐奨は「東洋のノーベル賞」ともいわれている権威ある賞です。免疫学の第一人者である本庶氏のグループが、がんと戦う免疫機能を高める上でカギを握る「PD-1分子」を発見したことが評価されての受賞でした。

 この分子が、オプジーボを生み出したのです。オプジーボは、米医薬品会社のブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)と小野薬品が共同開発した薬です。日本では、小野薬品が世界に先駆けて14年7月、根治切除不能な悪性メラノーマの治療薬としてオプジーボの製造販売承認を取得しています。これにより、オプジーボは世界で初めて承認を取得した免疫チェックポイント阻害薬となったのです。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手もこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させています。

 がん細胞やウイルスなどと戦う免疫細胞は、攻撃を仕掛ける「アクセル」の役目と、相手が敵か味方かを判断して攻撃を抑える「ブレーキ」の役目があります。がん細胞は、免疫細胞から攻撃を受けそうになると、逆に免疫細胞のブレーキを働かせて自分を攻撃してこないようにしてしまうのです。オプジーボは、このブレーキが働かないようにして免疫細胞に本来の力を発揮させてがん細胞への攻撃を再開させるのです。

 もう少し詳しくそのブレーキがかかる仕組みを説明しましょう。

 免疫チェックポイントは、本来免疫の暴走を防ぐ仕組みのことで、これをがん細胞は悪用しているのです。がん細胞の表面にある「PD-L1」というタンパク質が、免疫細胞表面の「PD-1」というタンパク質をつかみます。するとPD-1をつかまれた免疫細胞はマヒして動けなくなり、がん細胞を攻撃できなくなるのです。オプジーボはPD-1をあらかじめブロックして、がん細胞のPD-L1がつかもうとしても、つかめないようにする薬なのです。

オプジーボ誕生までの紆余曲折

 オプジーボの開発は1992年に遡ります。本庶氏のグループは未知の分子を見つけ、PD-1と名付けました。その働きを突き止めるためPD-1を人工的に失わせたマウスに、関節炎や腎炎など、免疫が過剰に働くと起きる症状が現れることを確認し、99年にはPD-1が免疫抑制に関わっている仕組みを解明しました。

 本庶氏らは2002年、これらの成果を論文にまとめ「いずれ、がん治療はこの免疫療法が主流になるはずだ」と期待を膨らませましたが、論文はほとんど報道されなかったのです。

 薬の開発も、思うようには進みませんでした。開発を依頼した製薬会社はどこも前向きには捉えてくれませんでした。当時も、免疫システムを使うがん免疫療法は3大治療に並ぶ「第4の治療法」と期待されていましたが、大半は成功せず実現は夢物語といわれていたのです。

 逆風の中、本庶氏の恩師である京都大学早石修教授(当時)と付き合いのあった大阪の小野薬品が理解を示し、共同開発が始まったのです。

 しかし、まだ試練が続きます。薬をつくるには、PD-1分子の働きを邪魔する「抗体」が必要でしたが、小野薬品には抗体をつくる技術がありませんでした。抗体技術のある国内の会社13社に打診しましたが、すべてから断られてしまいます。

 国内では協力者が見つからなかったので海外に打診し、米メダレックスが抗体をつくってくれることになったのです。メダレックスは、がん免疫に取り組んでいた会社で、PD-1にも強い興味を持ってくれたのです。後に世界初のがん免疫薬「ヤーボイ」も創製されました。11年には、メダレックスがBMSに買収され、小野薬品とBMSのチームができあがりました。

 こうして、米ベンチャー企業との提携で抗体を入手することができ、オプジーボは誕生したのです。

日本発の新薬に世界が注目

 しかし、ヒトでの臨床試験もかなり苦労したようです。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは06年ですが、前述のとおりがん免疫療法自体が信頼されていなかったので、がん専門病院に臨床試験を頼んでも積極的には使ってもらえなかったのです。

 病院には、臨床試験中の抗がん剤が山ほどあり、オプジーボを積極的に使おうというところがなかったのは仕方がない状況でした。しかし、長い時間をかけ少しずつ患者さんの登録が実現していきました。すると、オプジーボは劇的な効果を示したのです。こうなると、医師の中でオプジーボの優先順位が最も上になりました。そこから臨床試験も加速度的に進み、オプジーボが実用化されるに至ったのです。

 免疫をつかさどるPD-1がつくり出す分子を「チェックポイント(関門役)」に見立て、オプジーボは免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれます。

 小野薬品には血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬がありますが、特許切れや後発薬の攻勢もあるなか、オプジーボ効果で小野薬品の市場評価は急速に高まっています。株価も今年に入って急騰しています。

「今後、数年でオプジーボのロイヤルティーだけでも年数百億円は堅い」「オプジーボは単独の薬で20年には予想売上高が83億ドル(約1兆200億円)に達し、世界3位になる」との分析もあります。

 がんの新たな治療法の扉を開け、超高額の薬価を叩き出したオプジーボ。日本発の免疫チェックポイント阻害薬に世界の目が注がれています。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

薬剤師として20年間医療の現場に身を置く中で、薬漬けの治療法に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は、自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に、薬に頼らない健康法を多くの人々に伝えている。『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)、『薬が病気をつくる』(あさ出版)、『日本人はなぜ、「薬」を飲み過ぎるのか?』(ベストセラーズ)、『薬剤師は抗がん剤を使わない』(廣済堂出版)など著書多数。最新刊は3月23日出版の『それでも「コレステロール薬」を飲みますか?』(河出書房新社)。

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