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江川紹子の「事件ウオッチ」第58回

現実味を帯びてきた【憲法改正】論議のために自民党は改憲草案を引っ込めよ

文=江川紹子/ジャーナリスト
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現実味を帯びてきた【憲法改正】論議のために自民党は改憲草案を引っ込めよの画像12012年に発表された自民党の憲法改正草案。今こそ現憲法との違いを確認しておきたい(画像は自民党HPより)。

 今回の参議院選挙で、「改憲勢力」が、憲法改正発議に必要な「3分の2」の議席を確保したという。選挙期間中からしばしば用いられている、この「改憲勢力」という言葉だが、実にわかりにくい。マスメディアが選挙報道で使う際には、自民、公明、おおさか維新、日本のこころを大切にする党を指しているが、この4党が同じ方向を向いているわけではなく、果たしてひとつの「勢力」と呼べるのか、かなり疑問だ。また、「改憲勢力」には入っていない民進党の中にも、憲法を変えたい人はいる。

 こういうくくり方をすることで、「改憲勢力vs.護憲勢力」という、一見わかりやすい構図を提示したつもりだろうが、実態を反映しないキャッチフレーズは、国民の問題への理解や思考をむしろ妨げるのではないか。

 そのうえ、参院選の期間中は、自民党の徹底した“争点隠し”戦術もあって、国民にはこれが争点のひとつと言われても、何がどうなるのか、具体的イメージがつかめなかっただろう。選挙中は「改憲」を封印していた安倍晋三首相は、選挙結果が出て、改憲への意欲を示した。「アベノミクス解散」を標榜して総選挙を行い、経済再生を前面に押し出して選挙戦を戦いながら、その後には一気呵成に集団的自衛権の行使を含む安全保障関連法の制定に突き進んだ時と、同じパターンだ。政策を進めていく与党として、これは国民に対して誠実な態度とはいえない。

 一方、選挙期間中は「『3分の2』を許せば、必ず憲法改正をやってくる。こういう道に踏み込ませてはならない」と訴えていた民進党の岡田克也代表は、選挙後に「3分の2阻止」は「選挙で戦うスローガンということだ」として、「憲法改正、あるいは議論そのものを一切しないと言っているわけではない」と述べた。これは、民進党を「護憲勢力」と信じて一票を投じた人たちに対する裏切りではないのだろうか。

「解釈改憲」の責任を負うべきは

 与野党とも、こうやって国民を煙に巻きながら、それでも今後、憲法改正は具体的な論議に入るようである。安倍首相は参院選の後、「憲法審査会で議論し、どの条文をどのように変えるか集約されていく」と述べている。「現行憲法にかくかくしかじかの点で不具合が生じたので、改正が必要になった」という論法ならわかるが、憲法を変えるということが最大の目的と化し、そのために変えやすいところを探していくというのは、いかがなものかと私は思う。

 とはいえ、国民が憲法の成立過程や、それぞれの条文が自分の国や自身の生活にどのように関わっているかをじっくり学んだり、現代の社会状況を踏まえて現実的な議論をすることは、決して悪いことではない。現実的で建設的な議論さえも忌避してきたのがこれまでの「護憲勢力」で、それが逆に正規の手続きによらない「解釈改憲」を許してきた一因でもあろう。

 憲法9条について、自衛隊の存在を認めつつ、個別的自衛権を行使するために最小限度の実力を保持する旨の改正を早くに行っていれば、閣議決定によって集団的自衛権の一部行使を認めるような、立憲主義を損なう異常事態は防げたかもしれない。憲法改正の手続きを避け、内閣法制局長官の首をすげ替えて「解釈改憲」を強行した与党の姑息な対応が最も批判されるべきだと思うが、「護憲勢力」にも反省すべきところがあるはずだ。

 もっとも、憲法の条文を一言一句変えずにきたからこそ、自衛隊は海外で人を殺しも殺されもされず、日本の平和国家としての立場は守られてきたと考える人もいるだろう。

 憲法論議をするのであれば、それぞれの考えを持った人たちが、仲間内だけの話で盛り上がるのではなく、異なる意見の人たちが、まずは相手の意見を聞きつつ、時に自分の考えを修正し、時に人を説得しながら議論を深めていく、貴重な機会にしたい。

現代社会における憲法のあり方とは

 ただ、そのような柔軟で幅広い国民的な論議をする際に、最大の障害となるのが自民党の「憲法改正草案」だと思う。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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