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中村芳平「よくわかる外食戦争」

モスのライスバーガー、イタリアで人気爆発…ヴィトン本社隣へ出店は断念でも世界進出加速

文=中村芳平/外食ジャーナリスト
モスのライスバーガー、イタリアで人気爆発…ヴィトン本社隣へ出店は断念でも世界進出加速の画像1モス代表取締役・取締役会長国際本部管掌・櫻田厚氏

 モスフードサービス(東京都品川区大崎)は2月、社長交代と中期経営計画(2016~18年度)を発表した。中計では「日本発のフードサービスグループとして世界ブランドになる」を長期経営目標とした。そして以下の3つを強調した。

・価値観(経営理念・創業の心)を共有した本部と加盟店の絆、すなわちモス型FC(フランチャイズ)システムを磨き上げ、モスブランドを盤石にする
・グローバル展開の基礎を確立する
モスバーガーに次ぐ新ブランドの確立を目指す

 ちなみに18年度の数値目標はFCを含む国内モスバーガー事業全店売上高が1063億円、海外事業のそれが259億円、その他飲食事業のそれが53億円だ。

 さて、モスバーガーの店舗数は9月30日現在、国内直営で54店、FC加盟店で1307店となっている。モスは海外事業では8カ国・地域に333店舗を展開しているが、成功しているのは244店舗を展開する台湾の合弁事業にとどまる。このほかの国の店舗数は以下のとおりだが、規模的にはどこも小さい。

・香港:18
・インドネシア:2
・シンガポール:31
・韓国:13
・タイ:4
・中国:15
・オーストラリア:6

 モスではモスバーガーを「世界のブランド」に成長させるために既存進出国の再成長戦略に加え、アジア、オセアニア、欧州、北米など新規国への進出を検討、準備している。

 6月にモス代表取締役・取締役会長国際本部管掌に就いた櫻田厚氏はもともと、「パリのシャンゼリゼ通りにあるルイ・ヴィトン本店の隣にモスバーガーを出店、モスの旗を立てたい」とよく語っていた。櫻田氏はそれによって「モスバーガーを世界のブランドに育てる」構えだった。実際に海外事業の担当者に命じて店舗物件を探させていた。

 そんなモスが欧州への出店に手応えを得たのは、昨年5月にイタリアで開催されたミラノ万博に出店した店舗で、ライスバーガーの人気が非常に高く、モスバ出店を望む声が多く聞かれたことがきかっけだった。

 そこで今回は本連載前回記事『モスバーガー、あえて現場経験不足の新社長抜擢の秀逸戦略…世界進出本格始動へ』にひき続き、ミラノ万博へ出店の感想、今後の海外展開などについて櫻田氏に話を聞いた。

ミラノ万博でライスバーガーが大ヒット

――ミラノ万博は「地球に食料を、生命にエネルギーを」という「食」をテーマに、15年5月1日~10月31日(184日間)に開催されました。期間中の入場者数は2150万人。日本からは政府の協力要請に応じ日本フードサービス協会(JF)の会員企業のCoCo壱番屋、柿安、サガミチェーン、人形町今半、美濃吉、吉野家ホールディングス(京樽)、モスバーガーの7社がJFコンソーシアムを結成して出店しました。

櫻田さんは当時JF会長でまとめ役を務め、モスは5月1日~7月31日の前半3カ月間出店しました。日本館フードコートは8~9時間待ちの大人気で、座席数が全体で160席しかないのに1日のレジ数が2500~4000を上回り、売上高は予想の3~4倍に達したといわれています。モスの店舗はどのような状況だったのですか。

櫻田厚氏(以下、櫻田) ミラノ万博は13年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことが追い風で、ものすごい人気でした。店舗にはモス本部、直営店店長、FC店長などベテランの精鋭35名を1班~8班に分けて送り込み、3カ月間で8交替させました。月商は平均1600万円。尻上がりによくなるという感じでした。とにかく、選抜されたメンバーは一生で1回経験できるかどうかという“貴重な経験”をしました。それはまたモスの貴重な体験として語り継がれ、社員のスキルやモチベーションの向上に役立つと思います。

――モスバーガーの店舗では「和食」を意識し、日本ならではの商品として「モスライスバーガー焼肉」「モスライスバーガー海鮮かきあげ」「モスライスバーガーテリヤキチキン」の3品種を販売、大人気になったそうですね。

櫻田 ええ。ライスバーガーは日本のお米(和食)を原料にしてつくったハンバーガーです。パンを原料にしたハンバーガーならどこにでもありますが、お米を原料にしたライスバーガーはモス独自のものです。イタリアやEU(欧州連合)などから来店した客は、「こんなに変わったハンバーガーを食べるのは初めて」「ライスバーガーはクセになるおいしさだ」と、大きな話題になりました。現地のテレビでも放映され、尻上がりに来客が増え、大人気になりました。欧州ではモスバーガーへのニーズが高いと感じ、欧州へ出店しようと考えています。

――欧州への出店といえば以前、フランス・パリのシャンゼリゼ通りにあるルイ・ヴィトン本社の隣にモスバーガーを出店し、モスの旗を立てたいとおっしゃっていました。

櫻田 確かにそう言っていました(笑)。けれども、実際ルイ・ヴィトン本社の近くで物件を調べたら、2階建てで家賃がなんと月8000万円、年間で約10億円かかることがわかりました。日本では銀座でも考えられない高家賃です。仮にその物件に入るとすれば、モスバーガーを1個5,500円で売る必要があるという試算になりました。さすがにシャンゼリゼ通りへの出店は無理で、断念しました。パリでは別の物件を探しています。

――欧州に出店する方針に変わりはないということですね。

櫻田 はい。今年は欧州市場の情報収集・整理の年とし、来年に準備し再来年の18年には出店したいと考えています。出店先はEUの単一市場。イタリア・ミラノかフランス、ドイツ、ベルギー、スペインなど陸続きの立地を考えています。というのは台湾に出店した時と同じように、食材加工・物流工場を開設しなければならないと考えているからです。EUで店舗展開する上で、食材加工工場・物流拠点をどこに置くのが最適か、調査しています。

――北米進出も視野に入れているのでしょうか。

櫻田 はい。日本の外食価格はデフレが20年続いたことで、外国より割安になってきています。例えばランチセットですが、ファストフードも含め500~700円の設定です。ところが、イタリアのミラノではランチセットで1200~1300円の設定で、日本より2~3倍も高いのです。この傾向は欧州、北米なども同じで、日本の外食価格は安く、海外に出ても競争力は高いと考えるからです。近年の和食ブームも追い風で、日本の外食企業が海外でブランド力を高めるチャンスがきていると思います。

モスの海外事業は第2の創業へ

――日本のファストフード企業には、米国発祥のマクドナルドやケンタッキーフライドチキン(KFC)のような世界的な外食ブランドはまだひとつもありません。日本発祥のファストフードとして、モスバーガーはアジアを中心に8カ国・地域に展開しています。しかし、まだ進出している国・地域は少なく、店舗数もトータルで333店舗にとどまっています。今後、どう展開されるのですか。

櫻田 はい。最初に台湾ですが、91年に第1号店を出してから25年経ち、250店舗近く展開してきました。台湾の人口は2350万人、スターバックスが約350店舗、マクドナルドが約350店舗です。台湾の国民性は日本びいきであり、300店舗以上は出店できるのではないかと見ています。

 次にシンガポール。シンガポールにはモスフード・シンガポール社(独資、100%子会社)を設立、93年に第1号店を開店、現在までに31店舗展開してきました。シンガポールも台湾と同じで現地採用のプロパーの人材が取締役を務めています。シンガポールの人口は約550万人。将来的に50店舗まで展開できると思います。規模は小さいですが業績は良く、上場できる経営内容を備えています。

 その次が香港。香港へは100%独資で進出。06年に1号店を出店。現在18店舗展開しています。香港の人口は約730万人。将来的に50店舗以上出せると見ています。シンガポールより上に行くのは間違いないでしょう。また、香港には中国本土進出を睨んでもう1社合弁会社を設立しています。もともと中国には台湾の合弁企業の安心食品服務で出店していました。だが市場が非常に大きく将来1000店舗くらい出せると予想。その場合安心食品服務の台湾ルートからだけでは大量出店に限界があると判断。香港ルートも活用して大量出店に備えたのです。香港のトップには日本に帰化した中国人を就け、広東省に進出しました。

 現在中国は15店舗展開、今年7月にも広州にモスバーガーの新業態を出店しました。しかし中国市場は予想通りに進んでいません。モスが93年に合弁企業で中国に進出した頃は上海のワーカーの月給は6000~7000円。現在は4~5万円に上がっています。もっとモスの売上高が上がってきてもいいのですが、思惑通りにはいっていません。

 海外のFC加盟店や合弁企業のトップとは、たびたびお会いしてコミュニュケーションをとる必要があると思っています。中国市場は15店舗が福建省、上海市、広東省など3つに分散していて、食材も各自現地調達。食材加工工場・物流センターがないのも苦戦の原因だと思います。今後1~2年でどうするかを見極め、具体的な対策を打ち出したいと考えています。

――ほかの国はどんな状況ですか。

櫻田 韓国への出店は13年に1号店出店と遅かったのですが、合弁企業「モスバーガーコリア」(メディアウィルホールディングス70%、モス30%出資)の立ち上がりが順調で、現在までに13店舗展開しています。韓国の人口は約5000万人。多店舗展開のチャンスはあると思っています。

 ところで07年に進出したタイのバンコク市は4店舗、08年に進出したインドネシアのジャカルタ市は2店舗にとどまり苦戦しています。それから11年に進出したオーストラリアは6店舗展開していますが、現地は物価や人件費が非常に高く、多店舗化するのが非常に難しい環境にあります。

 モスが進出している8カ国・地域はそれぞれの事情や課題を抱えています。そういう問題を1~2年で見極め、最善の策を打ち出す必要があります。

――最後に今後のモスの目指す方向について教えてください。

櫻田 最近、コンビニエンスストアが100円のいれたてコーヒーを大ヒットさせたり、弁当コーナーを充実させたり、外食産業から顧客を奪うという垣根なき戦争がクローズアップされています。しかし、コンビニの店舗数は全部合わせても約5万5000店にとどまります。これに対し全国の外食チェーン店・飲食店の数は67万店にのぼります。飲食店の最大の特徴は地域社会に密着し、それぞれ異なる個性的な顔を持ち、常連客を掴んでいることです。

 コンビニは確かに強力なライバルですが、地域に根差した飲食店は強いし、今後生き残っていくためには常に新しい価値を提供することが重要だと思います。コンビニより20~30%高い料金を払ってでも、その飲食店に行きたいと思わせる魅力を持つことが大切だと思います。

 モスは「人間貢献・社会貢献」を経営理念に掲げ、「食を通じて人を幸せにすること」を経営ビジョンに掲げています。モスは1972年に創業、来年創業45周年を迎えます。愚直に経営理念を守り、経営ビジョンを実践してきたことで、現在のモスがあります。私はモスのブランドを世界に広め、モスを100年企業に育てることが使命だと確信しています。

 私は世界中の多くの人から、「モスがあってよかった」「モスバーガーがあって幸せだ」と言われたいと思っています。
――本日は長時間ありがとうございました。
(文=中村芳平/外食ジャーナリスト)

中村芳平/外食ジャーナリスト

中村芳平/外食ジャーナリスト

●略歴:櫻田厚(さくらだ・あつし)

1951年、東京都大田区生まれ。高校2年生の時に父が急逝し大学進学を断念、アルバイトして家計を助ける。都立羽田高校卒業、広告代理店勤務。72年に14歳年上の叔父(モスフードサービス創業者・櫻田慧)に誘われ「モスバーガー」の創業に参画。フランチャィズ(FC)オーナーなどを経て、77年に同社入社。直営店勤務を経て教育・店舗開発、営業などを経験。90年、初代海外事業部長に就任、台湾の合弁事業の創業副社長として足掛け5年半でモスバーガーを13店舗展開。1985年の株式上場と244店舗展開(16年9月末)、そして同社の海外展開の基礎をつくった。慧氏は97年にくも膜下出血で急逝、享年60。櫻田氏は98年社長に就任、14年会長兼社長に就任し、今年6月、社長を常務取締役執行役員の中村栄輔氏(58)に譲った。社長交代は18年ぶりのことだ。櫻田氏は中村氏に国内事業、新規事業を任せ、海外事業に全力を注ぐ構えだ。「モスバーガー」を世界のブランドにするという、夢の実現に向かって挑戦しようとしている。

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