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新見正則「医療の極論、常識、非常識」

「健康な女児はさっさと風疹に感染させるべき」は暴論なのか?悲惨な妊婦の罹患を防ぐ

文=新見正則/医学博士、医師
「健康な女児はさっさと風疹に感染させるべき」は暴論なのか?悲惨な妊婦の罹患を防ぐの画像1「Thinkstock」より

 私がインターネット上で投稿すると必ず炎上する文言は、「風疹にはさっさと感染すればいい」というものです。ところが、「妊娠可能年令の女性で風疹抗体価を上げることが必要」という表現をすれば、まったく問題にはなりません。私にとっては同じ思考過程にあるフレーズです。

 まず、風疹は麻疹(はしか)と違って、健康人はまず死亡することはありません。ですから、風疹に実際に罹ることが一番上等なワクチン効果(強力な免疫力)を発揮します。風疹ワクチンは病原性を抑えた生ワクチンです。ちょっと感染させて免疫を誘導する作戦です。ですから、本物の風疹に感染したときに較べると、風疹を退治する抗体の持続効果は長くありません。

 現在では効果を増強するために、2回接種を行っています。それでも本物の風疹に感染したことによる抗体の誘導効果と持続効果には劣ります。もし国民全員に10年毎にワクチンを打ち続ければ、ワクチンによる抗体価の減少を阻止し、再度上昇に転じることができます(ブースター効果)。風疹の自然発生が激減した現状では、本物の風疹によるブースター効果はほとんど期待できません。

 風疹のワクチンを全世界で打って、そして風疹がこの世から退治できれば、大成功です。天然痘は誰もが罹りたくない致死率の非常に高い病気でした。だからこそ全世界で種痘(天然痘に対するワクチン)接種を行い、天然痘は退治できました。

 ところが、風疹は健康な子供が罹っても怖くありません。妊婦が罹ると先天性風疹症候群という悲惨な病気を胎児に引き起こします。ですから、健康な女児は全員風疹に罹患させ、そして罹患しなかった女性にワクチンを何回も接種すればいいという作戦も成り立ちます。

ますます高まる危険

 発展途上国の一部では、国家の経済状況の問題から、風疹ワクチンの接種は積極的には行われません。すると風疹は発生します。むしろどれくらい風疹が発生しているかも、そんな国では把握することは難しいのです。なぜなら、通常は病院に行かなくても自然に治るからです。

 以前はそんな国からの来訪者はいませんでした。ところが労働人口も世界規模で移動し、日本を訪れる観光客は増加の一方です。また、邦人もそんな国を訪れます。海外で風疹に罹って、潜伏期に空港の検疫をくぐり抜ける危険は、これからますます増加します。

新見正則/医学博士・医師

新見正則/医学博士・医師

1959年生まれ
1985年 慶應義塾大学医学部卒業
1985年~ 慶應義塾大学医学部外科
1993~1998年 英国オックスフォード大学医学部博士課程
1998年~ 帝京大学医学部外科に勤務

 幅広い知識を持つ臨床医で、移植免疫学のサイエンティスト、そしてセカンドオピニオンのパイオニアで、モダン・カンポウやメディカルヨガの啓蒙者、趣味はトライアスロン。著書多数。なお、診察希望者は帝京大学医学部付属病院または公益財団法人愛世会愛誠病院で受診してください。大学病院は紹介状が必要です。

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