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片山修のずだぶくろトップインタビュー 第6回 津賀一宏氏(パナソニック社長)前編

パナソニック津賀社長が激白、経営危機で衝撃的「負け組」宣言からの全否定改革と復活

構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
パナソニック津賀社長が激白、経営危機で衝撃的「負け組」宣言からの全否定改革と復活の画像1津賀一宏(つが・かずひろ)/パナソニック代表取締役社長:1956年、大阪府生まれ。大阪大学基礎工学部生物工学科卒業後、79年に松下電器産業(現パナソニック)入社。86年、カリフォルニア大学サンタバーバラ校コンピュータサイエンス学科修士課程修了。01年マルチメディア開発センター所長、08年パナソニックオートモーティブシステムズ社社長、11年AVCネットワークス社社長、パナソニック代表取締役専務などを経て、2012年6月より現職。

 2012年3月期、パナソニックは7721億円の巨額赤字に陥った。直後の12年6月に社長に就任したのが、津賀一宏氏だ。本業の不振は深刻で、13年3月期も7542億円と2期連造の巨額赤字を計上。再浮上は絶望的に思われた。

 しかし、津賀氏は就任直後から確かな改革の手を打った。本社機能の見直しや事業部制の復活など構造改革に加え、プラズマテレビからの撤退、B2Bへのシフトなど事業内容も見直した。結果、14年3月期にはV字回復を達成。18年に「売上高10兆円」の大風呂敷を広げて見せた。ところが16年3月、津賀氏はあっさりと「10兆円」の旗をおろした。いったい、何があったのか。津賀社長に話を聞いた。

「見える化」

片山修(以下、片山) 津賀さんが社長に就任されてから、4年半がたちました。手応えはどうですか。

津賀一宏氏(以下、津賀) 経営体質は、強くなりましたね。就任して初めの1年間で行ったのは、傷んでいた事業の見直しです。「傷んでいた」事業とは、時代の変化が激しいにもかかわらず、自分たちの変化が不十分だった事業です。内向きになった結果、社会が求めるものと、自分たちが提供できるもののギャップが大きくなっていた。「見える化」することで、社会の変化に機敏に対応できるかたちに変えていきました。

片山「見える化」の一例として、ビジネスユニットに「P/L(損益計算書)」と「B/S(貸借対照表)」をもたせ、自主責任経営の単位としました。「赤字事業をなくす」として、テレビ事業をはじめ、半導体や携帯電話などの赤字事業の止血を徹底した。

津賀 事業の縮小や構造改革をして、世の中が向いている方向へリソースを向けていきました。

片山 2期連続巨額赤字の最中の13年、津賀さんはB2Bに大きく舵を切りました。車載事業を18年に2兆円にするとぶち上げた。

津賀 デジタルコンシューマーが負けているので、次はどこへいくかというので、まず車載にいきました。

片山 従来、自動車と電機は部品メーカーのすみ分けが明確でした。自動車部品は系列部品メーカーが圧倒的に強く、電機メーカーはほとんど食い込めなかった。しかし、車載電子部品は成長市場と見るや、そこに思い切って突っ込んだわけですね。

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津賀 一気に車載を攻めるために、関連事業をオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社にすべて集めました。車の部品は、どの機種の何年モデルから搭載されるかが早い段階で決まります。受注すれば、クルマが売れただけ、われわれにも収入が入る。コンシューマー商品と違って、リスクが小さい。リスクがあるとすれば、納期通りにモノを開発、生産し、お客さまであるカーメーカーにきっちりお渡しできるかどうかです。

片山 自動車産業を取り巻く環境は今、自動運転技術や環境技術、さらにAI(人工知能)やIoT(モノとインターネットの融合)化など、目まぐるしく変化しています。一瞬でも気を緩めると置いていかれてしまう。油断ができない。

津賀 車載部品は、世界中の関連企業が熾烈な開発競争を繰り広げています。しかも、家電と比較すると、安全品質はケタ違いに高い。厳しい競争を勝ち抜くために、開発人材は、デジタルテレビや携帯電話、研究所などから、かなりの人数をオートモーティブ分野に送り込んで、知恵や技術を集結しました。もう、送り込み過ぎるくらい。

現在、売上が倍になるくらいの件数を受注しています。技術開発はもちろん、品質や納期についても、決して安心はできません。きちんとこなしていくことが最優先です。

テスラの存在

片山 パナソニックの車載事業といえば、イーロン・マスク氏率いる米EV(電気自動車)メーカーのテスラ・モーターズに電池を供給しています。堅実なパナソニックとシリコンバレーのベンチャー企業の取り合わせは意表を突きました。津賀さんはとんでもない決断をしたものだ、本当に大丈夫なのかと心配になりましたよ(笑)。

 18年に発売される予定のテスラ「モデル3」用の電池を独占供給する契約を交わし、パナソニックは、14年6月に着工した米ネバタ州の“ギガファクトリー”に総投資額2000億円ともいわれる巨額投資をしています。世界的に次世代自動車の本命がEVに傾きつつあるなかで、津賀さんの決断は先見の明があった。

津賀 いやいや、この決断が、今後に効いてほしいとは思っていますけどね。ディーゼル車が強いフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題は、EVの追い風にもなりましたしね。

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 しかし、次期米大統領にドナルド・トランプさんが就任するなかで、テスラをはじめ、EVのビジネスがこのまま順調に伸びるかどうかは不透明です。

片山 確かに、リスクも大きい。次世代環境対応車の本命は、まだEVと確定したわけではない。それでも、電池工場には継続投資が必須ですからね。

津賀 ギガファクトリーは、2016年11月からバッテリーセルの試作を開始しました。確かにかなりの額を投資していますが、それでも、1年間に生産できる電池の数は知れています。イーロンCEOはもっと先を見ている。「モデル3」が成功すれば、彼がさらなる拡大を目指すのは間違いない。そのとき、どこまで応じるかです。

片山 パナソニックは、スペインの自動車部品大手フィコサインターナショナルの株式49%を取得するなど、車載事業のアクセルは全開ですね。

津賀 それでも、パナソニックの車載事業は規模からいえば世界のプレーヤーのトップ10にも入っていません。18年に売上高2兆円といっていますが、それでようやくトップ10に入るくらいです。

 以前、当時VW社長だったマルティン・ヴィンターコルンさんにお会いしたら、「パナソニックの車載事業の売上は小さすぎる」と言われました。「こんな小さな売上では、経営者がいつ事業を引き上げるかわからない。大事な仕事はまかせられない」と言うんですね。片手間に車載事業をやっていると見られては、仕事はもらえません。

片山 パナソニックとテスラは、米ニューヨーク州バッファロー工場で太陽電池セルとモジュールの生産を開始しますね。

津賀 今夏、生産開始予定で19年までに1GWの生産能力に拡大します。もっとも、パナソニックがソーラー発電で勝負できるのは、三洋電機を完全子会社化したからこそです。旧三洋電機時代から続くソーラーパネルの事業は、技術、ものづくり力、生産設備など高いレベルのものを持っています。これらを使って、いかにテスラに協力できるかを考えていきます。

片山 それにしても、パナソニックは、よくぞテスラのスピードについていきますね。

津賀 テスラは、EV、ソーラーパネル、蓄電池を三位一体型で考えている。ミッションを非常に重要視する企業ですから、ビジネスの考え方はシンプルですよ。

片山 テスラのミッションは、「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する」です。パナソニックも省エネや環境技術は世界最先端ですから、その意味でテスラと親和性は高い。今後、IoTやスマートハウスでコラボレーションできますね。

津賀 その可能性はありますね。

「利益成長」重視

片山 16年3月に発表した中期経営計画では、18年に「売上高10兆円」の目標を撤回しましたね。あれは、なぜですか。

津賀 就任後に事業の見直しを進めて、社会とわれわれの事業の間のギャップを埋め、ここから成長できると考えて積み上げたのが、14年度の事業方針で示した18年に「売上高10兆円」でした。しかし、実際には、大きな悪いところはつぶしたが、小さな悪い部分、つまり社会が変化していて、われわれの変化との差が大きくなっているところは十分につぶすことができていなかった。昨年の3月の発表では、それらを改めて見直した。売上高重視から、「利益成長」重視に舵を切った意味もあります。

片山「売上高10兆円」の代わりに、18年度に家電・住宅・車載で3000億円、B2Bで3000億円の営業利益を掲げた。「10兆円」もそうですが、経営トップが数字を掲げて企業全体を引っ張ることは、常にリスクを伴います。トップの一言は重いですからね。

津賀 確かに、数字の目標は難しい。「車載事業に注力する」「B2Bに力を入れる」などと方向性を示すほうが簡単です。

片山 数字といえば、私は長くパナソニックを見てきましたが、90年代以降は、中期経営計画は未達が多かった。20年近くにわたって、挫折の連続だった。

津賀 そうなんです。ですから、私が社長になった翌13年から15年にかけての中期経営計画の数字は絶対に失敗できなかった。達成可能かつシンプルな目標として、「営業利益3500億円以上、営業利益率5%以上」「フリーキャッシュフロー3年累計6000億円以上」としました。要は、資金を潤沢にもって、再投資ができる体質に変えようとしたんです。この目標は1年前倒しの2年で達成しました。

“負け癖”からの脱出

片山 90年代の度重なる中期経営計画の未達で、パナソニックは“負け癖”がついた。組織は巨大化し、社員一人ひとりに「危機感を持て」といっても、なかなか難しい状態だった。こうした体質は、近年変わりましたか。

津賀 数字面から見れば、経営体質は間違いなく強くなっています。

片山 企業風土はいかがですか。

津賀 これも間違いなく変わりました。このままではダメなんだという意識が生まれたと思います。社内の意識を変えるために、テレビやデジタルAVCなど、例えるならば「士農工商」の「士」だった事業、つまりパナソニックの中心だと思われていた事業をことごとく否定しました。「もはやテレビはコアではない」とかね。

片山 そう。12年10月に2年連続の巨額赤字の予想と無配を発表したとき、「負け組」とか「普通の会社ではない」とまでおっしゃった。私も会見に出ていましたが、びっくりしました。社員はなんとなく自覚していても、社長に「負け組」と宣言されたらショックだったと思います。

津賀 当時の事業部は、販売には直接携わりませんから、販売は伸びていないにもかかわらず「他社より技術的に優れた商品をつくればいいんだろう」という意識が強かった。でも、それは違う。指摘しないとわからないので、「お前らは負けてるんやぞ」と言ったわけですね。私はもともと事業部の開発部分にいましたが、その開発出身者が開発を否定したことになる。しかし、それをやらないと、始まらないと思ったんです。

片山 もう一つ私が驚いたのは、就任直後の10月に門真の本社機能を7000人から130人に大幅縮小されましたよね。門真に手をつけるなんて、パナソニックでは前代未聞でしょう。

津賀 以前の本社は、社員にとってステータスだったり、本社の人間は各事業部よりも上にいる意識があったかもしれません。でも今は本社が130人になったからといって、本社がエラいとは、本社にいる人間も周りの人間も思っていないですよ。

片山 本社の人間の上から目線を改めるだけでも、大変な労力がかかるというのは、他社でもよく耳にする話です。

津賀 そこらあたり、社内の意識は完全に変わりましたね。
(構成=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

【津賀さんの素顔】
片山 ストレス解消法は何ですか。
津賀 ゴルフでリフレッシュですね。まあ、普段から家に帰れば仕事のことは考えない。書類も見ない。仕事のときは集中してする。昔からそういうタイプです。

片山 ご自分の性格を一言でいうといかがですか。
津賀 せっかち。それから、モノゴトの本質は何なのか、つねに関心があります。理系なんでね。

片山 お好きな食べ物、嫌いな食べ物はありますか。
津賀 それを聞いて何になるんですか(笑)。まあ、和洋中、好き嫌いなく、何でも食べますよ。
片山 炭水化物をとらない、という経営者もいらっしゃいましたが。
津賀 真逆ですね。炭水化物は大好き。大阪出身ですから、麺類、粉もの、大歓迎ですよ。

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片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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