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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

【一人の男の熱意】過疎地で病院や介護施設を次々つくる男が、日本の医療を変え始めた

文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

 高齢化が進む日本で、医療・介護の需要は高まる一方だ。
 
 ところが、サービスを提供する専門家の数が不足している。介護職員にいたっては、団塊世代が後期高齢者になる2025年には38万人も不足すると、厚生労働省は推計している。どうすればいいのだろう。

 私は、当事者ができることからやるしかないと思う。この点で、注目している組織がある。それは、福島県のひらた中央病院グループだ。

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 このグループは医療法人誠励会、社会福祉法人啓誠福祉会、同千翁福祉会、公益財団法人震災復興支援放射能対策研究所の4つの組織から構成される。グループを率いるのが佐川文彦氏だ。佐川氏は柔道整復師。いわき市内で開業しようとしたが、組合から目をつけられ、阿武隈高地の山中で開業することとなった。

 佐川氏の経営する整骨院は繁盛したようだ。ただ、整骨院では医療行為はできない。近隣に整形外科の専門医はいない。患者から頼まれ、佐川氏は週に一度バスを仕立てて、いわき市内の専門医を受診できるようにしたという。

 佐川氏は「この地域が生き残るには医療機関が必要」と考えるにいたった。佐川氏は凄まじい行動力の持ち主だ。1993年には旧知の西川正直医師とともに医療法人誠励会を立ち上げ、小野町にクリニックを開設した。98年には三春町にも立ち上げた。

 その経営手腕は近隣でも知られるようになった。2001年には、経営難に陥った平田村の病院の経営を引き継いだ。これが現在のひらた中央病院である。病床数は142床で、内訳は一般病床34床、医療療養型88床、介護療養型20床だ。阿武隈高地の南部では、小野町にある公立小野町地方綜合病院(病床数119床)と並ぶ中核病院だ。この地域は山間部の過疎地だ。いわき市、郡山市に行くには車で50分以上かかる。この2つの病院の存在は住民にとって命の綱だ。

私財を投入して無料の甲状腺検査

 私が佐川氏とお付き合いするようになったのは、東日本大震災がきっかけだ。私たちの研究室は、震災直後から福島県浜通りで住民の健康診断や内部被曝検査や放射線相談に乗っていた。この話を聞きつけた佐川氏が「協力してほしい」と言ってきたのだ。

 東京電力福島第一原発事故は、福島県内の広い地域を汚染した。平田村周辺の住民も放射性物質による汚染を心配した。ところが、原発の北西に位置する飯舘村などの自治体と比較して、汚染度が軽度だったため、福島県や政府は、この地域の対応をする余裕がなかった。この結果、この地域の住民は「国や県は自分たちを見捨てた」と感じるようになった。

 佐川氏は動いた。11年9月にはホールボディカウンターを用いた内部被曝検査を、ひらた中央病院で開始した。翌年6月には私財を投じ、公益財団法人震災復興支援放射能対策研究所を立ち上げた。13年3月には、内分泌専門医を招聘し、無料の甲状腺検査を開始した。私たちは、一連の作業をお手伝いした。同研究所からは、震災後7報の英文の論文が発表され、世界の研究者と情報を共有している。

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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