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富家孝「危ない医療」

病院とヤクザ、知られざる「ズブズブの関係」…ヤクザのシノギに協力、偽診断書や薬も

文=富家孝/医師、ジャーナリスト
病院とヤクザ、知られざる「ズブズブの関係」…ヤクザのシノギに協力、偽診断書や薬もの画像1「Thinkstock」より

 ここのところ、京都府立医科大学附属病院(京都市)で起こった「虚偽診断書」事件が、医療関係者の間ばかりか、一般的にも大きな問題になっている。警察が病院に強制捜査に入るというのも異例だし、偽造を依頼したのが暴力団の総長という点も世間の目を引いた。しかも、大学トップの学長まで辞任するという騒ぎに発展した。

 一般的に、病院を舞台に起こる事件というのは、人命にかかわる医療過誤事件が中心である。ところが、今回はまったく違い、診断書の偽造事件である。これがなぜここまで騒がれ、連日の記者会見、学長の辞任にまで至ったのだろうか。

 まず、事件を整理してみると、発端は同大学学長の吉川敏一氏(69)が、暴力団・淡海(おうみ)一家総長・高山義友希受刑者(60)の腎臓移植手術後の診断書を院長に指示して担当医師に偽造させ、それによって高山総長の収監を遅らせたという疑惑が発覚したことだった。

 高山総長は恐喝事件により懲役8年が確定している受刑者だが、2年半前に腎臓移植手術を受けており、それによって収監を免れていた。しかし、健康が回復すれば刑務所に入らなければならない。これをなんとか逃れようと、診断書の偽造を画策したわけだ。

 これに協力したのが、高山総長が昨年通院していた同病院傘下の武田病院。偽造診断書は、この武田病院から京都府立医科大病院に引き継がれたというのである。

 もちろん、疑惑が発覚した当初、当事者たちは否定した。ところが、病院の回答書と警察が独自に入手した電子カルテの数値が違っていた。腎臓の状況を見るクレアチニンの数値が回答書では「10.6」となっているのに対し、電子カルテでは「1.1」となっていた。一般的にクレアチニンは1.0以下なら正常値である。つまり、「収監に耐えられない」という診断書は嘘ということになった。

 また、実際に診断書を書いた現場医師は「院長の指示で書かされた」と供述。さらに、吉川学長が高山総長と京都市内で複数回にわたって会食していたことも発覚した。

 こうして、虚偽診断書事件は、京都の医学会が暴力団に汚染されているという大問題に発展してしまった。

蔓延する診断書の虚偽

 診断書が虚偽であるということは、一般の世界でもあることだ。たとえば、会社を休んだ際に提出する診断書を医者に頼み込んで、それらしく書いてもらうということは日常的に行われている。しかし、これは発覚すれば、医師法違反で医師のモラルが問われる。医師法20条に「自ら診察しないで治療し、診断書、処方箋を交付してはならない」とあるので、これに抵触する。

 しかし、今回の京都の事件はもっと罪が重い。こちらは、刑法160条に規定されている「虚偽診断書等作成罪」が成立する。これは、3年以下の禁錮または30万円以下の罰金刑で、要するに医師は公(おおやけ)を欺いてはならないということだ。

 なぜなら、この刑は医師という身分のある者だけを対象にし、犯罪の成立には「公務所に提出すべき診断書」に虚偽の記載をしたことが必要になるからだ。つまり、民間会社に提出する診断書と違い、「公務所」に提出するものは罪が重いのである。

 京都府立医科大病院といえば、ベッド数1065を数え、京都ではナンバー2の公立病院である。国から認知症疾患医療センターに指定されている拠点病院でもある。そんな公立病院が、なぜこんなリスクを冒したのだろうか。

 私も関西出身だから、この辺の事情を書くのは憚れるが、関西では、暴力団関係者による病院への接触は日常的に行われている。なぜなら、生活保護などの偽診断書や、クスリの横流しなどは、暴力団の大きなシノギになるからだ。偽診断書にも相場があり、現場医師はヤクザによる誘惑には本当に弱い。
 
 しかし、今回はトップを巻き込んでいる。なぜなのだろうか。

 それは、事件の背景に、2月に行われた学長選挙があったからではといわれている。同大学では2月24日に吉川学長の再選が決まったばかりで、4月から3期目が始まる直前だった。また、病院長の吉村了勇氏(64)は副学長であり、高山総長の腎臓移植手術を直接担当していた。このようなことから、学長の追い落としの材料に虚偽診断書が使われたのではといわれているのだ。

京都暴力団地図の変化も

 ところで、高山総長といえば、京都のその筋では有名人である。というのは、彼の父親は、京都の名門暴力団「会津小鉄会」の4代目として全国的に名を馳せた高山登久太郎氏だからだ。というのに、今回の報道を見ると、高山総長は淡海一家の総長となっていて、淡海一家は山口組系暴力団となっている。

 実は会津小鉄会は高山登久太郎氏の引退後に影響力が低下し、長男の高山総長は山口組弘道会を頼ったのである。そのため、京都のその筋は山口組弘道会に切り崩されてしまったといわれている。

 現在、会津小鉄会は続いているが、6代目の馬場美次会長がこの2月に引退し、2組織に分裂している。こうした京都の暴力団地図の変化も、今回の虚偽診断書事件の背景にあるとみられている。
(文=富家孝/医師、ジャーナリスト)

富家孝/医師、ジャーナリスト

富家孝/医師、ジャーナリスト

医療の表と裏を知り尽くし、医者と患者の間をつなぐ通訳の役目の第一人者。わかりやすい言葉で本音を語る日本でも数少ないジャーナリスト。1972年 東京慈恵会医科大学卒業。専門分野は、医療社会学、生命科学、スポーツ医学。マルチな才能を持ち、多方面で活躍している。
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