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高橋篤史「経済禁忌録」

不祥事続く司法書士新宿事務所、不可解な動きが波紋…重い懲戒処分「逃れ」を意図か

文=高橋篤史/ジャーナリスト
不祥事続く司法書士新宿事務所、不可解な動きが波紋…重い懲戒処分「逃れ」を意図かの画像1「Thinkstock」より

 過払い金ビジネスの最大手、司法書士法人新宿事務所(東京都新宿区)で4月以降、次々と異変が起きている。テレビコマーシャルなど大量の広告宣伝で急成長した法人だが、一方で一昨年あたりから行き過ぎと思われる不祥事案が相次いで明らかになっていた。さまざまな異変は懲戒請求を受けていることと関係しているとの見方もあるが、果たしていかなる事態が進行しているのか――。

 フリーダイヤルの番号を連呼するなど新宿事務所は独特のコマーシャルで知られるが、実は4月以降それがぱったりと止んでいる。さらに関係者が驚いたのはトップの阿部亮氏が突然、代表を脱退したことだ。法人登記簿によれば、脱退は3月31日付で登記がなされたのは4月6日付。後任の代表にはそれまでナンバー2として阿部氏を支えてきた齋藤禎範氏が就いた。

 この突然の代表交代にとどまらず、異変はさらに続いた。新宿事務所と同じ住所に「中央新宿事務所」なるどうにも紛らわしい名前の新たな司法書士法人が4月21日付で設立されたのである。社員として登記された2人の司法書士は、4月5日付で新宿事務所を脱退したばかりだった。

 ほどなくして中央新宿事務所はホームページを開設するが、デザインから内容まで新宿事務所のものと瓜二つ(ドメイン取得は4月14日)。フリーダイヤルの番号とハートをあしらった法人のロゴマークまでそっくりだった。中央新宿事務所のフリーダイヤル番号「70―80―90」はつい先日まで新宿事務所が女性専用番号として使用していたものだ。新設法人にもかかわらず中央新宿事務所はすぐに顧客を獲得できたようだ。5月1日以降、貸金業者宛てに受任通知が送られてくるようになったという。

 中央新宿事務所の現地に行ってみると、新宿事務所とは住所が同じどころか、ビルの2階にある事務所入り口まで共通だった。受付には数字だけが異なるそっくりな法人ロゴがご丁寧に2つ並んでいる。両者は密接な関係にあるどころか、一体となって活動をしているようにしか見えない。

 なぜ、こんなことが起きているのか。一部の関係者が疑っているのは、重い懲戒処分が下ることを見越して、第2法人に顧客を誘導しようとしているのではないかというものだ。いわば“処分逃れ”である。

相次ぐ不祥事案

 新宿事務所は2008年に前出の阿部前代表によって設立された。1976年生まれの阿部氏は高校卒業後に海外を放浪、新聞配達など仕事を転々とし、28歳で一念発起して司法書士試験に合格したという変わり種。司法書士法人にもかかわらず自らの肩書を「社長」と名乗るなど、ビジネス指向が極めて強いことがその特徴だ。

 当初、過払い金返還請求業務は法律事務所MIRAIO、アディーレ法律事務所、ITJ法律事務所が御三家とされ高いシェアを占めていた。が、ピークアウトした10年頃からMIRAIOとITJは業務を大きく縮小、かわって大量の広告宣伝で顧客の掘り起こしを進めてきた新宿事務所が台頭、一時は2割ほどのシェアを獲得し、15年度には売上高が160億円にも達した。

 が、その頃から新宿事務所をめぐっては不祥事案が相次いで明らかになった。

 15年1月、東京簡易裁判所で驚くべき判決が下されている。裁判は阿部氏ら新宿事務所の所属・親密先司法書士6人が代理人となり、仙台市の女性が過払い金の返還を求めたもの。しかし、裁判の途中で裁判官が委任状の内容に不審感を抱き、職権によって東京簡裁に係属していた新宿事務所関連の事件を片っ端から調査した。その結果、裁判官は多数の委任状について「本人の意思に基づかないで作成されたことをうかがわせる」と結論づけ、訴えそのものを却下したのである。つまりは委任状が捏造されていた疑いがあるというわけだ。

 さらに同年7月には横浜地裁川崎支部で異例の裁判が起こされている。原告である神奈川県内の男性によれば、委任してもいないのに新宿事務所が勝手に過払い金を回収してしまっていたという。しかも新宿事務所が報酬として得ていた額は日本司法書士連合会が定めた指針を大きく上回るものだった(以上の詳細については本連載の2015年10月28日付記事を参照されたい)。

 その後も新宿事務所をめぐっては、認定司法書士が取り扱うことができる上限額(140万円)を超えて受任していた疑いなどが浮上した。そのため信販会社が非弁行為だとして東京法務局に懲戒請求を行ったとされる。関係者の間では、ほかにも複数の事案で新宿事務所に対し懲戒請求がなされていると取り沙汰されている。

 こうしたことから、一連の異変は重い懲戒処分が下されることを見越した動きではないかと一部で見られているのである。司法書士に対する懲戒処分は、軽いものから戒告、2年以内の業務停止、業務禁止の3段階。弁護士業界とほぼ同じで、最悪のケース、法人そのものの活動ができなくなる。

法人設立

 実は新宿事務所をめぐってはほかにも不可解な動きがある。このところ、周辺にいくつもの会社や法人が設立されているのである。

 東京司法書士会のデータベースによれば、阿部前代表は新宿事務所の代表を辞めた後、東京都小金井市内に事務所を置いているとされる。建築設計事務所などが入る雑居ビルがあるその住所には、「ワタリ」という社名の広告代理店が登記されている。設立は14年4月。ホームページによれば、ほかにコンサルタント事業も手掛け、取引先にはテレビ局やラジオ局、新聞社の名前が並ぶ。

 ワタリの代表取締役は、14年7月まで「Atom One」なる新宿区内の会社で代表取締役を務めていた。同社の設立は09年12月。現在、代表取締役は女性に代わっている。ホームページによると、同社も広告やコンサル業が主体のようで、ほかに人材派遣業も手掛けているという。やはり取引先にはテレビ局やラジオ局などの名前が並ぶ。

 このワタリとAtom Oneの代表取締役がそろって役員を務めている一般財団法人がある。その名も「新宿事務所」で、住所は司法書士法人新宿事務所と同じ。設立は昨年8月で、当初は「阿部亮財団」といった。そう、代表理事は阿部亮氏なのである。新宿事務所の後任代表である齋藤氏も評議員として名を連ねている。目的欄には社会教育推進など財団らしい項目が並ぶが、よく見ると、不動産投資・賃貸・管理・運営業や自然エネルギー投資業なども謳っている。実際の活動内容はよくわからない。

 この一般財団法人の理事の一人は、とある株式会社の代表取締役を務めている。その名も「10―20―30」。新宿事務所のフリーダイヤル番号を想起させる社名だ。設立は昨年3月で、目的欄にはコールセンター業務などが並ぶ。ほぼ同じ時期に新宿区内では「新宿事務所」なる株式会社も設立されている。同社の代表取締役は阿部氏だが、目的欄には10―20―30社とまったく同じ項目が並ぶ。両社の活動実態もよくわからない。本業の過払い金ビジネスで外注先の役割を担わせようしているのかもしれない。

 新宿事務所に取材を申し込んだところ、当初の回答は「一切お断りしている」というもの。それでもメールで一連の異変とも呼べる動きや周辺の法人群について具体名を挙げ尋ねたところ、齋藤代表からおおよそ以下の通り、極めて簡単な答えが返ってきた。

「懲戒になることはありません。当事務所に関係ない質問に関しては言及する立場になく、回答を差し控えさせていただきます」

 この先、何が起きるのか、しばらく新宿事務所の動きを注視していく必要がありそうだ。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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