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吉田潮「だからテレビはやめられない」

「老人=清く正しい」をあざ笑う傑作『やすらぎの郷』、人間の醜さと素晴らしさをえぐり出す

文=吉田潮/ライター・イラストレーター

 今シーズンのドラマでもっとも心を奪われているのが『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)である。月曜日から金曜日までの昼帯ドラマ、お勤めの人には厳しいかもしれないが、ホント、録画してでも観るべき「人間の業」が詰まっている。

 ネットであらすじは知っている人も多いと思うが、ざっくり。やすらぎの郷とは、テレビや映画にかかわり、貢献したという「選ばれし人」しか入れない、秘密の老人ホームだ。主人公は脚本家の石坂浩二。入居している面々は大女優だった浅丘ルリ子に加賀まりこ、清楚な古参女優の八千草薫、覆面作家でもある野際陽子のほか、落魄れた時代劇俳優の山本圭、賭博行為で逮捕された履歴をもつ俳優のミッキー・カーチス、二枚目任侠俳優の藤竜也など。このホーム内で巻き起こる数々の騒動を滑稽かつ現実味を持たせて描いている。

 どこが心を奪うかというと、登場人物たちが決して「清く正しく美しく老い」てはいないところだ。後期高齢者があとは座して死を待つのみ、家族に迷惑をかけないように、なんて綺麗事をほざくような内容ではない。それぞれの人物が茶目っ気たっぷりに、我の強さと業の深さを演じている。むしろ清々しいまでのみっともなさ。それがおもしろいのだ。

 寡黙なモテ男というイメージをよすがに生きる藤竜也のプライドをへし折る設定(ぎっくり腰で失踪騒動を起こす)、自分の死期を見誤り、浪費のはてに貯金がほとんど残っていない浅丘ルリ子、俗世間とは無縁の清純派女優・八千草薫は亡くなった俳優から託された絵が超高値のお宝と知るやいなや興奮して走り出したり。主人公であり、語り手でもある石坂浩二は、藤の失踪騒動の首謀者と濡れ衣を着せられたとき、「俺じゃない!」と反論する。通常のドラマならここは黙って罪を被る、なんてことを主人公に求めるだろう。

 綺麗事を許さないのがこのドラマ。もうね、石坂の心の声も大人げなくて気持ちがいいし、話をしようとすると「学をひけらかすのやめて」と諫められたりもする。誰ひとり、かっこつけさせてもらえないのが爽快だ。清廉潔白・勧善懲悪のかっこいい役ばかりで、何を演じても同じに見える人は芸能界に何人かいるのだが、その面々を嘲笑うがごとく、人間の業をまざまざと見せつけてくれるのだ。もはや「やすらぎの郷」じゃなくて「やすらぎの業」。

 遺産相続、認知症、死……今後は重いテーマもぶちこまれていくだろうけれど、陳腐に涙を誘うなんてことはしないと思う。淡々と、でも素直に現実と向き合う老人たちの、みっともない心模様を見せてくれるだろうな。清いモノ、尊いモノばかり求めるドラマが多いなかで、みっともないって素敵だなあと思わせてくれる名作なのである。永久保存版だ。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

吉田潮

吉田潮

ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)で「TVふうーん録」を連載中。東京新聞でコラム「風向計」執筆。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)などがある。

Twitter:@yoshidaushio

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