ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 江川紹子が語る“人質司法”とは
NEW
江川紹子の「事件ウオッチ」第91回

籠池夫妻の長期勾留は異例なのか?森友問題幕引きを狙う安倍政権と、監視すべき「人質司法」の実態

文=江川紹子/ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, , , ,
籠池夫妻の長期勾留は異例なのか?森友問題幕引きを狙う安倍政権と、監視すべき「人質司法」の実態の画像1国会の証人喚問で証言する籠池泰典被告

 学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐって指摘されている問題のなかでもっとも深刻なのは、財務省が文書を廃棄して8億2000万円もの値引きをした経緯や根拠を検証不能にし、説明責任を果たさずにきたことだ。公表された会計検査院の検査結果でも、森友学園とのやりとりや支払等に関する責任の所在、ごみの撤去・処分にかかる費用の単価などを示す行政文書がなく、「会計経理の妥当性について検証を十分に行えない状況」だったと指摘されている。文書がないために、会計検査院の検査が適切に行えないという事態はとんでもない。

だんまりを決め込む関係者たち

 会計検査院には捜査権限がないため、「文書はありません」と言われれば、強制的に捜索・差押えをするわけにはいかず引き下がらざるを得ない。ならば、独自にごみの量と処理費用を調べて算定すべきだったのではないか。しかし、なぜかそこまでの調査はせず、「値引き額の算定方法には十分な根拠が確認できない」と指摘するにとどめた。この大幅値引きが国にどれほどの損害を与えたのかは明記されず、責任の所在も判然としない。

 麻生太郎財務相は、「会計検査院の検査結果を重く受け止めなければならない」とし、国有財産の管理処分についての手続きを明確化するなど改善を約束したが、森友問題についての謝罪はなく、財務省として再検証も拒否した。この強気の態度には釈然としない。

 この問題では、財務省の理財局長だった佐川宣寿・現国税庁長官の国会での答弁が疑問視されている。佐川氏は「価格を提示したことも、先方からいくらで買いたいと希望があったこともない」と答弁。しかし、籠池泰典前理事長と妻の諄子氏が国との交渉時に録っていた音声が明らかになっている。ごみを理由に損害賠償訴訟を起こす可能性をちらつかせ、「0円に近いかたちで」と迫る籠池氏側に対して、近畿財務局側は国が支払った汚染土の除去費の立て替え金約1億3200万円を下回ることはできないと答えている。

 虚偽答弁が疑われる佐川氏は、国税庁長官に就任してから一度も記者会見を開かず、だんまりを決め込んでいる。籠池夫妻と財務省の橋渡し役となったのではないかとみられる安倍昭恵・首相夫人も、選挙運動や講演活動などは精力的に続けているようだが、国会への招致はおろか記者会見での説明さえ行わないままだ。昭恵氏の秘書役を務めていた官僚も、沈黙を守ったまま海外勤務に異動となった。

 一方の籠池夫妻も、7月31日に逮捕されて以来、弁護人以外との面会や手紙のやり取りを禁じる接見禁止処分がついていて、なんらの発信もできない状態が続いている。

 会計検査院の検査結果を受けても当事者たちは誰も語ろうとせず、あるいは語ることができない。こうした状況では、国会での野党の追及も、政府にとっては「恐るるに足らず」なのだろう。

籠池夫妻の勾留は“人質司法の平常運転”

 日本の官庁にとって、戦後は、自分たちに都合の悪い文書を焼き捨てるところから始まった。残しておくと、戦争犯罪に問われるなど責任を追及されそうな文書を廃棄することで、身の安泰を図ったのだ。

 今回も、行政文書の廃棄と関係者が口をつぐむことによって、なぜ、どのようにして大幅値引きが行われたのかは明らかにされそうにない。こうして、またも“捨てたもん勝ち”という悪しき事例を積み重ねることになる。

 しかし、本当にそれでいいのか。

 加計学園の獣医学部新設や自衛隊の南スーダンPKO日報問題をめぐっても、公文書の保存・保管・開示のあり方が問題になった。政府は、今国会で森友・加計問題は幕引きとしたいようだが、せめて一連の事件を教訓に、行政文書管理ガイドラインの見直しに加え、公文書が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るもの」(公文書管理法第1条)たり得るような法改正を行い、再発防止を図ってもらいたい。

 この問題をめぐっては、市民団体が佐川・前理財局長や交渉に当たった財務省職員を背任罪などで告発している。大阪地検特捜部が捜査を担当するが、近畿財務局などの家宅捜索を行ったとか、財務省のコンピュータを押さえてデータの復元作業を実施したという報もなく、どの程度の捜査が行われているのかわからない。

 籠池夫妻に対しては、家宅捜索を行う数日前にマスコミを通じて「詐欺容疑で学園側の強制捜査に乗り出す方針を固めた」という大々的な前触れを行い、各メディアが待ち構えているところに捜査陣が乗り込んでテレビ向けの“絵”をつくった大阪地検特捜部だが、財務省関連の捜査はその時とは打って変わって密行性を保っている。

 国の損害額を明らかにしなかった会計検査院の検査結果を受けて、早くも検察OBらが「背任罪成立のハードルが高まった」など、「立件せず」の予告を打ち始めており、検察の捜査によって真相解明が行われる期待はあまり持てそうにない。不起訴処分にした場合は、告発人が検察審査会に申し立てる道が残されているものの、検察としては、籠池夫妻が補助金を不正に受け取ったとして詐欺罪で起訴した件だけで幕引きとするつもりではないか。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


Facebook:shokoeg

Twitter:@amneris84

籠池夫妻の長期勾留は異例なのか?森友問題幕引きを狙う安倍政権と、監視すべき「人質司法」の実態のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!

RANKING

11:30更新
  • 社会
  • ビジネス
  • 総合