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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

糖質制限ダイエット、「効果が高く、安全」の根拠否定…重大な健康被害リスクも

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
糖質制限ダイエット、「効果が高く、安全」の根拠否定…重大な健康被害リスクもの画像1「Gettyimages」より

 ダイエットに関する興味深い研究成果が米国医師会誌上で発表されました【注1】。「糖質」を制限するダイエットと「脂肪」を制限するダイエットで、どちらがやせられるかを比べたものです。

 対象となったのは18~50歳の男女ボランティア609人で、BMI(ボディマス指数:体重と身長から算出される肥満度を表す指数)28~40とかなり肥満の人ばかりです。年齢や性別のほかメタボに関係する遺伝子なども調べた上で、それらに偏りが生じないよう、公平かつ無作為に2つのグループに分かれてもらいました。その一方には低糖質ダイエットを、他方には低脂肪ダイエットを1年間、続けてもらったのです。

 この種の調査で難しいのは、ボランティアが毎日の食生活を、長い年月にわたり指示通りに続けなければならないことです。途中で嫌になって約束事を破ってしまう人がいるでしょうし、こっそりダイエット・サプリなどを服用してしまう人もいるかもしれません。その点、この調査では、すべての参加者が栄養学の専門家による計22回に及ぶ小グループ講習を受け、厳格なコントロールがなされたとのことでした。

 結果は明快でした。1年後、低糖質ダイエットと低脂肪ダイエットで、やせる割合に違いがまったくなかったのです。メタボ関連遺伝子ともいっさい関係がありませんでした。

 低糖質ダイエットは、歴史が古いだけに、世界中でたくさんの学術調査がなされているのですが、それらの効果と問題点を広範に検証したという研究があります【注2】。492編におよぶ学術論文を精査し、信頼性が高く、かつ1年以上の追跡を行ったものだけを厳選して、総合判定を下したというものです。

 結論は、低糖質ダイエットを1年以上続けると、死亡率が30パーセントも高くなるというものでした。死亡原因は心臓病、腎臓病、がんなどさまざまです。

 また別の調査から、低糖質ダイエットを1年以上続けた場合、1日当たりの糖質の摂取量を20グラム減らし、たんぱく質を5グラム増やすごとに、心臓病の発生率が5パーセントずつ増える事実も判明しています【注3】。ちなみに糖質20グラムとは、普通サイズの茶碗に4割ほど盛ったご飯に相当します。

ダイエットに王道はない

 では、なぜ糖質(正しくは炭水化物)を減らすと、健康に悪影響がでるのでしょうか? その理由についても研究が進んでいて、ひとつのメカニズムとして以下のように考えられています。つまりエネルギー源である糖質が体内で不足してくると、燃焼材料を補うため脂肪が急速に分解し、その過程で活性酸素などの悪玉物質が放出され、体内のさまざまな細胞を傷害してしまうから、ということです。

 低糖質ダイエットを推奨している人たちの主張は、「やせる効果が格段に高く、安全」というものですが、その根幹が完全に否定されてしまったことになります。低糖質ダイエットは最新の方法とも宣伝されていますが、実は150年も前から存在していて、世界的に流行り廃りを繰り返してきたものです。この点でも、低糖質ダイエットを主張する人たちの言葉は正確性を欠いています。

 糖質制限ダイエットを主張している専門家が拠り所のひとつとしている論文は、わずか24人のボランティアを半年間だけ追跡し、2つの検査値が少しだけ改善することを示したものにすぎません【注4】。

 最近のNHKニュースでも、「ある牛丼チェーンで低糖質メニュー登場!」などとブームを歓迎するかのような放送がなされていました。しかし低糖質ダイエットは、他のダイエット法と比べて減量効果は高くなく、しかも重大な健康被害をもたらす危険なものであることを認識すべきでしょう。ダイエットに王道はないのです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【注1】Gardner CD, et al. Effect of low-fat vs low-carbohydrate diet on 12-month weight loss in overweight adults and the association with genotype pattern or insulin secretion: the DIETFITS randomized clinical trial. JAMA 319(7); 667-679, 2018.
【注2】Noto H, et al. Low-carbohydrate diets and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of observational studies. PLoS One 8(1); doi: 10.1371, 2013.
【注3】Lagiou P, et al. Low carbohydrate-high protein diet and incidence of cardiovascular diseases in Swedish women: prospective cohort study. BMJ 344; doi: 10.1136, 2012.
【注4】Yamada Y, et al. A non-calorie-restricted low-carbohydrate diet is effective as an alternative therapy for patients with type 2 diabetes. Intern Med 53(1); 13-19, 2014.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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