天才ジョブズを生んだのは日本!?

アップル独り勝ちの秘訣は、日本発「ものづくり技術」にあった!?

『スティーブ・ジョブス』(講談社/ウォルター・アイザックソン著)
  

 昨年10月、本人死去のわずか20日後という”絶好のタイミング”で発売された、評伝『スティーブ・ジョブズ』(講談社/ウォルター・アイザックソン著)は、発売初日に10万部増刷が決まるほどのベストセラーとなった。この現象からも、日本におけるジョブズ人気の高さがうかがえるが、実はアップル大躍進の裏には、ジョブズと日本の並々ならぬ関係が影響しているというのは有名な話である。

 ジョブズと日本との最初のかかわりは、オレゴン州リ-ド大学在学中に日本の禅に出会ったことだ。彼は若い頃、東洋思想に強い影響を受け、インドや日本を旅行するほどであった。特に1970年代には、カリフォルニア州の禅センタ-に通うほどはまり、そこで日本人の禅僧・知野(乙川)弘文老師と出会い、ますます禅に深く傾倒するようになった。ちなみに91年ジョブズが、当時スタンフォ-ド大学の学生で9歳年下のロ-レン・パウエルと結婚し、その結婚式の司祭を務めたのがこの知野弘文老師であった。

 70年代の米国では、ヒッピ-たちを中心に禅や東洋思想の影響を受けた若者は少なくなかった。しかし、ジョブズの禅への傾倒は、当時の若者に見られた青春時代の通過儀礼などではなく、革新的な商品を絶えず世に送り出す上での、精神的なバックボ-ンとなっていった。

 ジョブズが日本の禅から最も影響を受けたものは、「シンプル・イズ・ベスト」の思想である。この思想は、彼のビジネスやプライベート、生き方そのものにも大きな影響を与えた。後に彼自身、「普通についているモノの中から、真の目的に照らして”実はムダなモノ”を見つけ、取り除くには、能力と勇気が求められる」と語っているように、iPhoneなどシンプルで革新的なヒット製品開発の根底には、ジョブズが日本の禅から学んだ「シンプル・イズ・ベスト」の思想が一貫して貫かれているのだ。

 また、思想だけでなく、日本発「ものづくり技術」も彼に大きな影響を与えていた。「ジャスト・イン・タイム生産」との出会いである。

 ジョブズはアップルコンピュ-タを創業し、主力製品アップルⅡの爆発的人気で大成功を収め、84年に新製品マッキントッシュの発売に当たり、強気の需要予測をした。しかし結果、マッキントッシュは大量に売れ残り、会社は過剰在庫を抱えて赤字経営に陥った。彼は大量のレイオフを行うなど必死に経営再建に努めたが、業績は一向によくならず、倒産寸前にまで陥った。

 そこで彼は、当時ペプシコ-ラの事業担当副社長を務めていたジョン・スカリ-を三顧の礼で迎えて経営再建を託しが、その後2人は経営方針の違いや社内事情から対立し、ついにジョブズ自身がアップルから解任・追放されてしまう。社長がスカリ-に交代してもアップルの経営はよくならなかった。売れない製品を大量に抱え、経営内容は悪化。当時シリコンバレ-では、アップル社は倒産するか吸収合併されるかしかないといわれるほど悲惨な経営状態であった。

 一方、ジョブズはアップルを追放されてからネクスト社を設立、宿敵スカリ-を見返すべく革新的な新製品の開発に夢中であった。その当時彼は、「売れ残りの過剰在庫は会社を潰す」というアップル時代の苦い経験から、「どうしたらムダな在庫を持たずに効率的なものづくりができるか?」という問題に真剣に悩んでいた。そんな時出会ったのが、後に彼のビジネスの懐刀となるティム・クック(アップル現CEO)である。

 当時クックはコンパックコンピュ-タに勤めていたが、商品開発、デザイン、製造技術にまで幅広い知識と経験を持つ有能な人物であった。彼はデュ-ク大学MBAコ-ス出身のプロのビジネスマンであったが、大学時代にオ-バ-ン大学でIE(経営工学)を徹底的に学んだ経歴から、ものづくりの知識や経験が豊富にあった。特に日本のジャスト・イン・タイム生産やかんばん方式にも精通し、「在庫は悪である」との思想の持ち主であった。つまり、経営者として在庫問題に苦しんでいたジョブズにとって、まさにうってつけの人物との出会いであったのだ。

 皮肉なことに、2000年にアップルから追放されたジョブズは、経営悪化に苦しむアップル社の経営再建の切り札として請われ、社長復帰したのである。ジョブズは真っ先にクックを業務担当副社長としてスカウトし、協力して経営再建に取り組んだ。

 その時にアップルは、クックが精通する日本式ジャスト・イン・タイム生産を大々的に取り入れ、注文を受けてから製品を生産することを徹底し在庫を減らし、その結果、当初4カ月あった生産〜販売までのリードタイムを2カ月に、2カ月をさらに6日にまで短縮することに成功した。長年、アップルの経営を苦しめた売れない過剰在庫問題の解決に成功したのである。

 そう、こうしたヒット商品の製造〜販売に至る一連のプロセスを支えたのは、日本の「ものづくり」から学んだジャスト・イン・タイム生産方式だったのだ。
(文=野口恒)

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