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0円で楽園生活を満喫できる!? 刑務所”志望”者が急増中

文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト
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0円で楽園生活を満喫できる!? 刑務所"志望"者が急増中の画像1DVD『刑務所の中』(ジェネオン エンタテインメント)
「就職難だから食えないなんてウソウソ! 何か適当な犯罪を犯せばいいんだよ。留置場から始まって、拘置所、刑務所、出所後も更生保護施設【編註:主に刑務所を出所した人を収容し、自立した生活ができるまで面倒をみる施設】に生活保護まで、全部国が面倒みてくれる。ある意味、わしらも公務員といっしょやで。人殺めたりせんかったら、誰に迷惑かけているわけでもないしな」

 現在生活保護を受けているという元受刑者は、悪びれずこう語る。いま日本には、老若男女年齢問わず、就職できずに困っている人がたくさんいるが、そんな人たちが行き着く先のひとつが、「犯罪者」という名の”キャリア”だ。犯罪者になることで、食い扶持を得ようとする輩は、年々、増え続けているという。時折、スポーツ紙や週刊誌などでも目にするこの話は、はたして事実なのだろうか。

「2011版の『犯罪白書』にもあるように、1991年から10年まで、65歳以上の高齢犯罪者は右肩上がりで増加の一途。これら高齢犯罪者の多くは窃盗犯。モノ盗り目的ではなく、捕まることが目的と思ってもいい。実際、こうした高齢犯罪者に接見すると『センセイ、俺、実刑がええですわ』と言うのもいるし、公判でも『社会に出たくない』と言うのまでいますから。高齢者はもちろん、若年層でも刑務所に入りたくて犯罪を犯す人は、肌感覚で増えていると思うし、この手の人は再犯率も高い。警察官と雑談していても、そんな話が出ます」(刑事事件を数多く手がけている弁護士)

 事実、前出の『犯罪白書』でも伝えられているように、刑務所など刑事施設の収容者数は、バブルが崩壊した91年は約4万5000人だったが、以降増加の一途を辿り、06年にはついに統計のある56年以降のピークとなる8万1225人を記録した。一昨年の10年は7万2975人と、06年と比べ約8000人しか減少しておらず、バブル経済崩壊以降は増加トレンドにあるといえよう。

 そこで、警察官、法務省職員、更生保護施設職員、地方自治体の生活保護担当者など関連する行政側の話を総合すると、おおむね次のような実態が見えてきた。

 昔から不況による就職難などのため、食い扶持を求めて懲役志願で犯罪を犯す”刑務所太郎”はいた。特にバブル崩壊以降、その傾向が顕著であったが、今ではワーキングプアにみられる貧困層はもちろん、その気になればいつでも働ける「普通の人」まで、刑務所入り目的で犯罪に手を染めるまでになった。一度刑務所生活を経験すると、その居心地の良さになれてしまい、何度でも刑務所に舞い戻ってくる。これでは矯正教育(=刑務所)の意味をなさない。加えて刑務所を出所してからも、希望すればほぼ誰でも更生保護施設へ入所でき、その後も生活保護受給と手厚いセーフティネットに守られる……。

 これだけ読めば、刑務所に入って国や地方自治体に面倒を見てもらおうと考える輩が増えるのも、頷けるというものだ。受刑者たちの”恵まれた境遇”の実態について、更生保護施設職員は次のように語る。

「まず刑務所での服役中は、衣食住費や医療費はタダ。もちろん出所後に服役中の食事代や医療費などを請求されることもない。また、更生保護施設へ入所すれば、こちらも刑務所と同じく、食費をはじめとする生活費はかからず、完全無料といっても差し支えないですね。施設を出た後も、預貯金がない、援助してくれる親族もいない、収入もない、病気で働けないなどの条件さえ整っていれば生活保護を受給できる。通常、区役所などの生活保護申請窓口へ相談にいくと、”水際作戦”でのらりくらりと断られてしまうケースが多い。だが犯罪歴があると、窓口担当者も『犯罪歴のせいで仕事が見つからないのだから仕方ない』『面倒なことに巻き込まれたくない』という理由で、あっさり受給が認められるのです。金額も東京都の場合、単身世帯ならば月額にして約13万円、4人家族だと約27万円も受給され、十分生活できるレベルです」

 まさに至れり尽くせりの生活だ。”刑務所太郎”たちの間では、こうした生活を勝ち取るためのテクニックすら確立されていると、前出の元受刑者は話す。

「窃盗、強盗未遂くらいの、刑務所志願にとってはちょうどいい犯罪を犯す。犯行後はできるだけさっさと捕まる。ここでひとまず警察署の留置場に入れてもらえる。長く税金で食べさせてもらうためには、それなりの努力も必要。捕まる際にできるだけ派手に暴れるなど、精いっぱい犯罪者ぶりをアピールする。そうすると刑期も延びるというもの。でも、犯罪を犯しても、不起訴や執行猶予付きになってしまえば無意味だ。警察での取り調べの段階から、いかに犯罪に至った経緯が悪質なのかをアピールするかにかかっている」(元受刑者)

 こうして無事実刑判決を勝ち取ると、めでたく受刑者となり、衣食住+医療制度も整った刑務所での、「天国に近い生活」(同)が待っているというのだ。

 しかし、いくら生活環境が整っているといっても、「やはり刑務所での生活は厳しいものなのではないか?」とも思えるが、実際にはどうなのか? ある法務省関係者は「厳しいとか楽とかは、人それぞれなのでなんともいえませんが、服役者の人権にはきちんと配慮されているとはいえます。中にはこれくらいの罪を犯せば何年刑務所に入ることになると計算して犯罪を犯し、年金がもらえるまで、のんびり暮らそうと考えている服役者もいます」という。また「刑務所は会社の寮、更生保護施設がホテル、生活保護は親からの仕送りに例えられる」(新聞記者)という声まで聞かれ、少なくとも劣悪な環境とはほど遠いことがうかがえる。

 前出の元受刑者も、「元自衛官や元警察官も刑務所にはいるが、彼らに言わせると、刑務所のほうが断然楽勝だと。私のような商売をしていた人間にとっても、刑務所はまさに温室。言われたことだけやってれば時間が過ぎる。正直出たくなくなりますよ」と語るが、こうした情報が広がれば、”懲役志願”の犯罪者が増えるのもおかしくないであろう。
(文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト)

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

1971年兵庫県生まれ。経済ジャーナリスト。『友達以上、不倫未満』『弁護士の格差』(ともに朝日新書)、『ブラック企業経営者の本音』(扶桑社新書)など著書多数。週刊ダイヤモンド、ダイヤモンド・オンライン(ともにダイヤモンド社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。本サイトは発刊時からの執筆メンバー。創価大学教育学部大学院修了という学歴から宗教問題にも詳しい。

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