「カルピスHP」より
アサヒが10月1日に、味の素が所有するカルピスの全株式を約1000億円で取得する見通しだ。国内飲料市場でシェア単独3位のポジションを強固なものにする狙いがあるものの、今後、他社がM&A(企業の買収・合併)に乗り出さないとは考えにくい。国内飲料メーカーの再編がふたたび加速する勢いのなかで、アサヒが市場における存在感をより強固にするためには、カルピスの買収プラスアルファが求められる。
清涼飲料市場は、11年で約17億ケースの規模。このうち自動販売機での販売が3割、コンビニやスーパーなどの”手売り”が7割となっている。少子高齢化が進み、微減傾向が続いているのが実情だ。需要が伸びない一方、”地サイダー”メーカーなど中小を加えると約200社がマーケットではひしめいている。そのなかで自動販売機での販売を展開する大手はおよそ20社弱。販売シェアは上位5社で8割以上を占めるなど寡占化も進んでいる。
センミツマーケットで苦心する基幹ブランド育成
ただ、新商品がヒットする確率は「センミツ(千に三つ)」といわれるほど低く、業界関係者は四苦八苦で開発を行っている。そこで大きなポイントとなるのは、基幹ブランドを育てることだ。スーパーマーケットやコンビニの売り場面積は、毎年ほとんど変わらない。自販機の数も設置スペースの争奪戦が激しさを増し、簡単には増えない。そんな中、基幹ブランドは、ニーズに応じて売り場から撤去されない定番商品として、安定的に販売される傾向にある。アサヒは、M&Aによりカルピスという会社を買うとともに、基幹ブランドを育成する時間を手に入れたことになる。
つまりアサヒは、労せずして日本で最も古い飲料製品ブランドのひとつを手に入れたといえよう。1919(大正8)年に日本初の乳酸菌飲料として発売を開始したカルピスは、すでに90年以上もの歴史を持っている。カルピスを知らない消費者は少ない。もし今後発売される新しい飲料製品に莫大な投資をしたとしても、カルピスほどのブランド力を持つ製品に成長する可能性は、どんなメーカーでもそう簡単なことではない。ほとんどないに等しいと言ってもいいほどだ。売り出された時代背景が異なり、前述したように、年々人気ブランド製品や基幹ブランド製品が出にくくなっているからだ。
アサヒの清涼飲料子会社、アサヒ飲料は10年ほど前には深刻な経営危機に陥っていた。それを『三ツ矢サイダー』、缶コーヒー『ワンダ』、『十六茶』の3ブランドにリソースを集中して売ってきた。この結果、経営危機を脱し、07年にはカルピスの自販機事業と統合した経緯がある。10年のアサヒ飲料の販売量は1億5900万ケースでシェア9.2%。これが11年は1億7280万ケースとなりシェア9.9%、キリンビバレッジを抜いて4位に浮上した。
一方、カルピスの年間販売量は4500万ケース前後で推移していて、シェアは3%弱。アサヒとカルピスは、「自販機販売分でダブっているのが1000万ケースある」(アサヒ)ため、これを差し引いて合算するとおよそ2億1780万ケース。シェアは12%台にまで達し、伊藤園の11%を抜き、1位のコカ・コーラグループ(約28%)、2位のサントリー(約22%)に次ぐ3位に浮上する計算だ。