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その時“ITの素”が生成された! デジタル・フロンティア・スピリット第1回

パソコン発明の背後にあったアメリカの軍事事情

文=砂波針人/編集者・ライター

 ただし、そうしたコンピュータ像をはじめて概念的に提唱したのは、国防総省の高等研究計画局(ARPA)の前身である研究開発局の初代局長で、リンクをたどる情報検索システム〈メメックス〉の構想を46年に公表したヴァネヴァー・ブッシュである。それに着想を得たエンゲルバートの発想は、斬新すぎたせいか50〜60年代のコンピュータ関係者に相手にされなかったが、ARPAの情報処理研究部門長J・C・R・リックライダーとその後継者ロバート・テイラーが64年より彼の研究の実質的なパトロンとなった。そう、コンピュータ・カルチャーはカウンター・カルチャーだけに育まれたわけではなく、アメリカの軍事的な事情とも大きく関係している。

「第二次世界大戦中、海軍のレーダー技術者だったエンゲルバートはエンジニアであって、反戦運動をするような政治的な人物ではない。確かにスティーブ・ジョブズがヒッピーだったようにコンピュータ文化の背景のひとつにカウンター・カルチャーもありますが、その起源は軍事と結びついていた。市民のための戦争という考え方もあるアメリカにおいて、ベトナム戦争期を除き、決して”軍事=悪”ではないんです。また、テイラー期のARPAが60年代末に開発したARPANETは、いくつかの大学で接続されたコンピュータ・ネットワークですが、ある大学が破壊されてもほかの大学でそれが自動的に立ち上がるようにしたのは、ソ連の核攻撃を想定した対策だったともいわれる。情報を小分けして送るパケット交換方式や異機種のコンピュータをつなぐTCP/IPプロトコルといった技術を生んだそんなネットワークは、インターネットの原型といえます」(西垣氏)

 第二次大戦後、ソ連との冷戦状態に入ったアメリカでは、地政学的な戦略により南西部に軍の基地が増設され、航空宇宙産業の主要企業や研究機関が次々に太平洋岸地域に設けられた。その時期に西部へ投入された大量の軍事予算の一部が、研究開発予算として政府機関や企業、大学の研究所に流れ、航空宇宙産業の一分野としてコンピュータ開発は始動。つまりコンピュータ・カルチャーの始源を振り返れば、まず軍事的なバックグラウンドがあったのだ。そのせいもあり当時のコンピュータに”ビッグ・ブラザー”のような権威的なイメージが生じたのだろうが、ベイエリアのそんな環境で研究をしていたエンゲルバートは、内側から食い破るように新たなコンピュータ像を示した技術者にも思える。

砂波針人/編集者・ライター

砂波針人/編集者・ライター

1982年名古屋市生まれ。カルチャー誌編集部を経て、フリーの編集者・ライターとして各媒体で活動中。写真のみならず音楽、演劇、建築など取材対象は幅広い

『思想としてのパソコン』 IAは、思想を生み出すか? amazon_associate_logo.jpg

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