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【3】『僕がアップルで学んだこと』著書・松井博氏インタビュー(1)

アップル元社員語る「過酷な社内政治とクレイジーな要求」

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――想像とはかなり違いますね。

松井 ひどいです。しかし、そのひどいことを、きちんと修正しながらやっていくわけです。指さして非難しているだけでは、口だけのヤツだと思われる。いじめっ子のようにやるのもダメ。非難をしつつも、きちんと正当性を主張して正義面をする必要があるのです。僕も十数年英語圏に住んでいて、英語をしゃべることに不自由はないのですが、いかに自分の正義を示しつつ相手を非難するのかを、英語で表現するのは難しいものです。本当に神経をすり減らしましたから。

会議でボコボコにされる

――例えば、どのようなことでしょうか?

松井 出荷判定会議の際に、新製品のバグ(不具合)をどれだけ修正するのかを議論するのですが、僕としては一件でも多く修正してもらいたい。こちらはその方向で議論を押していきますが、ネゴシエーションする上で、エンジニアも限界ギリギリのところで調整しているわけですから、互いに落としどころを見つけなければならない。まあ、ケンカになりますよ。最終的には、上級副社長など上層部の前でプレゼンをしなければならないのですが、そこで全員のつじつまが合ってないと、本当に頭のいい連中ですから、その場で「おまえ、その話おかしいじゃねえか」と指摘されボコボコにされてしまう。ですから、出荷判定会議をする前に、部内でそのリハーサルをするくらいなんです。もうねえ、本当にきつかったですよ(笑)。

――そんな場合は、日本的な根回しも欠かせませんか?

松井 あからさまに人を非難すると恨みを買いますからね。次はこちらがやられちゃう可能性だってある。かといって、やらないと、知っていたのに黙っていたということになる。だから、加減もあるんです。ただ、自分で良い子にしているだけではスケープゴートにされてしまう。ちゃんと自分の身を守りつつ、ときどき人も攻めて、良い感じの関係も築く。まさに政治ですね。

――しかし、その議論の結果として、アップルは多くのクリエイティブな商品を生み出していますね。

松井 そもそも要求が無茶なんです(笑)。まず「ここまでできたんだから、次はこれもできるはずだ」というジョブズの思いつきから始まるわけです。ジョブズの側近は「その思いつきは間違い」と一生懸命説得するのですが、時々思いつきのまま突き進んでいく。例えば、CPUをインテルに移行したとき、社外に対しては2年後に完了すると言っておいて、社内では突然「半年でやれ」と言ってくる。皆は「えぇ」という感じになるのですが、どうにかするしかないわけです。何年かに一回、ジョブズが商品の大きな方向性を決め直すときがあります。これがアップルはうまい。日本企業だってアップルとやっていることは変わりませんが、修正がちまちましていてドラスティックに変えることがない。「そのプロジェクトでどうやって収益を上げつつ、次を目指すのか?」というところが見えてこないのです。本質的にリスクを取らない体質が、日本企業にあるのかもしれません。