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日中韓を股にかける気鋭の実業家、べ・ドンチョルに迫る

パソナ顧問の注目韓国人企業家「サムスンなぜ強い?」

構成=國貞文隆
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パソナ顧問の注目韓国人企業家「サムスンなぜ強い?」の画像1べ・ドンチョル氏
「サムスン・九州電力・べ・ドンチョル氏、3社ジョイントベンチャー法人設立」(2001年)
「12年サムスングループのHR Workshopで、『SMART サムスン10年』key note講演招聘(アジア未来人才研究所)」(12年)
「人材派遣最大手パソナのアジア戦略を担う、同社グローバル戦略顧問就任」(12年)

 こうした経歴を持ち、日本・韓国・中国のビジネス界を股にかけて活躍し、今、注目を集めているひとりの人物がいる。

 それが、アジアの企業家ネットワーク・ブラックダイヤモンドクラブ代表を務め、現在7社の企業を経営する実業家・べ・ドンチョル氏だ。

 00年には、韓国への日本人観光客数を6割も増加させ、韓国観光産業に貢献したとして、企業家最年少で大韓民国大統領表彰も受賞している。さらに2003年未来人才研究所(AFHI)を設立し、次世代の経営と人材育成について研究し、韓国政府機関である韓国情報化振興院との共同研究も実施している。

 また日本の経団連に当たる全国経済人連合会で、企業家および役員対象のワークショップや講義を開催。2011年には日本で『2030年富の未来図』(フォレスト出版)を刊行し、話題となった。

 日頃から、日本・韓国・中国のビジネス界の橋渡し役としても、精力的な活動を続けているベ・ドンチョル氏に、停滞する日本企業の問題点について聞いた。

刺激のなくなった日本

――そもそも、日本とのビジネスのかかわりは、どのような経緯で生まれたのですか?

ベ・ドンチョル氏(以下、ベ) もともと、韓国で旅行ビジネスを手掛けており、日本旅行や近畿日本ツーリストをはじめ、多くの日本企業とビジネスを行ってきました。さまざまなツアー企画を立ち上げ、韓流ブーム時には、ドラマのロケ地巡りツアーなどをプロデュースし、1年で16万人の日本人観光客を韓国に呼び込むことに成功しました。旅行ビジネスで多くの日本企業と関係を持つ中で、次第にアジアにおけるビジネスの窓口として、コンサルタントの役割を求められるようになりました。01年には、私自身と九州電力、サムスンSDSによる韓日合作法人を設立、日本海に光ケーブルを通し、サッカーワールドカップ日韓戦のリアルタイム配信の実現にも尽力しました。現在は、ビジネスマッチングやアジアでの人材育成を中心に活動しており、現在顧問をしているパソナグループでは、アジアを中心としたグローバル事業のコンサルティングを行っています。

――日本は景気の停滞が続いていますが、日韓中を行き来する中で、日本企業の問題点はどこにあると思いますか?

 私が初来日したのは79年です。そのころの日本は刺激に満ちていました。しかし、今の日本は明らかに魅力が少なくなっています。その意味でも、アジアでの日本企業の地位は相対的に低下していると思います。

――その理由は、なんだとお考えでしょうか?

 問題点のひとつは、ローカルな視点で物事を考えがちなところです。あまりにも日本国内の事情でしか考えていない。グローバルな視点が欠けているのです。次に、マニュアルに頼り過ぎていること。日本のビジネスマンは、あまり自分で考えて仕事をしているようには見えません。しかも、新しいビジネスを展開するときに、実際に行動するまでの時間がかかり過ぎる。スピード感が足りないのです。その点、サムスンなど韓国企業の意思決定のスピードは早いと思います。将来の日本を担う若者も、内向き志向が強過ぎるように感じます。留学なりビジネスで海外に渡るなり、世界に出るにはいろんな方法があるでしょう。韓国人なら借金をしてでも海外に出ようとする傾向ですが、日本では「お金をもらっても海外に行かない」という若者が増えているように思います。私にとっては、まさにミステリーですね。

もう日本のモノづくりは参考にならない

――そうした日本の問題点はよく指摘されるところですが、人材面で考えると、日本と韓国の企業にはどのような違いがあるのでしょうか?

 例えば、韓国ナンバーワンの企業であるサムスンは、人材育成にものすごくお金を使っています。それも2~3年の短期的なものではなく、5~10年の長期的な視点で人材育成をしているのです。その軸となるのが未来予測です。さまざまなテーマを考えて未来予測をし、常に現状に危機感をもって、人材育成、そしてビジネスを行っているのです。韓国はショックを好みます。なぜか? それは、ショックがモチベーションになるからです。未来予測をすることで、現状に対する危機感が生まれる。どうしたら生き残ることができるのか? 韓国企業が生き残るには、どのような人材を育成しなければならないのか? そうした問いかけの中から、自然と解決策は見えてくるのです。日本は国内が比較的安定しているためか、緊急テーマからドラスティックな変化を起こすことを好まないのかもしれません。そのせいか、未来予測をしたとしても、危機感を持つだけで、実際の行動に移すまでに時間がかかるように思います。

――グローバルな視点から見て、日本企業は今どう見えますか?

 昔はインターネットもなく情報が限られていたため、日本はすごいと思ってきました。でも、今は違います。ほとんどの日本の情報は簡単に入手できる。日本企業が今どんな状況にあるのかもよく知っています。正直に申し上げますが、今や日本のモノづくりの強さは参考になりません。グローバル・リーダーとして注目するような日本企業もほとんどありません。日本はグローバルというと、すぐに欧米を思い浮かべるでしょう。それは古い考え方です。今はアジアがグローバルの中心なのです。日本のスピリットも、欧米ではなくアジアにあってほしい。そうでなければアジアで動けません。日本企業はこれまで欧米企業のフォロワーとして台頭してきました。しかし、今はそんな時代ではありません。私は「99%のファースト・フォロワーより、1%のファーストムーバーになれ」と言いたい。まず自分から動いてみることが大事なのです。日本だけでなく、韓国や中国にも“スマートバカ”がたくさんいます。国内で安定した地位にあるのだから、特に動く必要はないという考え方の持ち主です。そんなことでは、これからのグローバル社会を生き残っていくことはできないのです。

日本のコンテンツを、中韓の力で世界へ売る

――中国や韓国に進出する日本企業は多いと思いますが、そのビジネス展開は現地の人からどのように映っていますか?

 日本企業の中国や韓国でのビジネス展開は、あまり上手には見えません。それは、あまりにもマニュアル的だからです。そこに壁も感じてしまう。現地に溶け込むには、まず言葉からです。日本人のビジネスマンは数年駐在していても、「ニーハオ」「カムサムニダ」しか話せない。それでは溶け込むことが難しくなるのは当然です。私は、いま北京に住んでいるのですが、中国語を習うために北京大で中国語を勉強しました. 現在は中国に居住しています。日本人も英語だけではなく、中国語やハングル語など現地の言葉を習得することが、ビジネスを展開する際の大きなメリットになるのです。当たり前のことですが、その当たり前のことをやっている日本企業が、あまりにも少ないのです。

――世界でのアジアの存在を高めるために、日韓中でパートナーを組むことを提唱されていますが、どのようなかたちがいいのでしょうか?

 日本のコンテンツは非常に優れています。コンテンツといっても漫画やアニメのことだけではありません。私が考えるコンテンツとは、精密機器やメディカル関連など多くの先端的な技術力のことです。そうした日本のコンテンツをもとに、韓国が世界展開するためのビジネスモデルを提供し、中国はそのための資金を出す。それが私が考える一つのパッケージのイメージです。今こそ日韓中のコラボレーションが必要な時期なのです。日本では、すぐにアメリカをパートナーと考える人がいますが、今は違います。著書にも書きましたが、10年ごろから明らかに中国をはじめとするアジアの時代に移ってきました。アジアの時代が始まったのです。しかし、そうしたアジアを中心としたグローバルな世界で活躍できる人材が、まだ今の日本にはいない。だからこそ、日本は変わってほしい。日本は今こそ変わるときなのです。
(構成=國貞文隆)

●べ・ドンチョル:日本・韓国・中国三国間を中心にアジア経済を活況化する、最強のソリューションプロバイダー。ブラックダイヤモンドクラブ創立者。 パソナグループ・アジア戦略グローバル顧問。

國貞文隆

國貞文隆

1971年生まれ。学習院大学経済学部卒業後、東洋経済新報社記者を経て、コンデナスト・ジャパンへ。『GQ』の編集者としてビジネス・政治記事等を担当300人以上の経営者を取材した経験がある。。明治、大正、昭和の実業家や企業の歴史にも詳しい。主な著書は『慶應の人脈力』『やはり、肉好きな男は出世する ニッポンの社長生態学』『社長の勉強法』『カリスマ社長の大失敗』など。

『富の未来図』 べ・ドンチョル氏の著書 amazon_associate_logo.jpg

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