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事件発生から6年に及んだ株主訴訟の画期的な結末

ライブドア、賠償金100億払っても資産潤沢のカラクリ

文=伊藤歩
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ライブドア、賠償金100億払っても資産潤沢のカラクリの画像1『刑務所なう。』(文藝春秋/堀江貴文)
 衝撃のライブドア事件から6年半あまり。LDH(旧ライブドア)が株主側の請求を「認諾」する手続きをとったため、株主とライブドアの間で争われていた訴訟が、7月18日にようやく終結した。

「認諾」とは、訴えられた被告が、訴えた原告の言い分を100%受け入れる手続きを言う。逆に訴えた原告が、全面的に引っ込める手続きは「請求放棄」という。訴訟の「取り下げ」は被告の同意がないとできないので、この制度がある。

 最後まで和解せずに粘りに粘った投資家49人には、すでに総額2億7000万円の賠償金が支払われている。

機関投資家と明暗を分けた個人投資家の1審

 絶頂期にあったライブドアに、有価証券報告書虚偽記載の容疑で東京地検特捜部の強制捜査が入ったのは2006年1月16日。当然株価は急落、前日の終値は699円だったが、わずか半月で株価は100円を割った。

 当時22万人もの株主がいたライブドアと、粉飾の舞台になったライブドアマーケティングが上場廃止になったのは3カ月後の同年4月。最終取引日となった4月13日の終値は94円だった。上場廃止が決まった会社にありがちな、1円にまで株価が落ちなかったのは、ライブドアが経営破綻会社ではなく、潤沢な資金を持った優良企業だったからだ。

 上場廃止後、複数の訴訟団がライブドアに対し、侵害賠償請求訴訟を起こすのだが、中でも最大規模だったのが、消費者問題の第一人者である米川長平弁護士が団長を務め、主に個人株主を束ねた米川弁護団。今回最後まで粘った冒頭の49人も、この米川弁護団の投資家である。

 準備が整う都度、順次申し立てを行ったので、06年5月から07年5月までの約1年間に5回に分けて提訴。総勢3340名が、粉飾発覚による株価下落分の損害賠償として、193億円の支払いを求めた。

 東京地裁で1審判決が出たのは09年5月。この時点で、一番長い人で提訴から3年、短い人でも2年が経過しているので、請求金額は経過利息で230億円に膨れ上がっていた。

 この判決で、東京地裁は強制捜査前1カ月平均株価679円と、上場廃止時点の終値94円との差額585円のうち、虚偽記載が要因で下落した分を全体の35%弱にあたる200円しか認めなかった。残り385円は、「虚偽記載以外の要因で下落したから賠償の対象にはならない」としたのである。

 この判決の1年前の08年6月には、日本生命・信託銀行5行連合の判決が出ており、こちらは差額585円のうち9割弱を虚偽記載による下落分と認め、ライブドアに対し総額95億4500万円の支払いを命じている。

 つまり、1審段階では、機関投資家に出た判断と、個人投資家に出た判断は明暗を分けた形になっていたのである。

好条件が重なった、たぐいまれなケース?

 ただ、この判決でも実損額を回収できる投資家も結構いたため、高裁への控訴に臨んだのは全体の約半数。

 日生・信託銀連合は09年12月に出た高裁判決で、さらに有利な判断をもらい、98億9600万円の支払いを命じる判決を得ている。

 この判決の影響なのかどうかは定かではないが、この2年後の昨年11月に出た米川弁護団訴訟の高裁判決では、1審の虚偽記載による1株あたりの株価下落分200円は、大幅に引き上げられて550円という判断が出る。米川弁護団の請求金額は1株あたり579円だったので、この金額は請求金額の95%。

 この時点で和解をせず居残っていた投資家は228名に減っていたのだが、さらに最高裁への上告で満額獲得を狙い、最後まで残ってめでたく満額の獲得に至ったのが今回の49名というわけだ。

 日生・信託銀連合の訴訟は、今年3月に最高裁判決が出ており、結果は高裁判決からわずか1200万円だけ減額した98億8400万円。こちらも満額に近い金額で勝利が確定している。

 米川訴訟は原告が認諾してしまったので、最高裁は判決を書かずじまいになるが、今回の結果は「過去に例がない成功例」(米川弁護士)だ。

 個人投資家が訴訟を起こすハードルは極めて高い。3000人を超えるような大集団になったからこそ、著名弁護士が団長を務め、多数の弁護士が協力する弁護団が形成できた。

 しかも刑事事件が先行し、原告の立証負担がその分軽くなった。そもそも被告のライブドアに賠償に耐える資力もあった。資力がなければ裁判に勝っても実際の賠償は受けられないから、戦っても無意味ということになってしまう。

株主はなんと8万人

 上場廃止が決まってからの1カ月間、潤沢な資金を狙い、多くの横文字ファンドがライブドア株式を取得した。上場廃止後も株主数が減らなかったため、ライブドアは毎年有価証券報告書を提出し続けており、11年3月末時点での上位株主は横文字ファンドだらけ。株主数は8万人に上る。

 ライブドアは上場廃止後、ファンド各社から派遣された経営陣が会社を持ち株会社の形態に変え、事業実態をすべて子会社に移し、ひたすら子会社を売り続けて現金に換えてきた。このため、11年3月末時点で419億円もの現預金資産を持ち、純資産は333億円もある。この1年間で100億円以上の賠償金が支払われているはずだが、それでもかなりの残余財産が残るはずで、今後この残余財産は8万人の株主に分配されることになるはずだ。

最高裁は投資家保護を重視?

 そして最も重要なポイントは「最高裁が金商法21条の2の解釈として、有価証券報告書虚偽記載による下落の範囲を広くとる判断をしてくれたこと」(米川弁護士)にある。

 同条項は、有価証券虚偽記載で投資家が損害を負った場合の、株式発行企業による賠償責任を認めている。これまでは損害額は虚偽記載発覚直前と発覚後の差額とする「取得時差額損害」説が一般的な解釈とされていたが、最高裁は取得価格と虚偽記載発覚後の差額である「取得自体損害」説で判断を下した。

 この説に従えば、場合によっては今回の訴訟でも、より多額の賠償額が認められた可能性が出てくる。

 今回、最高裁が同条項について、投資家に有利な法解釈を下したため、オリンパスなど粉飾発覚によって損害を被った投資家が起こしている訴訟に、重大な影響を与える可能性も出てきた。

 日本の証券市場は、先進国の中で類を見ないほど投資家保護の規律が緩い。上場会社はやりたい放題で、投資家はほぼ泣き寝入りである。投資家保護強化の規程を会社法に盛り込もうとすれば、経済界が猛反対をして、ことごとく潰したり骨抜きにしたりしてしまう。

 それだけに、今回最高裁が投資家保護重視の法解釈を打ち出したことは、もっと評価されるべきだろう。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

伊藤歩/金融ジャーナリスト

伊藤歩/金融ジャーナリスト

ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計。主な著書は『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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