(8月5日付日経新聞より)
さまざまなテレビ番組や雑誌などでもお馴染みの購買/調達コンサルタント・坂口孝則。いま、大手中小問わず企業から引く手あまたのコスト削減のプロが、アイドル、牛丼から最新の企業動向まで、硬軟問わずあの「儲けのカラクリ」を暴露! そこにはある共通点が見えてくる!?
電子書籍の実力
これまで21冊の本を出した。そのうち何冊かを出版社のサイトから電子書籍にして発売した。
『1円家電のカラクリ 0円・iPhoneの正体」(幻冬舎新書)を出したとき、「ラインナップの中で、1カ月で最も売れた」と言われた。その数、90ダウンロードだった。約1万円が私に振り込まれた。
私は正直、「やはり、こんなもんか」と思った。つい数カ月前のことだ。
私は幻冬舎の販売力に問題があったとはまったく思わない。むしろ、よく売れたほうだと思う。紙の書籍は初版1万2000部を刷っていた。そのころ電子書籍がすべてを変えるといわれていた。しかし、実際のところ、書き手からすると、それほど世の中を変えそうに思えない。
もちろん、電子書籍で多数のダウンロードを誇るものもある。電子書籍の話題になるとき、例外的に売れたものばかりが注目される。ただ、その他大勢はどうなのか。売れた本は常に語られ、売れなかった本は常に語られない。そして、幻想だけが流布していく。
電子書籍化のコストはさまざまだ。
電子書籍を販売している出版社をヒアリングすると、おおむね200~300冊を損益分岐点(赤字と黒字の境界)と設定しているところが多い。ということは、1年程度をかけてゆるやかに損益分岐点を突破すればよいのだろう。それにしてもこの数字、ほんとうに世の中を変えるモンスターなのか、私にはわからない。
考えてみるに、デバイスが増えたからといって、読者人口が増えるわけではない。もしかすると、ためしに面白がって電子書籍を購入する新読者層もいるかもしれないけれど、彼らが継続して電子書籍を購入するかどうかは怪しい。電車に乗ったとき、みんなが見ているのは、文庫本・新書・スマホ(Facebook)・スマホ(メールチェック)・スマホ(Twitter)だろう。電子書籍を読んでいる例を私はほとんど知らない。
マンガ家の井上雄彦さんが語るように、マンガであれば電子タブレットに特有の新表現がありうるのかもしれない。動きや音を使い、そしてネットワークとつながれば、新たなマンガが登場しうる可能性は想像に難くない。しかし、いわゆる活字本については、図が少し動くくらいで、電子でなければいけない優位性を見つけるに至っていない。
電子リーダーあれこれ
という私も、電子リーダーは多くを購入してきた。電子書籍が読めるものとして、PCは当然として、iPhone、iPad、Kindle(アメリカで買った)……。そして、先日はkoboも購入してみた。説明するまでもなく、koboとは楽天が肝いりで発売した電子リーダーだ。