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鈴木会長兼社長の長期政権に異議申し立て

リコール問題で表面化した軽自動車1位スズキの内紛

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post_755.jpg同社の主力なだけに、気合の感じるワゴンR特設サイト
(「スズキHP」より)
 スズキは9月7日、前日に発売したばかりの新型ワゴンRのリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。左の後部ドアの樹脂部品が壊れているものがあり、走行中にドアが開くなどの恐れがあるというのが理由。スズキは「顧客にはまだ納車しておらず、消費者への影響はない」としているが、消費者に迷惑かけなかった、で済まされる話ではないだろう。発売直後の新型車のリコールは異例を通り越して異常。指揮系統が混乱し、組織が機能していないのではないかとの疑問を抱かせる。

 ワゴンRは4年ぶりに全面改良され、9月6日に発売された。セールスポイントは燃費の向上。ブレーキをかけた際に発生するエネルギーで発電し、エアコンなどを動かす技術を採用。燃費性能を従来車種より22%も向上させ、軽ワゴンでは最高となるガソリン1リットル当たり28.8キロメートルを実現した。

 ホンダが室内の広さを売りに昨年末に発売した軽乗用車「N BOX」が大ヒット。対する軽のエースで4番バッターともいえるワゴンRは、エコを前面に打ち出し反転攻勢をかけた。ところが発売翌日にリコールを発表、いきなりつまずいてしまった。

 34年間首位を快走し、軽の王者と呼ばれたスズキは、近年、ダイハツ工業の後塵を拝し、2位に甘んじてきた。05年度にはスズキ32.1%、ダイハツ30.4%だったシェア(市場占有率)は、翌06年度にダイハツ30.3%、スズキ29.8%と逆転。以後、ダイハツに水をあけられ、11年度(2011年4月~12年3月)はダイハツがシェア35.7%で6年連続トップを堅持。スズキは30.5%で5ポイント以上の差がついた。

 トップが入れ替わったのは、スズキの販売戦略の転換が背景にある。鈴木修会長(現・会長兼社長)はダイハツとの軽のトップ争いが激化した06年、「お行儀の悪い売り方はしない」と宣言。無理して台数を追うのではなく、販売店の収益を重視する路線に舵を切った。当時、販売台数を稼ぐために、販売店名義で車を購入し、中古市場に「新古車」として売り渡す自社届け出が当たり前のように行われていた。鈴木会長の禁止命令でそれが大っぴらにできなくなったことが、ダイハツにシェアの逆転を許す一因ともなった。

 ワゴンRの発表会見の席上、「軽自動車販売でダイハツに後れを取っているが」との質問が飛んだ。鈴木修会長は「やはり1番というのがなくなるのは寂しい」と、トップの座を奪われている現状を嘆いた。

 また「他社さんを見ていると、量を売ったから赤字になったという会社があるわけじゃない。やはり量を売らないと利益がついてこない。1位のメーカーが赤字ということは絶対ありえないので、量と質を追う」と、台数も重視する考えを示した。

 さらに「せめてこれだけは1番ですよというものを獲らなくちゃいかん。それを死守したいと私は思っている」と強調した。販売台数を増やしてダイハツから首位の座を奪還すると宣言したのである。06年の「台数より利益」路線からの完全な方針転換である。

●ワンマン会長の方針転換で社内に亀裂

「台数より利益」戦略の責任者として田村実副社長(当時・専務)を国内営業本部長に据えた。利益は着実に上げられるようになったものの、ダイハツとの差は、年々広がっていった。これに苛立った鈴木会長が「台数も利益も」に転換したのである。

 これで、面目丸つぶれなのが、国内営業部門を束ねる田村副社長だ。今春、経済専門誌に、ダイハツ、ホンダの奮闘でシェアを落としていることについて問われた田村副社長は、「鈴木会長にも販売を伸ばすようにハッパをかけられるが、スズキの収益性を毀損してまで台数を伸ばす営業はしない。ダイハツのほうが販売は好調なはずなのに、スズキより収益性が低いのはなぜなのか」と反論した。

 スズキの12年3月期の単独決算では、本業の儲けを示す営業利益は501億円で、営業利益率は3.6%。一方、ダイハツの同期の単独決算は、営業利益336億円で、営業利益率は3.1%。確かにスズキに軍配が上がる。

 ところが、新型ワゴンRの発表会の席上で、鈴木会長は台数を伸ばして首位を奪回せよと号令を発したのである。というのも、今年1月から8月までのシェアは29.2%。3割を切った。主力車の発売を控えているとはいえ、前年同期比2.5ポイントも落ちた。対するホンダのシェアは、前年より8ポイントも伸ばし17%。ホンダの足音が迫ってきた。今後、田村副社長の責任を問う声も出てこよう。

「台数も利益も」の鈴木会長と、「台数より利益を」の田村副社長が真っ向から対立する構図になることを懸念する幹部もいる。

 かつてのスズキであれば、鈴木会長の鶴の一声で全てが決まっただろうが、今回はそう単純ではない。鈴木会長自身も経営者として追い詰められているからだ。大成功をもたらしたインド事業は、鈴木会長の聖域ともいえる所轄事業だ、そのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場で7月に暴動が起き、約1カ月間の生産停止に追い込まれた。

 独フォルクスワーゲン(VW)との提携解消交渉も長期化が予想される。国際仲裁裁判所の調停が不調に終われば、VWは19.9%保有しているスズキの株式を買い増して傘下に収めるシナリオも考えられる。VWとの提携は鈴木会長が主体的に進めてきたものだ。その責任を問う、声なき声が社内外にある。

 VWとの提携は鈴木会長が信頼しているといわれる原山保人副社長が推進し、まとめた。しかし、VW側は「剛速球を投げているつもりだろうが、我々から見ればハーフスピードの打ちやすい球だ」と原山副社長の評価はさんざんだ。VW側は原山氏をまったく信用していない。

BusinessJournal編集部

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