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『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』著者・開沼博インタビュー

震災後増殖した、“正義”を騙る浅はかな知識人や市民を疑え

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開沼 講演したりしながら印象に残るのは、不安に満ちた「じゃあ、どうすればいいんですか、教えてください!」という声の多さ。「てめぇで考えろ」としか思わない。いや、「どうすればいいのか考えよう」というのはまっとうな話ですが、何のためらいもなくそう聞いてくるような人ほど、その答えを自分の中からひねり出そうと努力していない。ろくに調べてないし、本も読んできていない。そんなことばかりしているから、頭いい人にうまいこと言いくるめられておいしくない思いすることになる。それでまた「自分は被害者だー」とか騒ぎながら、また言いくるめられて、おいしくない思いをして……というループに陥る。現状において、「フクシマ」や「日本の未来」について「こうであるべき」と一概に言い切ることは誰にもできない。言い切っている人がいたらペテン師です。

 本書のタイトルに引き付けながら、より具体的に言えば、「正義」を騙る者がいたら疑う必要がある。社会は誰かが脳内ででっち上げた、一面的な「正義」で変わるほど単純なものではない。むしろ、その「正義」こそが「社会の変わらなさ」の原因をより強固にしていっているのかもしれない。

 絶対的な「正義」や「社会の変え方」などない。社会の現実の重層性・多様性を常に認識し、そのあり方を捉える努力をしなければ、必ず何かを見落としてしまいます。その問題について学ぶ気がないのならば、中途半端にその問題に関わるのはやめたらいい。「自分は世界を見渡し、すべてを相対化している」と勘違いし、例えば、したり顔で5分に1回はツイッターで「天下国家」を憂いながら呟いちゃうような評論家ワナビー生活は、不安から目をそらせるから楽しくて気持ちが良いかもしれません。

 しかし、そんなことする前に、そして「社会を変えたい」という前に、やれることは腐るほどある。自分の中にある不安をこそ見つめ直さないと、仮に「原発が世界から消え」ても、「在日外国人を叩きだし」ても、「民主党政権が、野田内閣がつぶれ」ても、「維新の会が政権奪取し」ても、「日本が再度経済成長を始め」ても、自分自身は幸せにはならない。どころか、むしろ、自分の不安から目をそらすための「道具」がなくなったがゆえに、新たな「道具」を見つけるまで、より不幸になるんです。

 私は今後も、ある面で人類が経験したことのない特異な社会現象が生じている3.11以後の状況を前に、淡々と学び、言葉にしていく仕事を続けていきたいと思っています。それは日本の戦後社会や近代化そのものを考えることにもつながります。原発問題に限らず、現代社会が抱える困難な問題を考えていきたいです。
(構成=本多カツヒロ)

●開沼博(かいぬま・ひろし)
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。東京大学大学院学際情報学府博士課程。専門は社会学。9月、『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎、1890円)を発売。その他の著書に、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)、前福島県知事・佐藤栄佐久氏との対話『地方の論理 フクシマから考える日本の未来』(同)、山下祐介氏との編著『「原発避難論」 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店)などがある。

BusinessJournal編集部

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