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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第1回

新聞を読まない、パーティー三昧…巨大新聞社長の優雅な日々

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 夜のパーティーは、接待の宴席の始まる前に顔だけ出し、滞在時間が30分足らずのこともあった。しかし、昼の時は、会場に1時間くらいは滞在し、和洋中華のバンケット料理をチャンポンにつまみ、昼食代わりにするのが常だった。

 その日も、松野は周年記念パーティーでバンケット料理をたらふく食べ、本社に戻るとすぐに販売関係の来客2件をこなした。来客はいずれも表敬訪問で、一人30分程度で、午後3時前には二人目の来客が帰った。その後は、部屋に一人で籠り、誰も入れなかった。

 杉本にはよほど緊急の案件でもない限り、取り次がないように指示していた。「書類が溜まっているし、少し一人で考えたいことがある」というのが理由だった。

●演歌を聞かないと仕事ができない

 しかし、松野は読むより、聞く、そして、聞くより歌う、男である。書類を読み始めても、5分ともたない。一人になって考えると言っても、演歌でも聞きながらでないと持続しない。この日も常備しているCDプレーヤーを動かし、イヤホンで最近はやりの演歌を聞いている時間のほうが長かった。演歌を聞いている限り、時間の経つのは早かった。

 2月も末になると、日が長くなり、日没は午後5時半頃だった。窓の外には黒いシルエットの富士山と茜色の空があった。ビルの下を見下ろせば、街灯が灯り、道路を行き交う車のヘッドライトとテールランプが流れていた。演歌に聞き入っている松野にも、そうした暮れなずむ眺望が目に入るはずである。それは間違いないが、脳裏に像を結ばない。

 トントン―。

 社長室で演歌を聞く時、さすがの松野も片耳だけのイヤホンで聞き、部屋の外に演歌の歌声が漏れるようなことはしなかった。ノックの音に気付き、松野はCDプレーヤーを止め、イヤホンを外した。そして、腕時計をみた。午後5時20分過ぎだった。

 「はい。入っていいよ」

 松野が返事をすると、上背が1m80cmほどある杉本が入ってきた。杉本は痩せ型で、吊りバンドがトレードマークだが、初春ということもあり、濃紺の背広の上着を着ていた。

 「社長、そろそろ、お出かけのお時間です」
 「ふむ。でも、まだ20分くらいはあるだろう」
 「そうですが、明日の予定の確認もありますので…」
 「明日は7時半から朝食会があったな」
 「ええ、明日は自由党の石山久雄(ひさお)幹事長の朝食会です。今晩は自宅に帰らず、リバーサイドホテル宿泊でいいですね」

●ホテルを愛用

 松野の自宅は相模湾に面した逗子市の海岸沿いにあり、朝の通勤は東京駅まで横須賀線のグリーン車で、東京駅から社用車で本社に来ることになっている。しかし、朝食会などがある時や、千葉や埼玉方面でゴルフの接待がある時は自宅に帰らず、ホテルに泊まった、

 「ふむ。それでいい」
 「かしこまりました。予約しましたので、いつもの部屋にチェックインしてください」
 「わかった」
 「それはそれでいいのですが、今晩はどうされますか」
 「言っていなかったか?」
 「ええ、聞いておりません」
 「今日はプライベートで午後6時半から友人と飲むことになっている。午後6時前に出て、ホテルにチェックインしてから出かける。社用車はホテル玄関で戻す」
 「明日の朝はどうしましょうか」

 どちらかと言えば悪人面の杉本は、意味ありげに含み笑いを浮かべた。

BusinessJournal編集部

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