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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第2回

社用車で演歌を唸り、ホテルのスイートを定宿にする巨大新聞社長

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 「そうだろ。もう30年近く歌いこんでいるからな」

 これもいつものことだが、松野は満足そうに答えるのだった。

 そんな滑稽なやり取りが終わると、ころ合いを見計らったように右折信号が青になった。右折して200mほど走ると、リバーサイドホテルである。社用車がホテルの正面玄関の車寄せに着けると、ドアボーイが後部座席のドアを開けた。

 「じゃあ、明日は午前7時な。頼むぞ」
 「かしこまりました」

 ドアボーイが車を降りた松野を正面玄関の回転扉に誘導、ロビーに入ると、フロアボーイがフロントに案内した。定宿だけに、ドアボーイもフロアボーイもフロントマンもみな顔見知りだ。フロントの手前で、手を上げると、フロントマンがキーボックスからキーを取り出して待っている。

●スイートルームを法人契約

「いつものお部屋です」キーを受け取った松野は軽く会釈して、そのまま、エレベーターホールに向かった。部屋は21階のスイートルームで、北東の角部屋だ。ルームナンバーは2107号である。ホテルの繁閑で別のスイートルームになることもありうるが、これまでは2107号以外の部屋になったことはない。リバーサイドと法人契約を結んでいるからだ。

 ホテルは、22階、23階の2フロアを「エグゼクティブスペース」と呼び、専用のチェックインデスクを置き、他のフロアと区別している。大企業の経営者や上級管理職の宿泊客を対象にした客室スペースだ。専用のラウンジがあり、飲み物や朝食を用意しているほか、自由に使えるミーティングルームも併設している。特典としてフィットネスクラブも無料で利用できる。客室は一般客室より広いうえ、豪華な造りになっている。ホテル側は「エグゼクティブスペース」の契約を勧めたが、松野がなぜか嫌がり、一般客のスイートルームを契約したという経緯があった。

 2107号室に入ったのは午後6時10分過ぎだった。松野はコートを脱ぎ、クローゼットに掛けた。そして、デスクにビジネスバッグを置くと、電話を取った。

 「大都の松野だがね、午後9時半くらいに、よく冷えたシャンパンと生ハムのオードブル、それとサンドイッチを届けてくれ」
 「銘柄? よくわからんから、最高級のやつを頼む。多分、9時半には部屋に戻るが、戻ったら電話するから、すぐに届けられるようにしてくれ」

 松野は受話器を置くと、背広姿のまま、部屋を出た。向かった先は割烹「美松(みまつ)」だ。ホテルから徒歩5分ほどのところにある。正面玄関を出て、水天宮通りを右に折れ、水天宮の手前の信号を右に入って、200mほどの左手である。

●花街

 高度成長期まで、日本橋蛎殻町、日本橋浜町を含めた現在の日本橋人形町界隈は数十軒の料亭が軒を連ね、芳町(よしちょう)花街として栄えた。現在、芳町という町名は人形町に吸収され消滅したが、江戸時代初期に元吉原と呼ばれた遊廓があった。湿地帯を埋め立て、幕府がそこにてんでんばらばらにあった遊廓を集め葭原と称したのが由来だ。

 幕府の命で、明暦の大火後に遊廓は現在の吉原に移転、元吉原には歌舞伎小屋が立ち並び、男色を売る陰間茶屋(かげまちゃや)ができた。そして、時が経つにつれ深川などから芸妓が移り住み、江戸時代末期から明治、大正、昭和にかけて芳町は芸妓の花街として繁栄を極めた。東京大空襲で焼け野原になったが、戦後復興し、新橋、赤坂などとともに、東京の六大花街の一つとして賑わった。しかし、高度経済成長期を過ぎて昭和50年代に入ると、芳町という町名が消滅したのと軌を一にするように衰退した。

 今は数少ない芸妓が細々と花街の伝統を守り伝えているのが実態で、往時の面影はない。人形町通りと甘酒横丁だけは昔の風情を残しているが、東京シティエアターミナルに隣接する浜町や蛎殻町はオフィスビルが林立し、ビジネス街に変貌している。

●証券会社幹部が記者の接待に使う隠れ家

 そんな変貌した町にひっそりと残っているのが「美松」だ。昭和50年代までは板場を置き、料亭の体を成していた。しかし、今は昔馴染みの客から要望があれば、座敷を貸す感じで、老夫婦2人だけで切り盛りしている。割烹とは名ばかりで、料理は仕出しだ。

 松野との付き合いは昭和40年代に遡る。当時、経済記者はまず兜町で株式市場と証券業界を担当するのが一般的で、松野も駆け出し時代に2年ほど、兜倶楽部(東京証券取引所の記者クラブ)に在籍した。その頃、証券会社の幹部に連れられて上がったのがきっかけだった。

BusinessJournal編集部

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