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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(11月第2週)

3大経済誌の「中国」特集を比較! 正念場共産党をどう捉える?

post_971.jpg(左)「週刊東洋経済」(11/10号)
(中)「週刊エコノミスト」(11/13号)
(右)「週刊ダイヤモンド(11/10号)

 今週の経済誌は「週刊ダイヤモンド」「週刊東洋経済」「週刊エコノミスト」の3誌共に、第一特集が中国特集だ。8日(木曜日)に始まる中国共産党の第18回党大会。5年に1度の党大会は今回、10年に1度の中国指導部の世代交代の場となる。

 胡錦濤国家主席と温家宝首相から、習近平国家主席と李克強首相の新体制に代わるのだ(ただし、首相が正式に決まるのは来年の全人代大会)。こうした新体制の課題とともに日中の懸案となっている尖閣問題について、3誌ともさまざまな切り口で迫っている。今回は「週刊エコノミスト」も含め3誌の内容を比較していきたい。

●3誌そろい踏みの中国特集 習体制誕生で日本への影響は!?

 それぞれの特集は、少しずつカラーが異なっている。「週刊東洋経済 11/10号」の特集は『「中国リスク」―領土、景気、反日、政争― 対立長期化に備えよ』という特集で、『インタビュー 中国の経済人と話し合おうと思う』という新浪剛史ローソン社長兼CEOのインタビューに代表されているように、尖閣問題以降の袋小路に陥った、日中関係を前にした経営側の事業リスクが中心だ。

「週刊ダイヤモンド 11/10号」の特集は『中国 撤退か継続か』という特集だが、その主眼は、ハーバード大学ケネディスクールフェロー・加藤嘉一氏による巻頭レポート『迫真レポート 新指導部巡る権力闘争の深層』に見られるように、権力・イデオロギー闘争が熾烈をきわめる新指導部人事などの中国の最前線に迫っている。

「週刊エコノミスト 11/13号」の特集は『中国の終わり 高成長と輸出主導経済の終焉』という特集で、今後10年間の習政権が取り組むべき、山積した課題について取り上げている。 目の前のリスクが中心の「週刊東洋経済」、長期的な経済問題が中心の「週刊エコノミスト」、その真ん中に位置するのが「週刊ダイヤモンド」といった違いだろうか。

●「回復には数年かかる」日中関係

 では、具体的に見ていこう。まず、目の前の最大の懸案である尖閣問題だ。

「週刊ダイヤモンド」と「週刊東洋経済」は、歴史的独り負けとなっている日本車の大ピンチ、製造業や小売・サービスなどの日本企業の反日デモや不買運動などの被害も大きく取り上げている。

 いちばんこの話題に記述が少ないのは「週刊エコノミスト」。「週刊エコノミスト」によれば、反日デモは今となっては、公安がわざわざバスで誘導する「官製デモであった」と日系進出企業は口をそろえるという。この背景には政治的威信も党内裁定能力もない習副主席が、あえて強硬な対日政策を選び、党内や軍部の威信を確立しようとしたのではないか、と関係者の話を紹介するだけだ。

 その一方で「週刊ダイヤモンド」と「週刊東洋経済」は、この尖閣問題の解決策にも触れている。「週刊ダイヤモンド」は、中国側は水面下で日本に対して、「領土問題がある」ことを認めさせ「日中双方で領土問題化している」旨を明記した外交文書の作成を念頭に働きかけを強めているという。ただし、日本は文書化には消極的で、現在落としどころを模索しているのが現状だという(記事『日中両国が水面下で探る 尖閣問題収束の“落としどころ”』)。

「週刊東洋経済」は『尖閣めぐる対立は袋小路 あいまい決着が唯一の解』というジャーナリスト・富坂聰氏の記事の中で、どんな事情があるにせよ、日本が尖閣諸島を国有化したことは、中国国民にとっては共産党による大きな外交失点にしか見えない。ここはやはり日本が「領土問題の存在」を認めることが必要になるという。方法としては、「(尖閣諸島を含む)海上での安全管理」をテーマにして日中が話し合い、それを中国側は「日本が尖閣問題で協議のテーブルについた」と説明し、日本側は「あくまで海上の安全についての話し合いだった」と説明し、互いが成果を強調するあいまい決着の可能性を紹介している。

 なお、日本企業が中国での不振から脱却できるのはいつか。

「来年2月の春節商戦に正常化する(前提で利益計画を策定している)」(岩村哲夫ホンダ副社長・「週刊ダイヤモンド」)
「半年後には、販売は正常化するのではないか。3月には、新規受注は前年同月の9割程度にまで戻る」(トヨタ系販売店関係者・「週刊東洋経済」)
「半年先、中国の新体制が安定する2013年3月までは落ち着かないでしょう」(新浪剛史ローソン社長兼CEO・「週刊東洋経済」)
「党大会が終わって新体制になったら緩むとか、楽観的な見方はしていない。回復には数年かかる」(日本電産の永守重信社長・「週刊東洋経済」)

と、その見方は楽観論から悲観論まで飛び出しているのが実情だ。

●7人の常務委員入りをめぐる権力・イデオロギー闘争

 中国の政治でしばらく注目すべきは、新指導部人事だ。8日から約1週間開かれる党大会に引き続いて開かれる中央委員会第1回総会(1中全会)では、新たな政治局常務委員7~9人などの指導部人事が正式に決定される。カリスマ指導者がいないために、この7~9人の定員枠をめぐって、各派閥間の争いが活発になっている。この7~9枠のうち、2枠は習近平国家主席と李克強首相のポストとなるため、実質5~7枠の争いだ。

 この指導部に入りそうな顔ぶれを予想しているのが、「週刊ダイヤモンド」と「週刊エコノミスト」だ。とくに「週刊ダイヤモンド」は顔ぶれとともに各派閥についても解説しており、キャッチフレーズ付きで充実している。

 たとえば、習近平国家主席はキャッチフレーズは「次期国家主席に内定」で、江沢民「前」国家主席派で太子党(二世エリートの集まり)出身だ。これに対し、李克強首相は「次期首相候補のエリート」で、胡錦濤「現」国家主席派で共産主義青年団(党のエリートの集まり)出身だ。このほかに「5人が指導部入り」という場合には、「北朝鮮とのパイプ役」張徳江(江沢民前国家主席派・太子党出身)、「堅実な“石油閥”」張高麗(江沢民前国家主席派)、「党内コーディネーター」李源朝(胡錦濤国家主席派・共産主義青年団出身)、「経済通の『キーマン』」王岐山(太子党出身)、「根っからのイデオロギー屋」劉雲山(江沢民前国家主席派・共産主義青年団出身)といった面々が予想されている。

 注目はこのほかに「改革派の急先鋒」汪洋・広東省党委員会書記が常務委員に入れるかどうかだ。彼は胡錦濤「現」国家主席派・共産主義青年団出身。先日失脚した薄熙来・前重慶市書記(江沢民「前」国家主席派・太子党出身)のライバルだった人物だ。薄氏の失脚後、汪洋・広東省党委員会書記の台頭を快く思わない保守派は省内のマフィアと組んで一連の反日デモにおける暴力行為を扇動した。このため広東省では、暴徒化デモが発生し、汪洋氏に圧力をかけていたのだという。

「週刊ダイヤモンド」は、汪洋氏の常務委員会入りは改革の行方を占うものとなるが、権力・イデオロギー闘争のために「難しい」とみている。なお「週刊エコノミスト」は、この顔ぶれのほかに胡錦濤国家主席派・共産主義青年団出身の劉延東、ポスト習近平最有力の胡春華(胡錦濤国家主席派・共産主義青年団出身)の名前を挙げている。

 なお、この常務委員人事について「週刊東洋経済」は共産党の人事はブラックボックスの中で決められるため、予想しても現実的な意味はないと冷静。今回の人事は胡錦濤「現」国家主席が江沢民「前」国家主席などの長老と話し合って意見を取りまとめ、決めることになる。つまり、人事が発表された段階で、パワーゲームの結果がわかるということだ。

●中国は「フランス革命前夜」か「19世紀後半のヨーロッパ」か

 習近平新体制にとって問題が山積みだ。現在の胡錦濤国家主席・温家宝首相体制ではオリンピックと万博という国を挙げたイベントがあったことで、高成長をなんとか維持できたが、これからの10年は景気を浮揚できるイベントはない。

「週刊エコノミストは」いくつかのデータで「中国経済の終わり」を示唆する(記事『データで見る中国経済 改革開放ボーナスの終わり』)。

 今後の中長期的な経済見通しで最大のポイントは生産年齢人口だ。国連の世界人口推計10年版のベースシナリオでは中国の生産年齢人口は2015年にピークアウトする。つまり、これまで30年以上続いた10%の高成長は15年を境に1ケタに鈍化・中成長になる。さらに総人口のピークアウトが見込まれる30年以降には4~5%に鈍化する見通しだという。また、胡錦濤体制下で構築された「国民皆保険・皆年金」制度は今後のよりいっそうの整備、充実が求められている。

 続いて2020年代にやってくるのが、財政破綻のおそれだ。中国の債務残高の対GDP比は15%と低く見積もられている。しかし、実際の債務残高はこれより大きい可能性が高い。さらに中成長に移行すれば、当然ながら税収と保険料収入の減少につながる。

 また、現在、中国は規制金利で国債の発行金利は低く抑えられているが、中国人民銀行は今年から金利の自由化を加速させており、20年までに相当程度の金利自由化が達成されることになる。このために国債の元利償還負担も重くのしかかってくることになるのだ。

 さらに、これまで中国は改革開放政策により、輸出産業の強化やインフレ設備への投資を行なうことで高成長を維持してきたが、こうした政策が限界を迎えつつある。この限界を打破するには、さらなる規制緩和や自由化、民営化を進める必要がある。

 つまり、これからの中国には改革が必要だ。ただし、最大の問題は、中国最大の利権・コネ集団、共産党が政権を一党支配している体制だということだ。イノベーションにつなげるための規制緩和や自由化によって、既得権益を持った国有企業や党幹部の利権に切り込むことができるのかどうか。

 経済格差の拡大や地方官僚の腐敗といった民衆の不満の高まりも充満している。中国のインターネット人口は5億人を超えており、自分の権利を主張する傾向がある80年代に生まれた「80后」世代が社会の中心になる10年後は正念場を迎えそうだ。

 こうした現状を新指導部のキーパーソンである李克強氏や王岐山氏は危機としてとらえており、フランス革命に関する本、アレクシス・ド・トクヴィル著『旧体制と大革命』を周辺に強く勧めているという。18世紀後半、フランス革命勃発前夜のフランス社会に関するこの本での描写は、そのまま現在の中国社会の現実と置き換えることができ、中国で革命が起きかねない状況に直面している示唆が得られるのだという。

 また、こうした現状について、「週刊東洋経済」では田中直毅国際公共政策研究センター理事長の田中直毅氏の「今の中国は信用恐慌が頻発した19世紀後半のヨーロッパに酷似している」という見解を紹介している。ヨーロッパの19世紀後半は、労働者への所得の分配が必要で、奪権のために「労働者を団結せよ」という呼び掛けが生まれた時期だ。つまり、この時期にマルクスが「資本論」を執筆しているのだ。マルクスの資本論から派生した現在の中国共産党が、新たな労働者の団結に警戒をしなければならない。歴史の皮肉ではないか。
(文=松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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