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出版活動を委縮させるパロディ裁判に判決

『完全自殺マニア』スラップ訴訟で見た出版界、本当の病巣

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完全自殺マニュアル、完全自殺マニア写真1
 まず、(A)についてはパロディであるから依拠性ありと裁判所は判定した(社会評論社は依拠性なしと主張)。続いて、(B)であるが、写真1を見てもらいたい。表紙中央部分に金赤の色が箔押しされている縦長の六角形のイラスト、その六角形のイラストの内部の題号の色と書体、表紙の右端の題号の英訳など、表紙部分で7カ所、背表紙で5カ所、裏表紙で4カ所、合計16カ所の共通部分を抽出。東京地裁は16カ所すべてのイラストや表現を検討したが、「ありふれたもの」「特徴的なものとはいえない」「個性を有するものではない」などと、『完全自殺マニュアル』の創作性を一切認めなかった。さらに、「アイデアなど表現それ自体でない部分または表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない」と切り捨てている。

 最後に(C)であるが、(B)において共通部分に創作性がないうえ、写真1のとおり、表紙の六角形のイラストの両脇に描かれた棺桶(マニュアル)と墓石&位牌(マニア)、裏表紙の十字(マニュアル)と卍(マニア)について、両者の表現の相違は明らかと指摘。「カバー全体から受ける印象は相当異なる」とまで断言した。

 以上が自殺本パロディ事件の決定の内容である。今回は、棺桶に対して墓石&位牌、十字に対して卍という表現が相当異なったイラストであったことなどから、一定程度のパロディを認めつつ、著作権侵害ではないとする決定に至った。さらに、太田出版も理由はどうであれ、抗告せずとの判断を下した。

●パロディ作品は著作権の侵害なのか? 根本に迫れない日本の現状

 しかし、パロディ表現が抱える根深い問題が解決されたわけではない。なぜなら、01年に翻案とパロディをめぐって起きた『チーズはどこへ消えた?』(扶桑社)事件(当時大ヒットした『チーズはどこへ消えた?』を模倣した『バターはどこへ溶けた』が道出版から発売。扶桑社が東京地裁に出版差し止めの仮処分を申し立てた)でも、パロディと原著作者の権利関係を解明する試みが行われなかった。その後に起こったパロディ関連事件として注目された今回のケースにおいても、パロディと著作権というテーマに至る前に決定が下されてしまった。

 日本では、『チーズ』事件のように、ある著作物を真似て風刺・批評を行うパロディという表現は文学的には認められても、著作権法上では元となった著作物の権利は守られるべき――という判例(考え方)が一般的となっている。つまり、パロディという表現は、著作権者保護のために制約を受けるという考え方なのだ。

 一方、アメリカではフェアユースという考え方があるほか、フランスではパロディ法までが制定されている。表現の自由という観点からパロディに一定の権利を与えているのである。日本でもこのフェアユースの導入が文化庁で検討されているのだが、残念ながら、その議論からパロディは外されている。その理由は「検討すべき重要な論点が多く存在する」からだそうだ。これまでもパロディ作品とその著作権を争う裁判は何度もあった。しかし、司法はそれを避けてきた。行政も同じ理由で先延ばしにしている。立法府に至ってはもっと期待は薄いのが現状だ。

BusinessJournal編集部

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