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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第13夜】

密かな囲碁ブームの中「囲碁界の羽生」天才棋士・井山裕太とは?

井山裕太小籔似てる?(「情熱大陸HP」より)
ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:1月13日放送『情熱大陸』(TBS)

 レギュラー番組の年末最後、または年初めの放送が気になる。

「ウチはこのテーマを締めにいきます」「今年はこれでかましますよ!」という気合いを感じるからだ。特別そう宣言する訳でもなく、いつもの構成で、ナレーションで、演出で視聴者に意図を伝える。その緊張感はテレビならではだと、思う。そして番組を見続けて来たことで築かれた共犯関係さえも感じてしまう。

『情熱大陸』(TBS)、2012年のクライマックスは吉田豪さんだった。この時代を代表するインタビュアーを選ぶとはなんとも痛快な人選。で、期待の新年一発目は囲碁棋士の井山裕太氏。僕は井山氏の顔を見て「小薮千豊?」と思ったが、彼は若き囲碁の天才だ。

 番組は囲碁の現状をスケッチするシーンから始まった。子どもに若い女性、それもキレイ目な人を選び、彼女たちに「囲碁ガール」と口にさせる。今、囲碁は流行ってるんですよ、と証明するかのように『GOTEKI』(IGO AMIGO)なる雑誌も紹介。パッと見ファッション誌と間違えそうなおしゃれな表紙。「ほほう、こんなことになっているのか。で、今回は囲碁好きの女性がメインなのか」と油断させておきながら、彼女たちの注目を浴びる男として、かの「井山先生」が登場。

 将棋の羽生善治氏をして「強い」と太鼓判を押す彼の特徴を『情熱大陸』的演出でどどどーんと紹介するのが今回だ。「その1、テレビゲームで囲碁を覚えた」「その2、物欲がない」「その3、妻が将棋棋士」「その4 、将棋ができない」「その5、移動は電車」「その6、碁の左打ちを直さない」「その7、食事にあまりこだわらない」「その8、必需品はiPad」と、彼の強さの秘密に関する紹介が続く。途中、天才と全然関係ないじゃん! なモノもあったが、演出側が無理矢理こじつけたくなる気持ちも僕には分かる。井上氏は こちらの予想をひょいとかわしてしまう魅力があるのだ。

 彼の必需品は、年間賞金1億円を獲得しながらも、生活最低限のモノしかない、まるでモデルルームのような部屋に住み、生年月日が全く同じ妻と23歳の誕生日に入籍。彼女と将棋をしようとするが「飛車ってこっちで合ってる?」なんて言う始末。こんな微笑ましい夫婦に対し、『情熱大陸』は奥さんの「うふふふふ」「ふふ」と笑い声にだけテロップを重ねる演出で応えていた。スーパーファミコンのソフトをきかっけに囲碁にハマり、テレビ出演で出会った師匠と囲碁の世界では掟破りのインターネットを通しての“直接”指導で鍛えられた。

 顔を合わさないからこそ大胆な勝負が出来るのだと言う。

 ジャージ姿で寝ぐせさえも気にしない天才は勝負の格が違う。今回の『情熱大陸』は囲碁にはからきし縁がない僕でも彼の強さを丁寧に教えてくれるから、よく分かる。1000手先を読みながらも規定外の勝負を仕掛けるのが井上氏の凄さ。五冠の王者も「ん?」と混乱し、頭を抱える。爪をかみ、端から見ても彼が焦っているのが分かる。

 次なる試合も面白かった。対する九段の方が圧倒的に有利で、周囲を見守る師匠たちも「ダメだね」「逆転の所がないなぁ」と諦めるのだが、井山氏は誰も予想しない所に打ったのだ。制限時間ギリギリのやけくその一手と書いてしまうのは失礼だろうか。しかし、とてつもない勝負の可能性を想像しながら、ひょいと碁を打つ姿に、そんな言葉が浮かんでしまった。それも顔色一つ変えずに。

 すると九段は「えー!」「あいたたたた」「ありえないぐらいビックリするなー」と、驚きを隠せない。こうして形勢は逆転し、井山氏の勝利。半目勝ちとはいえ、制限時間ギリギリで放ったあの一手が勝負を決めたのは間違いない。映像で見るには、盤を向き合う男たちの姿が映るだけだが、彼らの脳内には1000を超える白と黒の碁が行き交い、戦っているのだろう。その片鱗を想像させる映像だった。

 番組はサインを求めるファンの姿で締められる。ひょうひょうと応える井山氏。粋な演出で未来を予感させる、新年に相応しい『情熱大陸』だった。
(文=松江哲明/映画監督)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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