ビジネスジャーナル > 自動車ニュース > 再生日産/弱くなったトヨタの違い
NEW

トヨタ弱くなり、日産“適材適所”で社員の潜在能力を引き出し再生

【この記事のキーワード】, ,

トヨタ弱くなり、日産“適材適所”で社員の潜在能力を引き出し再生の画像1「日産自動車 HP」より
「シャープ、4500億円の赤字」
「パナソニック、7650億円の赤字」

 日本を代表する大手電機メーカーは、前期に引き続き、2013年3月期決算でも厳しい見通しを発表している。
 
 これまで日本の成長を牽引してきた家電・自動車業界で、一体何が起こっているのか? 倒産の危機に陥った巨大電機メーカーの話を描くNHKドラマ『メイド イン ジャパン』(1月26日から3週連続で放送)の「原点」にもなった『メイド イン ジャパン 驕りの代償』(NHK出版)の著者で、ドラマの脚本作りに当たって取材協力をしたジャーナリスト・井上久男氏に前回に続いて

 「大手電機メーカー凋落やトヨタの経営の劣化の原因は何なのか?」
 「経営者という人材の劣化」
 「企業再生の復活への道」

などについて聞いた。

●勇んで韓国に渡る日本技術者たち

ーー日本メーカーの業績悪化の影響もあって、韓国メーカーなどにエンジニアがかなり流出しているようですね。

井上久男(以下、井上) 50代半ばくらいの人で、高い技術力を持つ人たちを狙って、韓国のメーカーなどが声をかけています。サムスンは、ヘッドハンティング会社に依頼するのではなくて、靴の底を減らして自分たちで歩き回って人材を探していますよ。

 声をかけられた日本のエンジニアの中には、今の会社でまだまだやりたいけれども、挑戦すべき仕事やポストも剥奪されて不完全燃焼の人たちがたくさんいるのです。そういう人は、「3~5年の契約をして、向こうで完全燃焼して、60歳くらいでまた日本に戻ってくる」と割り切って海を渡っている。ですので、彼らは「韓国メーカーに使い捨てられた」というようには思っていませんね。

ーー日本のメーカーは、リストラして、人材が海外に流出し、その海外企業に競争で負ける。悪循環ですね。

井上 日本のエンジニアの流出が非常に多かったのは4~5年前で、韓国メーカーからは「取るものは取ったから、もう日本人の価値はなくなった」という声も出ています。

●社員の潜在能力を引き出す日産

ーー復活した企業の例として、日産を紹介していますね。パナソニックやシャープが復活に向け、日産に学ぶことはありますか?

井上 あります。日産がここまで復活できたのは、従業員の潜在能力を経営者が引き出したからです。仕事に取り組む姿勢も、大きく変化したように見えます。「人材は上司のためにいるわけではない、人材は会社のためにいる」ということを徹底するような制度も導入しています。

 例えば、日産社内には「社内隠密」と呼ばれる人がいます。形式上は人事部に籍がありますが、人事部長の支配下にあるわけではありません。ビジネスの現場で活躍していた部長クラスがその任に当たっています。常に世界中を回り、どこにどのような人材がいるかをきちんと把握し、経営陣にそれをレポートしているわけです。直接の上司に内密に、人材にアプローチして面接したりすることもあるので、「隠密」と呼ばれているのです。

 そして、何か重要なプロジェクトを立ち上げるときには、好き嫌いなしに、「あそこにいるA氏を使うべきだ」と、上司に囲い込ませずに抜擢するわけです。つまり、適材適所ですね。

ーーカルロス・ゴーン氏の来日当初、手法がかなり強引だと批判する報道が多くなされました。

井上 この船に今1万人乗っているけれども、7000人しか乗船できないときが来たら、3000人には船から降りてもらわなければいけない。経営者というのは、そういう苦渋の決断をしなければならないときがあるのです。ゴーン氏はリバイバルプランという再建計画を立てて、「何年後にこういう利益を出します、それができなければ私は辞めます」と、コミットしたわけです。

 去年9月にゴーン氏にインタビューしたときに、当時のことを振り返ってもらったら、「私には自信があった。日産は潜在能力があるので、手術をすれば回復することはわかっていた」と言っていました。そして、「むしろ、これから先何をやるべきか、どうすればさらに伸ばしていくことができるかを考えなければいけない今のほうが、悩むことが多い」とも言っていました。

ーー今厳しいと言われている日本のメーカーも、日産のそうした取り組みに学び、やるべきことをやれば復活する可能性はあるということでしょうか?

井上 パナソニックにもシャープにも、40代の優秀な人材が残っています。そういう人を、きちんと使いこなせるかどうかなのではないでしょうか。そういう人は、「できることなら今の会社に骨を埋めよう」と思っているはずです。また、年齢的に骨を埋めようという覚悟もしやすいでしょう。「残された会社人生、ここで頑張るぞ」という気力も体力もあるでしょう。そういう人を、うまく使わないといけない。日産のリバイバルプランは、そういう40代の人たちを積極的に活用しました。

●ピンチに弱くなったトヨタ

ーートヨタはいかがですか? 本の中では、トヨタに変化が表れていると書かれていますが、どういう変化でしょうか?

井上 トヨタが日産になり、日産がトヨタになったということです。日産は非常にピンチに強い会社になりましたね。東日本大震災でも、タイの大洪水でも、回復が一番早かった。それは、先ほど言った人材の適材適所と、グローバルに意思疎通ができる組織にしたからです。そして、ホワイトカラーの生産性を高めるための取り組みも、すごく強化しています。

 まるで昔のトヨタを見ているようです。昔のトヨタは、それこそチーム一丸となって事に当たるという雰囲気がありました。だから非常に危機に強い会社だった。でも、今はピンチに弱い会社になってしまいました。図体が大きいだけ。ちょっと押されただけで泣いたり、倒れてしまったり。

 それは、多様な価値観の人材がいなくなったからだと思います。トヨタはよく「金太郎飴」だと言われてきましたが、意外といろいろな人間がいるのですよ。多様性を尊重して侃々諤々と議論を交わして、その上で結論を出す。そして一度決めたら、みんなそれに従う。そういう会社だったのです。今のトヨタは、そうではないですね。豊田家の考えで、すべてが動いているという気がします。

ーー最後に日本の製造業の未来について、どのようにお考えですか?

井上 市場が拡大している東南アジアなどでは、日本の家電製品は結構評価されているので、そういうところできちんと商売ができるかどうかにかかっていますね。中国だけでなく、海外に出ていくということは少なからずリスクはあります。でも、そのリスクをきちんとマネジメントして海外で商売をし、その富を日本に持ち帰り、日本の基盤を維持するという時代になってきていると思います。そのサイクルをきちんと回せれば、日本の電機メーカーは生き残れると思います。そのためには、リスクや摩擦を恐れない中央突破型の人材を会社で活用しなければならない。でも、多くの日本企業では「平家の公達」のように戦う本能を忘れたサラリーマンが増えていますね。

 海外に打って出ることについては、自動車メーカーではすでにそのモデルがある程度確立されています。そして生産拠点だけではなくて、これからは開発拠点も海外に作るべきだと思いますよ。こう言うと「空洞化だ」と騒ぐ人もいますが、目先の空洞化を恐れていたら何もかもなくなってしまいます。そういう時代ですよ。他力本願に、円安願望論だけを語っていてもダメですね。こういうのを「心の空洞化」というのではないでしょうか。

ーーちなみに、今回のNHKドラマ『メイド イン ジャパン』には、どこかモデルになった企業があるのですか?

井上 単独の企業でモデルになったところはないような気がしますが、パナソニックやシャープ、ソニーなど日本の家電メーカーで起きているようなことが総合的に表現されているのだと思います。NHKは企業関係者100人近くに会って取材したと聞いております。その多くのデータと脚本家のセリフがうまくかみ合って、重厚かつわかりやすい番組だと思います。番組のチーフプロデューサーも「現在進行形の番組」と言っていますしね。しかし、創業家や社歌が出てくると、人によっては想像する特定の企業もありますよね。これは本当にご想像にお任せしますということで。
(構成=編集部)

BusinessJournal編集部

Business Journal

企業・業界・経済・IT・社会・政治・マネー・ヘルスライフ・キャリア・エンタメなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト

Twitter: @biz_journal

Facebook: @biz.journal.cyzo

Instagram: @businessjournal3

ニュースサイト「Business Journal」

トヨタ弱くなり、日産“適材適所”で社員の潜在能力を引き出し再生のページです。ビジネスジャーナルは、自動車、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!