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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第14夜】

「自殺者は部屋が汚い」特殊清掃人を変えた自殺と孤独死のリアル

post_1446.jpg(「Thinkstock」より)
ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:1月20日放送『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)

 名言の連発だった。

 冒頭、いきなり竹内結子のナレーションで「ずっと一人で生きていくんだと決めていました」である。

 さらに「仕事は現場が教えてくれるよ」「日本語の使い方間違えたら大変なことになるぞ」「弟子に必要としてるのは技術より人の心」と続くのだからたまらない。

 僕はこの原稿の為に言葉をテキストに写しながら見ていたが、心のノートにも留めておこう。

 『ザ・ノンフィクション 特殊清掃人の結婚』は、清掃会社の社長が恋人を家族に紹介するシーンから始まる。出前寿司を囲んで男の両親が「彼女が出来たということで幸せだよ」と笑う。で、カンパーイ。和やかな雰囲気だが、竹内結子の声は重い。独身主義者を貫いてきた男が結婚を決めた理由を、番組は彼の過去を振り返る形で描く。

 男の仕事は特殊清掃人。孤独死や自殺した部屋の後始末をするのが彼の仕事だ。たとえば37歳の女性が自殺した場合。遺体からハエが異常発生したことにより、その死が判明した。そんな状況を「文字通り虫の知らせだ」と竹内結子は説明するが、「巧いこと言ってる場合か」とツッこみたくなるほどの酷い現場。対して社長は淡々と状況を説明する。自殺をする人の特徴は部屋が汚い。そうなると人を招くこともないから自分で考える時間が増えてしまう。外にも出ないから、深く考え過ぎて自殺を選んでしまう場合が多いのだ、と。

 また、ある父親の死は「死のかたちは さまざま。時には幸せな孤独死もある」と紹介された。このケースは他の現場との違いが際立った。この状態を見て社長は「亡くなっている人はだいたい玄関に首が向いている。苦しんで出ようとするから。でもこの人は違う」と語る。娘からの手紙を大切に保管してある袋を見つけ、遺族に渡す。「こういう人だったよね」とまるで暖かい通夜のような会話を交わす家族たち。袋を抱きしめる姿が僕にはスローモーションのように見えた。

 番組の中盤、個性の強いキャラクターが登場する。社長とは一回り以上も歳の違う25歳の若者だ。彼はミュージシャンをしながら「仕事として」と割り切って特殊清掃に就いた。「結構考えがドライなんですよ、僕」とキャメラの前で言えてしまうのだから相当な礼儀知らずだと映る。彼が仕事のトラブルが多そうなことは十分に分かってしまう。ある日は他人の駐車場に駐車してしまい、怒られてから移動したものの、なんとその際に接触事故を起してしまった。その結果、さらに相手を怒らせることに。彼は「やっちゃったものはしょうがない。勉強になったと……」言うのだが、それは事故を起こした人間が言う言葉ではない。社長は、怒られた経験がないからあやまるタイミングを知らないんだろうと分析する。

 しかし、彼のように若くても感情を抑えられるからこそ、特殊清掃の仕事も出来るのかもしれない。だが、それではいけないと社長は言う。ある孤独死と対面した時、社長は耐え切れなくなって外に出た。その人の職業が「清掃業」だったからだ。自分の過去と重ね、感情移入してしまったのだ。一方、若者は黙々と仕事を続ける。この現場で二人の仕事に対する明確な差が浮き彫りになってしまった。

 社長は行きつけの寿司屋に彼を誘う。「亡くなった人から何かを学べよ。俺はこの生き方で間違ってなかったのか教えて下さいって。現場で涙しながら作業するくらいになって欲しい。そうなった時にお前自身は大きく変わる」。この言葉を若者は黙って聞くが、僕には社長が自分自身に問いかけているかのようにも見えた。

 そして若者は変わる。ある清掃の場で、依頼人が彼のことをこう語っていた。「ほかの業者は靴を脱がなかった。でも彼は靴を脱ごうとしてくれた」と。

 さて、冒頭にある社長が結婚を決めた理由は、いくつもの死の現場とある若者の成長を通して見事に描かれていた。死に様を通して生き様を見せる、見事な構成だったと思う。そして不思議とポジティブな気持ちにもなれた。

 ラストの「家庭を持てるような男になりたいって思うようになった」という言葉が、とても暖かく聞こえた。
(文=松江哲明/映画監督)

BusinessJournal編集部

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