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アベノミクスと不動産株のTOBの連立方程式

映画の東宝が投資ファンドと裁判! 不動産事業完全子会社化に待った

文=編集部
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ジャニーズの舞台も多数開催! の帝国劇場。
(「Wikipedia」より)
 アベノミクスが不動産株のTOB(株式公開買い付け)に波乱を巻き起こした。東宝による東宝不動産のTOBが舞台だ。

 東宝は2013年1月9日から東証1部上場の子会社、東宝不動産を完全子会社にするためにTOBを実施。2月21日に終了した。買い付け後の東宝の東宝不動産株式の保有割合は77.09%、買い付け総額は73億4200万円だった。

 東宝不動産の株式は東宝が58.81%、阪急阪神東宝グループの阪急阪神ホールディングスが5.35%、エイチ・ツー・オーリテイリングが1.50%を保有しており、3社合わせて65.66%(12年8月31日現在)を持っていたことになる。それなのにTOBを行っても77.09%にしかならなかった。少数株主がほとんど応募しなかったということだ。100%買い付けて完全子会社にする所期の目的は達成できなかったが、東宝は、こうした事態になることを織り込み済みなのだ。

 このTOBはスクイーズアウトが目的だった。スクイーズアウトは「締め出す」という意味。少数株主を締め出すことだ。会社を支配している株主が少数株主に、その保有する株式の売り渡しを請求できる権利を認める制度をいう。

 議決権の3分の2を握った支配株主は、他の少数株主が保有する株式を、本人の意思とは無関係に強制的かつ支配株主の言い値で買い取れる。強制的に少数株主の株式を取得するには株主総会での特別決議が必要になるから、3分の2という数字が重要な要件になる。

 かつては少数株主全員の同意を必要としたが、会社法の改定によって特別決議があれば同意は不要になった。3分の2以上の株式を保有する東宝は、TOBに応募しなかった株主から強制的に株式を買い取って、東宝不動産を完全子会社にすることができる。少数株主は、いわば手切れ金ともいえる現金を受け取るしか方法がない。

 少数株主が応募しなかったのは、TOB価格が安かったからだ。その時の株価(時価)にいくらかのプレミアム(割増金)が付けられているが、TOB価格というのは買い付ける側が一方的に決めることができる。価格に不満なら応募しなければいいわけだ。

 東宝は1月8日の取引終了後、子会社の東宝不動産を完全子会社にすると発表した。総額166億円でTOBを実施し、全株取得を目指すとした。TOB価格は1株当たり735円で、8日の終値の552円に33.1%のプレミアムを付けた。

 昨年、民主党の野田佳彦元首相が党首討論の席で、衆議院の解散を明言したのは11月14日。政権交代への期待、自民党の大勝、安倍晋三首相の誕生で、株価は上昇を続けることになるが、その出発点となる11月14日の東宝不動産の終値は415円。TOBを発表した1月8日の終値は552円だから、アベノミクス効果で3割以上、既に上昇したことになる。これにプレミアムが付くのだからTOB価格の735円は、11月14日の終値から見れば77%高になる。

 しかし、TOB価格が発表されるや「不当に安い」と少数株主からブーイングが浴びせられた。そこでTOB価格の安さに目をつけて、投資ファンドが参戦してきた。

 TOB期間終了を2日後に控えた2月19日、ハワイホノルル籍のファンド「プロスペクト・アセット・マネジメント・インク」が大量保有報告書を提出。東宝不動産株式を5.43%保有していることを明らかにした。同ファンドは「不当に安い価格である」との声明を出し、少数株主にTOBに応募しないよう求め、すでに応募済みならキャンセルをするよう呼びかけた。

 この投資ファンドの狙いは何か。高値で東宝に持ち株を買い取ってもらうことだ。東宝不動産は東宝ツインタワービル、帝国劇場など都心の超優良物件を持っており、これが親会社の財務内容の改善に直結する。TOBが上手にできれば旨みは大きい。東宝は、できるだけ安いコストで完全子会社にしたいと考えていた。

 10年3月期決算から「賃貸等不動産の時価」が開示されるようになった。時価と簿価の差額が含み利益となる。東宝不動産(決算期は2月)の12年2月期決算時点の買い付け総額時価は686億円。簿価との差額、つまり含み益は447億円ある。含み資産を加算すると1株当たりの純資産は1500円。TOB価格の735円は、その半値だ。「不当に安い」と主張する側にも、それなりの根拠があるということになる。

 投資ファンド、プロスペクトは「1年前ですら実質的な1株純資産が1500円ある。この1年で不動産価格は上昇しており、納税分を考慮しなければ2000円以上になる」と主張している。

 買い取り価格に不満な少数株主はどうするのか。買い取り価格を裁判所に決めてもらう「買い取り価格決定の申し立て」を行い、裁判で争うことになる。TOB期間中に株式を取得したプロスペクトは、勝算ありとして勝負に出たわけだ。裁判では、1月8日に発表したTOB価格が妥当かどうかが争われる。

 今、アベノミクスで不動産業界が沸いている。政府は日銀次期総裁に黒田東彦アジア開発銀行総裁を充てる人事案を固めた。市場には安倍晋三首相の人選について「狙いは株高や地価上昇に伴う資産効果ではないか」との声が上がっている。

 不動産投資信託(REIT)の価格は08年のリーマン・ショックの直前の水準を上回るところまで上昇した。東宝不動産が保有する賃貸不動産の時価は膨らみ、含み益はさらに増大する。13年2月期の含み益は、1年前より格段に増えるだろう。地価の上昇をもたらしたアベノミクスがTOB価格に反映されているのか、いないのか。ここが裁判のポイントになりそうだ。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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