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「首相官邸 公式サイト」より
もともと、TPPは2006年5月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)のシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリの4カ国が結んだ経済連携協定だが、09年11月にオバマ大統領が参加の意向を表明したことにより、米国主導に変質した。
アジア太平洋地域の国々のヒト、モノ、サービス、カネの移動をほぼ完全に自由にしようという、新たな自由貿易の枠組みを目指すことになり、その後、カナダなど6カ国も拡大交渉に参加した。米政府は「13年の完了」を目指すが、実現の保証はどこにもない。
日本は10年11月、菅直人元首相が交渉参加に向けて関係国との協議に着手する基本方針を表明した。しかし、今日に至るまで、参加には至っていなかった。農業、医療分野などで反対論が根強く、参加の是非をめぐる国内の世論が収斂していないからだ。
安倍首相は2月22日の日米首脳会談後に「聖域なき関税撤廃が前提でない」という趣旨のTPPについての共同声明を発表、その後の会見で早期に交渉に参加する意向を明らかにした。支持基盤である農業団体が反対の急先鋒なため、自民党内に慎重論が根強かったものの、正式表明は時間の問題だった。
米国の狙いは、はっきりしている。発展著しい太平洋を取り巻くアジア、中南米の国々を米国流のルールの枠内に取り込み、米国が経済的にも覇権国家として君臨することだ。この野望を踏まえ、参加の是非を熟慮すべきだが、国内議論ではこの視点が欠落している。
1970年代以降の日米経済摩擦の歴史を振り返ればわかることだが、高まる日本の経済的プレゼンスを潰そうと、次から次へと高飛車な要求を突き付けた米国、小出しに要求を受け入れ、妥協を繰り返した日本。そして、日本の経済力は米国にとってそれほど脅威にならないところまで削ぎ落とされてしまった。そんな日本が交渉に参加して、外交力で米国に立ち向かい、日本に有利な貿易ルールを勝ち取れるのだろうか。
●見落とされる貿易と為替の観点
もう一つ、忘れてはいけないのは、電機、自動車などの加工組み立て産業の輸出競争力で、多額の貿易黒字を稼ぎ続けた、四半世紀前の日本とはまったく違うことだ。原発の運転停止に伴うエネルギーの輸入増があるとはいえ、過去2年は貿易赤字国に転落している。
特に、12年の貿易収支の赤字額(6兆9273億円)は第2次石油危機後の1980年を大幅に上回り、32年ぶりに過去最大を更新した。この事実も重く受け止めねばなるまい。
また、為替市場の潮目も完全に変わっている。経済再建を目指す緊縮策の行方が不透明になったイタリア総選挙の結果(2月下旬)、そして、今年9月までに850億ドル(約8兆円)の予算をカットする米国の歳出強制削減策発動(3月1日)ーー。こうした円買い材料にはほとんど反応していない。
ニューヨーク株式市場では、ダウ工業株30種平均が3月11日までの7営業日連続で続伸し、5営業日連続で史上最高値を更新している。市場予想を大きく上回って改善した雇用統計などのプラス材料にのみ反応し、緩やかな改善が続く米景気への期待が上げ相場を演出している。
米国景気回復への期待はドル高円安要因になり、3月11日の円相場は1ドル=96円台前半に下落した。日本株のほうも、日経平均株価が8日続伸、一時1万2400円乗せとなり、4年半ぶりの高値水準となった。しばらくは円安、株高基調が続くだろう。
いずれにせよ、マーケットの潮目が変わったことにより、日本企業の輸出競争力は回復し、関税障壁の影響は薄らぐわけだ。