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ついにアベノミクス崩壊の足跡が迫ってきた

黒田日銀異次元緩和の副作用か…住宅ローン上昇、賃金抑制、国債取引市場混乱

文=鷲尾香一/ジャーナリスト
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post_2291.jpgもはや政府もわけからん?(「足成」より)
 安倍晋三首相の「アベノミクス」政策にも陰りが出てきたようだ。急速に1万5000円に駆け上がった日経平均株価は、上昇した時以上のスピードで下落している。輸出企業の業績回復の命綱だった外国為替相場は、一時の円安傾向が嘘のように円高に振れ始め、1ドル=100円を割り込んでいる。

 エネルギー資源を中心に食品価格など輸入物価が上昇し、また、金利上昇と連動して住宅ローンが上昇するなどの影響が出始めている一方で、給与所得は増えず、景気が回復している実感のない状態が続いている。

 その一因となっているのが、アベノミクスの象徴でもあった黒田東彦・日銀総裁の“異次元緩和”による副作用だろう。市場関係者が“バズーカ砲”と表現したほどの金融緩和
は、政府が発行した国債の7割を買い取る政策。

 金融機関はいつでも保有する国債を日銀が買い取ってくれると確信したことで、保有国債の売却を手控えるようになる。売却量が減少すれば、買い手も減少する。買い手が減少することで、必要な時に必要な分の国債を売却できないのではないかという疑念が生まれ、高値警戒感が強まることになる。

 こうした状況の中で、国債の売却を行おうとすれば、買い手よりも売り手が多いのだから価格が下落し、長期金利が上昇することになる。買い手が日銀に集中することで、民間金融機関同士の売買が減少し、価格変動リスクが増加することになる。民間金融機関による“正常な”市場取引が阻害され、破壊されていく。

 一度価格が乱高下すると、悪循環が生まれ、価格変動リスクを回避しようとする金融機関が国債の保有を敬遠するようになる。これにより、国債の入札が変調を来すことになり、政府の国債発行が順調に進まない状況が生まれてくる可能性がある。

 日銀は市場参加者との対話を通じ、オペの方法を変更するなど、市場の落ち着きを取り戻すような手段を探っている。しかし、現在の“異次元緩和”は、これまで投与したことのない薬を多量に服用しているようなものだ。どんな副作用が起こるか想定できない状況にある。

 中長期的な財政再建策が打ち出されていない状況で、異次元緩和のような政策を継続することは、長期金利の急上昇から国債の利払い負担の増加を招き、財政破綻の引き金を引く可能性がある。

 国債価格の急落、財政危機の可能性について、政府・日銀はどのような対策を打つのであろうか。ここに驚くべき事実がある。

 11年6月、当時は野党であった自民党が「X-dayプロジェクト」という報告書をまとめた。国債価格の暴落と財政破綻への対処について検討した報告書だ。

 そこには国債価格の暴落により、
(1)一部金融機関の経営不安や金融システム不安。
(2)企業の資金調達の停滞や過大負債企業の経営困難。
(3)市中金利の上昇に伴う個人への影響。
(4)政府財政の一段の悪化、1%の金利上昇は1年で1兆円、2年で2.5兆円、3年で4.2兆円の利払い費増加を招く――と想定されている。

 その対応策として挙げられている金融政策は、
(1)日銀は前例に囚われない思い切った潤沢な資金供給を金融市場に対して機動的に行う。
(2)国債の買い切りオペ額の大幅な増額を行う。
(3)リーマンショック時に米国FRBが講じた一連の非伝統的な措置や量的緩和策を参考に、リスク資産等の購入も思い切って行う――というもの。

 この危機時の金融政策として想定された内容は、黒田日銀が実施した“異次元緩和”そのものなのだ。

 黒田総裁は“異次元金融緩和”の実施にあたり、「やれることは出し惜しみせず全て行った」と言っている。とするならば、国債価格暴落の危機時には、“すでに打つ手はない”ということではないか。野党時代だったとは言え、自民党は自らが国債価格暴落時の危機対応策として検討していた政策を、アベノミクスが掲げる「デフレ経済からの脱却」「2%のインフレ目標」のために差し出したのか。

 国債価格の暴落という緊急事態が起こらないことを祈るばかりだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

鷲尾香一/ジャーナリスト

鷲尾香一/ジャーナリスト

本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

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