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幻となった三井造船との経営統合

川崎重工、社長解任クーデターの舞台裏 社内抗争が三井造船との統合破談騒動に発展

文=編集部
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post_2350.jpg三井も辛い。(「三井造船HP」より)
『川重・三井造船 統合交渉』(日経4月22日付朝刊、1面TOP)のスクープが6月13日、川崎重工業の長谷川聡社長(65)の解任に発展した。

 東京証券取引所の情報開示ルールに従い、4月22日の朝、川崎重工業は「当社が発表したものではなく、そのような事実はありません」とコメントした。三井造船も「当社として発表したものではありません」とした。そして、川崎重工は長谷川社長を解任した6月13日に、「交渉の事実はあるが何も決まっていない」とコメントの内容を変更した上で、「本日の臨時取締役会で(交渉を)打ち切ることを決定しました」と発表した。

 日経は6月14日付朝刊総合2面で『総会前、異例の造反劇 10対3で解任決定』と報じた。記事の末尾に、『情報開示姿勢に疑問の声』という一段の小さい見出しを立てて、「今回、川崎重工は統合交渉について『(交渉)事実はない』との4月22日付のコメントを「事実はある」と訂正した」と書いている。

 18日付朝刊では『川重解任劇4つの疑問』の見出しを掲げ、「誤った内容の情報を開示した企業の責任は」と川重の説明責任を追及している。「4月22日に日本経済新聞が両社の経営統合交渉を報じた際、川崎重工は『そのような事実はない』と適時開示したが、6月13日には「事実はある」と訂正した」。何故、日経はここまでこだわり、統合阻止派に批判的な報道をするのだろうか。

 それは日経のスクープが、一部で“日経ファースト”の報道と疑われているからだ。日経ファーストとは、日経に「新製品開発」や「提携」などの情報を意図的にリークし、いかに都合良く書かせるかということ。「週刊ダイヤモンド」(5月25日特大号)が『経済ニュースを疑え!』で日経ファーストの実態を赤裸々に報じたことから、この言葉が一般化した。

 長谷川聡社長らの解任動議を主導したのは三井造船との経営統合に反対していた大橋忠晴会長。実際に動いたのは6月13日付で副社長に昇格した松岡京平・前常務である。2人がクーデターのシナリオを書いた、とされている。大橋会長、松岡副社長(前常務)とも鉄道車両部門の出身。三井造船との合併を推進してきた長谷川聡・前社長、高尾光俊・前副社長、廣畑昌彦・前常務の“3人組”はいずれもガスタービン・機械部門の出身。新しい社長になった村山滋・前常務は航空宇宙出身。川崎重工の稼ぎ頭は鉄道車両であり航空機・宇宙分野である。鉄道車両と航空宇宙の出身者が他の部門の役員を糾合してクーデターを起こしたのだ。川崎重工は鉄道車両、航空機・宇宙、モーターサイクル・エンジン(カワサキのオートバイで知られる)、精密機械、プラント・環境、船舶海洋、ガスタービン・機械など7つのカンパニーの集合体で各部門が独立国だ。船舶海洋出身の神林伸光取締役や、もう一人のガスタービン・機械出身の井城譲治常務も解任動議に賛成している。

 大橋会長、松岡副社長(前常務)が造反劇を演じた動機を川崎重工の元役員はこう語る。「三井造船と経営統合すると、現在売り上げの7%に過ぎない船舶・海洋開発の比重が高くなり、鉄道車両、航空機・宇宙は地盤沈下する」

 解任された長谷川・前社長はメインバンクの、みずほコーポレート銀行の佐藤康博頭取(佐藤氏は、みずほフィナンシャルグループの社長でもある)を後ろ盾にして三井造船との経営統合を強引に進めてきた。高尾、廣畑の両氏は企業担当でメインバンクと密接な関係にあった。三井造船のメインバンクは三井住友銀行だが、サブはみずほコーポレート銀だ。川崎重工のサブは三井住友銀行だ。メガバンクのトップと阿吽の呼吸で経営統合は進められてきており、しかも、「(水面下)の交渉は順調」との報告を受けていただけにメインバンクのショックは大きい。クーデターを直前まで知らなかったようだ。

 幻の経営統合となってしまった三井造船側の痛手は大きい。三井造船は造船部門が売り上げの半分を占める。造船の構造不況の直撃を受けて2013年3月期決算は11年ぶりに連結税引後利益が82億円の赤字に転落した。川崎重工のクーデター派が「三井造船と合併してもメリットはない」と主張している背景には三井造船の脆弱な経営体質がある。川崎重工の合併推進派は「三井造船の子会社の三井海洋開発は大きな魅力だ。将来的に(三井造船の)造船は切り捨ててもいい」と考えていたフシがある。三井海洋開発は三井造船が50.1%、三井物産が14.9%出資している浮体式の原油生産貯蔵設備(FPSO)の専業大手である。

 日経は『新たな提携不可欠 三井造船、海洋開発強みに』(日経6月14日付企業統合面)と書く。「三井造船が海洋開発を前面に打ち出して他社との交渉に臨めば、新たなM&A(合併・買収)が実現することも考えられる。」「三井造船は27日に株主総会を開き、田中孝雄常務が社長に昇格する。新社長は就任早々から、積極的な再編策を打つことが求められそうだ。」川崎重工の合併推進派の主張と日経の報道は軌を一にする。

「国内の経済メディアは一強皆弱ともいえる、いびつな構図になっている。圧倒的なマンパワーで国内の経済ニュースを寡占している日経とその他大勢――」(週刊ダイヤモンド)。

 日経に『川重・三井造船 統合交渉』をリークしたのは誰なのか? 合併推進派が日経に書かせて、ほかの全国紙に後追いさせて(事実、4月22日の夕刊で各紙とも後追いした。日経の1面トップの記事だから無視できなかったのだろう)、合併を既成事実にしようとしたとの見方が根強くある。

 6月26日の株主総会前に、35分間で成功するようなクーデターが起きたのは、合併推進派の長谷川・前社長が株主総会後に取締役を入れ替えて、新しい経営陣のもとで合併推進を決めようとしたことが原因だ。合併阻止派がこれに先手を打った。クーデターを主導した大橋会長も、今回の株主総会で退任することになっていた。

 松岡副社長は6月13日の記者会見で「(合併しても)企業価値の増大につながるようなシナジー(相乗効果)がない」と断言した。「統合交渉しているという報道が出た後、市場は統合価値の向上につながらないと反応した(株価は報道後、24円下落し、6月13日の終値も306円、17円安と低迷した)。ほとんどの取締役も、そういう印象を持ったのではないか」と述べている。合併が白紙還元されたとたんに川崎重工の株価は反発した。一方、三井造船の株価は下げた。

 合併をテコに勢力を拡大しようとした役員を、主流派の鉄道車両、航空機・宇宙部門の役員が葬り去った。これがクーデター劇の真相である。

クーデター直後に流れた情報を吟味する

 朝日新聞(6月16日付朝刊)は「事前に大橋忠晴会長が長谷川聡社長(当時)に辞任を迫っていたことがわかった。経営陣の対立が表面化することを避けるため。ただ、三井造船との統合に積極的な長谷川氏はこれを拒否。13日の臨時取締役会の解任につながった」と報じた。

 日経(6月15日付朝刊)は解任劇の底流に社長の椅子争いがあるとした。「総会後には大橋忠晴会長が退任し長谷川氏が筆頭の取締役になる」「全ては株主総会が終わってからと長谷川氏は周囲に漏らしていた。26日の株主総会で自らの立場を盤石にしてから統合交渉を進めるという意味だ」。

 さらに、次期社長を巡る争いが(クーデター劇の)背景にあるとの見方を日経は示している。「炭素繊維を使った航空機の胴体部品が好調な航空宇宙部門出身の村山氏は、次期社長候補の筆頭格。だが、三井造船の統合が実現すれば統合派の高尾氏が次期社長となる可能性が高まる」。

 6月26日に迫った株主総会について、いち早く言及したのは産経新聞(6月16日付朝刊)だ。『招集通知はすでに発送。どうなる株主総会』という見出しを立てた。「解任された社長を含む取締役選任の議案が記載されているためだ。すでに議案を修正。専門家を交えて検討を急ぐが、総会までの期間は短く、延期や定時総会後に改めて臨時株主総会を開く可能性も残る」。「13日の臨時取締役会で解任された前社長ら取締役3人が再任予定者として記載されている。同社は取締役選任の議案を一部修正し、株主に通知した」。

 13日までに書面で議案に対する賛否の投票をした株主への対応で問題が生じている。総会直前の解任劇は大きな波紋を描いている。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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