ビジネスジャーナル > 社会ニュース > ワタミのブラック批判を洞察する  > 2ページ目
NEW

ワタミ“ブラック”批判を洞察する…「社会貢献もどき」に走る人たちが学ぶべきこと

【この記事のキーワード】, , ,

●これからの日本に求められる人材と教育

 2010年、日本はGDP(国内総生産)で中国に抜かれ世界3位になったが、いよいよ「本当に幸せな国」を目指す時代を迎えたのではないだろうか。それを実現できる企業こそ、真に価値ある組織といえよう。

 「武士は食わねど高楊枝」の精神だけでは、日本、いや、世界を動かすような「愛ある経営」の実践は不可能だ。愛の実践には、しっかりとした志、計画性、そして行動力が求められる。その意味で、「社会貢献」という偽善とも思える甘い囁きで、若者を空虚な夢物語に巻き込もうとする現代的風潮は、罪深い行為といえよう。

 ホスピタリティ教育の観点からも、大学(中学校・高校)では、社会貢献は絵空事ではないことを学生たちに知らしめるべきである。自らの食いぶちを見つけることもせず、「ボランティアもどき」に走る人間を大量生産する「夢物語教育」よりも、現実の厳しさを教える実学教育こそ、ホスピタリティ実践の基礎を築くのではないだろうか。これこそ「愛の鞭」と呼べよう。

 「愛」という言葉からは、静的なニュアンスを感じるかもしれないが、前述の事例からも明らかなように、愛をベースにしたホスピタリティの実践には動的な「アニマル・スピリット」が必須である。だからこそ、今の日本人には「アベノミクスなどに頼らない」というほどの心意気が求められる。

 戦後、焦土と化した日本から、ソニーや本田技研工業(ホンダ)といった「焼け跡派ベンチャー」が急成長しグローバル企業になった現実は、アメリカの経営学者の目には「経営史の奇跡」と映った。それがきっかけとなり、「日本的経営」の研究が始まる。米経営学者ジェイムズ・アベグレンはその成果をまとめ『日本の経営』(日本経済新聞社)として上梓した。

 東日本大震災で見せた日本人の「絆」は外国の人びとに感動を与えた。それは、日本人として嬉しいことだが、お褒めの言葉に甘んじていていいのだろうか。「第二の敗戦」と言われた東日本大震災。「これで日本人も変わる」と期待した識者も少なくなかった。確かに、エネルギー問題を深刻に再考するなど、変わった部分もあるが、「創造」の意識が高まり、行動に移したとはいえない。相変わらず、諸先輩がつくった遺産にぶら下がり食っていこうとする意識に、大きな変化は見られない。そのシステムが錆びつき、「食いぶち」が少なくなってきているという厳しい現実を前にしても、誰かがなんとかしてくれると思っている節がある。今こそ、「焼け跡派ベンチャー」だけでなく、戦前に丁稚奉公から身を起こした大企業の創業者に学ぶべきではないか。

 「草食系」という言葉がすっかり定着してしまったが、現在、求められているのは、決して「言われたことだけを的確にこなせるだけの人」ではない。新事業を創造できる「創職系」である。それは単に「起業家」だけを意味しているのではない。サラリーマンであっても社内に新事業を起こせる「社内企業家」、それをきっかけにグループ企業の社長に転じる人、小商いからスタートする「商売人」、さらには、就職活動に取り組もうとしている(取り組んでいる)大学生でも、「入社したら、私はこんな事業を始めたい」と自ら編み出した斬新なビジネスプランを、面接時に堂々とプレゼンできる人などを指している。

 「草食系」をもじった「創職系」は駄洒落のようだが、是非とも、この言葉と概念を世の中に定着させたいものだ。筆者が考案したこの言葉が定着したときこそ、「日本人は変わった」と外国から再び注目されるようになるのではないか。ただし、利潤・時価総額の最大化のみを狙った人員削減、過度(無駄)な労働強化、部下を教育する余裕すら失う成果主義、低賃金雇用を狙った植民地型グローバル経営などに走ってはならない。一人ひとりの価値観、信念、自我を尊重しない環境では、創造性、相互信頼、共愛の関係は生まれない。「愛」を忘れた「創職系」が台頭すれば、再び「エコノミック・アニマル」の再来と揶揄されることだろう。日本企業が新事業を創造し「愛」を最大目的とする経営を展開すれば、「新日本的経営」として、外国から再び注目されるだけでなく、既存の「日本的経営」とは違った視点から尊敬の眼差しで見られるようになるだろう。

 かつての大阪商人を表す言葉として「浪速のど根性」が使われた。非常に古典的な概念だが、今の日本人には何よりも「根性」が必要だ。実は「根性」にも愛が求められる。大学生と接している私は、頼りない若者を見ていると渡邉氏の言わんとするところが分からないわけではない。だが、単純な「根性論」が通じないという世論・現実も計算に入れ、発言・行動しないと、バッシングの嵐が吹き荒れる。

 「ソーシャル・ビジネス」と「ブラック企業」という相反する概念が、同時に流行する今の世の中で、より深く考えれば「ベストな解」が求められそうだ。私は現在、それを研究しているところだ。
(文=長田貴仁/経営学者・ジャーナリスト)

BusinessJournal編集部

Business Journal

企業・業界・経済・IT・社会・政治・マネー・ヘルスライフ・キャリア・エンタメなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト

Twitter: @biz_journal

Facebook: @biz.journal.cyzo

Instagram: @businessjournal3

ニュースサイト「Business Journal」

ワタミ“ブラック”批判を洞察する…「社会貢献もどき」に走る人たちが学ぶべきことのページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!