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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第34回

リストラ部屋に有能な記者に追いやる、大手新聞社の無能な経営陣…内部告発文書飛び交う

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リストラ部屋に有能な記者に追いやる、大手新聞社の無能な経営陣…内部告発文書飛び交うの画像1「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

追い出し部屋”というのは、大企業が中高年のサラリーマンにろくな仕事を与えず、自主的な形で退職させ、65歳の定年まで雇う義務から逃れ、人件費負担を削減するために設置している部署である。新聞社もそうした狙いに合致する部署はあるが、製造業などに比べると、待遇が破格にいいので、辞めてくれない。

 つまり、国際競争力の劣化に苦しむ製造業とは違い、日刊新聞法という保護の下で、新聞社は部数と広告が減り続けているのに、暴利をむさぼっている。だから、新聞社の経営者たちは“追い出し部屋”を使って、中高年の記者を減らそうとはしない。その必要がないからだ。新聞経営者にとって目障りなのは、能力があり、実績のある記者たちである。

 大都新聞社や日亜新聞社のように、編集幹部から経営陣まで、“3つのN”(可もなし、不可もなし、実績もなし)で、“2つのS”(シークレット、スキャンダル)を共有する連中が牛耳るようになってしまうと、“追い出し部屋”はいらないが、“座敷牢”が必要になる。目障りな“優秀な記者”たちを隔離して、新聞編集や経営に嘴を入れさせないようにするためだ。

 その“座敷牢”として利用されているのが日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)である。ろくな仕事がないのは“追い出し部屋”と同じだが、“能力があり、実績のある記者”たちはいたたまれなくなって辞めるようなことはない。もちろん、“座敷牢”に入れられても、製造業のサラリーマンたちには想像もできないような高給を与えられ、しかも、老後の企業年金も保証されていることもあるが、それだけではない。

 一部の例外を除くと、“座敷牢”の連中はジャーナリストとしての矜持の残滓が残っている。“3つのN”と“2つのS”を共有する堕落しきった経営陣や編集幹部を苦々しく思っているのは間違いない。しっぺ返しの機会をうかがっているところもあるが、実際のところは、寄る年波もあり、怒りはだんだん薄れる。定年で新聞社を離れた後、何をするかのほうが大事になっているのが実情なのかもしれない。にもかかわらず、無能な経営陣からすれば、目障りな存在で、“不満分子”と映り、スパイを送り込んで監視しようとまでするのである。

 大都新聞社長の松野弥助(まつのやすけ)にとって、そんな“不満分子”の代表格が深井宣光(ふかいのりみつ)だった。

●最初の“さざ波”

 大都社長の松野と日亜新聞社長の村尾倫郎(むらおみちお)が合併で合意する6日前の火曜日である。その日、深井が自宅マンションを出たのは午前10時過ぎだった。有楽町にある出向先の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)の資料室に入ったのはいつも通り、午前10時過ぎだった。

 ジャナ研に移ってから、深井は判で押したように行動しているのだが、その日はその変化のない日常に“さざ波”が立つ場面に遭遇した。

地下鉄の永田町駅のホームで有楽町線に乗り換えるとき、電車に乗る深井と入れ替わりに降りた一人の中年女性が目に留った。どこかで会った記憶があったからだ。

 有楽町駅まで2駅。深井は「誰だろう」と、記憶の糸を辿った。

 「あ、日亜新聞の記者だ。名前は忘れたが、10年前、郵政省の記者クラブにいた女性記者だ。当時は30歳半ばだったから、今は40歳代半ばか。以前より少しあか抜けて、年齢よりは若く見えるな。でも、彼女は確か海外支局勤務になっていると聞いていたが、帰ってきていたのか…。それとも他人の空似か」

 そんなことを思っていると、電車は有楽町駅に着いた。

●2度目の“さざ波”

 資料室の受付カウンターの席では、資料の管理と閲覧者の受付が仕事の女性職員、開高美舞(かいこうみまい)がパソコンに向かっていた。利用者はあっても月に一人か二人しかいないが、開館が午前10時から午後5時までで、受付担当の出勤時間は午前9時45分だった。

 「おはよう」

 深井は入口を通り過ぎ、書庫の入口と閲覧用テーブルの脇をすり抜け、奥の窓際にある首席研究員のブースに入った。深井の肩書はジャナ研の首席研究員だった。

 ブースは受付から窓際に向かって左右の壁に3つずつ、並んでいる。深井の席は左側の窓際のブースで、背中あわせにある右側のはもう一人の首席研究員の席だが、月に1日か2日しか出勤しない。残りの4つのブースは空席なので、通常、資料室に勤務するのは深井と美舞の二人だけ、時折、もう一人の首席研究員が加わるというのが実態だった。

 ブースの手前に置かれたハンガーラックのところで、深井は濃紺の半コートを脱ぎ、ラックに吊るした。そして、自分のブースの席に着くと一通の封書が置かれていた。ジャナ研出向後は郵便物が届くことはめったになかった。特に、資料室勤務になってからの1年間は、ほんの数回しか届いていない。もちろん、電話もかからない。友人や知人は携帯電話にかけてくるので、それは当然として、郵便物がこないのは仕事がない証明でもあった。これが2度目の“さざ波”だった。

 封筒は日本報道協会の社用封筒で、90円切手と、自分の名前が印刷されたラベルが貼ってあった。表面の下部には印刷された報道協会の住所や部署があるだけで、差出人は書かれていない。裏返しても、何も書かれていない。

 ジャナ研は報道協会の傘下にある。しかし、協会とは独立した組織で、研究所として独自の社用封筒を持っており、部内の書類はすべてジャナ研の社用封筒で送られてくる。深井が出向して協会の社用封筒で送られてきた郵便は初めてだった。

BusinessJournal編集部

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