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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第35回

大相撲の八百長は無視!?“危ない案件”は取材しない、大手新聞の似非ジャーナリズム

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 《私は、新聞社という組織は、ジャーナリズム精神が旺盛な人たちが中枢に座っていないといけないと考えています。少なくとも、先輩は政治記者という悪弊に染まらず、ジャーナリストとして当然やるべきことをやることのできる記者だと思います》

●深井にジャーナリストとしての復帰を促す

 《大手新聞社では、先輩のような人は、絶滅してしまったと言っても過言ではありません。私も、政治記者になりたてのころは悪弊に染まるようなことはありませんでした。言い訳になりますが、先輩のように政治家の不祥事を暴く端緒となるような情報を得ることもなかったのです。努力をしなかったお前が悪い、と言われればそれまでですが、とにかく、そんなこともあって、段々悪弊に染まっていきました。それでも、まだ、ジャーナリストの精神の残滓はあり、私自身、新聞社の傍流に押しやられつつあります》

 《〝活字離れ〟が言われ出したのは15年ほど前からです。でも、部数は増えませんでしたが、減りもしませんでした。その一方で、広告市場は伸び率が鈍化したものの、成長を続け、新聞社の経営はびくともしませんでした。この間、大手新聞社ではどこでもジャーナリストと無縁な連中が跋扈(ばっこ)し始めました》

 《部数が減り始めたのは10年ほど前からですが、微減が続く状態で、口では『大変だ』といいつつ業界に危機感が醸成されることはありませんでした。広告市場がかろうじて現状維持を続けたからです。ところが、ネット市場の急成長で、新聞広告が落ち始めました。5年ほど前からです。そして、2年半前のリーマンショック。広告が急減し始めたのです。今はピークの半分程度に落ち込んでいます》

 《そこに追い打ちを掛けたのが部数減です。減少幅が拡大し始めたのです。しかし、新聞社の中枢にはもはやジャーナリストと無縁な連中しか残っていなくなっているのです。新聞社がジャーナリズムとして如何に生き残るか、考えるようなことはありません》

 《ジャーナリストの落ちこぼれでも、経営者としての資質のある者ならいいのですが、単に事務処理能力があるくらいの奴しかいないのです。経営能力のあるような者は、最初から新聞社などには入社しません。官僚や大企業を目指すのが普通だからです。もし、いるとすれば、ジャーナリストとして一流の評価を得た者の中にいるのです。その人たちが排除されてしまった以上、当然の結果です。生き残りのためにやることといえば、経費節減くらいしか思い浮かばないのです》

 《どの道、新聞という存在は衰退の道を歩むのでしょうが、全くなくなることはないはずです。ならば、ジャーナリズムとして残らねばなりません。そして、少しでも衰退のスピードをゆっくりしたものにしなければなりません。今の新聞社の中枢を総入れ替えするのが最も望ましいのですが、そこまでは無理なら、最低限、先輩のようなジャーナリスト精神を持ち続けている方々が中枢に参画する環境を作る必要がある、それが私の考えです》

 《仄聞した先輩の日常生活から考えると、恬淡とした好々爺のようで、ジャーナリズムに絶望しておられるのかもしれません。でも、今は人生80年という高齢化社会です。まだ、約20年あるではないですか。もう一度、ジャーナリズムのために活動する気になって頂けないでしょうか。内に秘めた激情家としての思いをよみがえらせればいいのです》

 《身勝手なお願いであることは重々承知しています。私たちのように、会社に首根っこを押さえつけられている者だけでは、もはやどうにもならないところにきています。OBとなられ、悠々自適の年金生活者となっている先輩の皆さまならば、自由に行動できるはずです。何とぞ、ジャーナリズムの未来のために、これから先、20年をどうされるのか、再考して頂ければ幸甚です。
20XX年2月吉日
  ジャーナリズムの再構築を願う者より

 追伸 先輩の出身母体である大都新聞で、最近起きているスキャンダル等を紹介した別紙を添付しますので、これにも目を通して頂き、再考する際の参考にしてください》

 A4用紙3枚の手紙を読み終えて3枚目をめくると、「別紙・参考資料」という表題がついた最後の4枚目になる。ぱらぱらめくった時は気付かなかったが、「参考資料」は手紙よりも小さい字でプリントされていた。遠近両用眼鏡を外し、目を通すと、大都で過去に表沙汰になった不祥事や、隠ぺいされたスキャンダルを整理してまとめてあった。しかし、社内事情に疎い深井でもすでに耳にしたことのある情報ばかりだった。

●情報通の美舞は深井の貴重な情報源

 深井は喫茶店を出たが、まだ、昼前だった。脳裏に興味津津の開高美舞のまる顔が浮かんだ。

 美舞は深井より1歳年下の59歳。身長1メートル50センチそこそこ、若かりし頃はぽっちゃりした丸顔、目がクリクリした、キュートなトランジスタグラマーだったらしい。その面影は少し残っているが、見る影もないと言った方が適当かも知れない。首のない徳利のような体型で、体のわりに足が小さいのか、歩く姿はよたよたしてみえる。

 昭和40年代半ば頃から、報道協会では3、4年ごとに大学新卒の女子職員を2、3名採用している。美舞は昭和50年に都内の女子大を卒業、就職したのだが、同期の女性職員は3人だった。

 今は新聞社でもテレビ局でも多数の女性記者が働いているが、昭和50年代までは、女性記者は極めてまれな存在だった。当時、若い新聞記者たちが息抜きに飲み会をやる時、報道協会の女性職員は引っ張りだこで、頻繁に〝合コン〟が開かれていた。ジャナ研はもちろん、協会事務局にも大手新聞から30歳前後の独身者が出向しており、彼らが仲介役を果たしていた。〝合コン〟が頻繁にあれば、独身の出向者や新聞記者たちと親密な交際に発展するのも自然の成り行きで、寿退職してしまうケースが多くなる。定年まで勤務することはめったになく、美舞はそうした稀な女性職員の一人だ。結婚経験はなく、いまだに独身だ。

BusinessJournal編集部

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