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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第37回

盗聴されている!? 新聞業界のドンから追い出し部屋の連中に突然不可解な電話が…

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盗聴されている!? 新聞業界のドンから追い出し部屋の連中に突然不可解な電話が…の画像1「Thinkstock」より

 【前回までのあらすじ】
 見て見ぬふりをするのが “常識”の政治部記者のなか、業界最大手の大都新聞社の深井宣光は特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞した。深井は、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の1通の封書が届いた。ジャーナリズムと無縁な経営陣、ネット市場の急成長やリーマンショックにより広告が急減、部数減と危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そしてその封書は、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。

 翌日の水曜日も翌々日の木曜日も、吉須晃人は資料室に姿を見せなかった。

 “差出人不明の手紙”が届いて3日後の金曜日。この季節にしてはポカポカ陽気の晴天だった。深井宣光がこれまで通り午前11時過ぎに出勤すると、開高美舞の大声が飛び込んできた。

 「深井さん、大変よ!」
 「なんだい、藪から棒に…」

 立ち止まって、笑顔で応じた深井が言い終わらないうちに、美舞が遮った。
 「何を呑気なこと言っているの。ちょっと前、会長秘書の杉田(玲子)さんから電話があったのよ。太郎丸嘉一(たろうまるかいち)会長が『至急連絡してほしい』と言っているらしいわよ」

 「え、会長が連絡してほしい? こっちに移って3年余りになるけど、初めてだな」

 深井はそう漏らすと、自分のブースに向かった。すると、後ろから美舞の声が飛んだ。
 「会長、深井さんと吉須さんの二人が報道協会ビルに姿を見せないって怒っているらしいの。すぐに電話した方がいいわよ」

 ジャナ研本体は報道協会ビルにあり、日亜オフィスビル3階にある資料室は深井と吉須、美舞の3人だけの席がある「隔離病棟」のようなものだった。

 「ああ、わかった」
 自席に着き、パソコンの電源を入れメールをチェックした。そして、受話器を取った。

 「会長秘書の杉田さん、お願いします」
 深井は、わざと美舞に聞こえるように大きな声で話した。

 「なんだ、杉田さん、お久しぶり。総務の番号に電話したから、別の人が出るかと思っていた。深井です。『会長が連絡せよ』と言うんで電話しました」

 しばらく沈黙が支配したが、すぐに深井の受け答えが始まった。
 「あ、会長ですか。ご無沙汰しています。資料室の居心地があまりいいもので、報道協会ビルから足が遠のいてしまいまして…」

 それからあとは、深井が「はい」とか「わかりました」とか言うだけで、会長との会話の内容をうかがい知れるような言葉は発しなかった。しかし、最後は、秘書の玲子に代わったようで、深井が携帯電話の番号を口頭で伝えた。

 電話を切ると、深井は立ち上がり、美舞の受付の席に近づいた。

 「なんだ。大した用じゃないぞ」
 「会長、怒っているのかと思ったけど、違うの?」
 「たまには報道協会ビルにも顔を出せと言っていたけど、俺が携帯電話の番号を登録していなかったんで、困ると言われただけだよ」
 「深井さん、携帯電話番号を総務に教えていなかったの?」
 「俺だけ電話番号表に載っていないみたいだ。名刺には載せているから、てっきり総務も知っていると思っていたんだ。でも、今、杉田さんに教えたから、もう問題はないよ」
 「なんだ、面白くないわ。でも、番号表に深井さんのが載ってないって気付かなかった」
 「そうなんだ」

 深井は答えると、タバコをふかす素振りをして、入口のドアを開けた。

 向かったのは日比谷公園だった。歩きながら、太郎丸からの電話のことを考えた。不可解そのものだったからだ。突き詰めると、用件は自分の知人の大学教授が深井と吉須の2人と連絡を取りたいと言っているので、携帯番号を教えるが、いいか、ということだった。

 吉須の携帯は番号表に載っているが、深井のは載っていないので、ちゃんと載せて置くように、と苦情を言われた。それで、深井が直接、番号を言おうとしたら、秘書の杉田君に教えろ、と言って電話を彼女に戻した。

 そのくせ、件の大学教授にはすぐに番号を教えるから、15分くらいのうちに電話があるだろう、ちゃんと対応してくれ、とも言っていた。今一つ腑に落ちない、と思いながら、歩いていると、日比谷公園の入り口のところで、携帯電話がなった。

 「はい、深井です」
 「おい、わしじゃ。太郎丸じゃ」
 「え、大学教授からの電話とばかり思っていましたが、会長ですか。どうしたんですか」

 深井はびっくりして、少し声が大きくなった。
 「お主を騙しよって悪かったのう。用事がありよるのはわしじゃわ。ジャナ研の内線電話でわしとお主が話しよると、誰かに盗聴でもされよってはまずいと思っちょってな」

 太郎丸がなぜそこまで警戒するのか、いぶかしかったが、深井も心持ち、声を潜めた。
 「そうですか。わかりましたけど、用件はなんですか」

 「ふむ。お主と吉須君に極秘に会ってのう、話したいことがあるんじゃわ。再来週の月曜日の夜、時間を空けてほしいんじゃ。何か、もし先約がありよるなら、それをキャンセルしよって、わしに付き合うてくれや」

 深井に夜の予定などめったにない。それを薄々感づいている太郎丸の言い方は、深井を不愉快にさせた。それでも、深井は冷静を装った。

BusinessJournal編集部

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