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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第32夜】

広がる高齢者を狙う詐欺〜自分を責める被害者たち救済と、悪徳業者との戦いの現場

広がる高齢者を狙う詐欺〜自分を責める被害者たち救済と、悪徳業者との戦いの現場の画像1「Thinkstock」より
 ドキュメンタリー番組を日々ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で“裏読み”レビューします。
【今回の番組】
 7月23日放送『ガイアの夜明け 高齢者を狙う…サギと闘う ~大切な資産を守れ~』(テレビ東京)

 「あーもしもし、ご注文いただいた健康食品、準備が整ったので送らせていただきますね」江口洋介が送りつけ詐欺をしていた。

 もちろんこれは『ガイアの夜明け』お約束の「案内」部分での演技。「頼んでない? おばあちゃん、忘れちゃったかな」と一人芝居が続くが、机に座る江口にピンポイントで当てた照明が不気味だった。

 夕方のニュースの特集枠で取り上げられそうな送りつけ商法、振り込め詐欺といった悪質商法を『ガイア』が扱うのには、どこか違和感があった。なぜなら、この番組は「様々な経済の現場で奮闘する人たちを追う」(番組HPより)ことが目的のはずだ。まさか詐欺師を追うはずはないし、騙される人々が被写体になるとも思えない。そもそも、この題材が「経済」に向いているのだろうか。

 北九州の、とあるビルに大勢の老人が入って行く。一見、質屋のようだが、ここは価値のない商品を預かり、金を貸す「偽装質屋」と呼ばれる店。通帳やカードを預かり、100%という金利で金を渡す。白い毛玉が目立つ黒いシャツを着た老人は「今日は14日、年金の日だからね」とビルに入った理由を明かす。

 カメラはビルに入り、「年金を担保に、自動で引き落とすのは違法ではないか?」と店主を問いつめる。『ガイア』ではなかなか見られないハンドマイクを突き付けるのも、「取材」を強調する演出と見た。彼は「どうしても生活費が必要です、というお客には出しました」と認める。しかし、そんな法外な金貸しが許されるはずもない。質屋の仕組みを利用した悪質な犯罪だ。これらは現在検挙されつつあるが、このように老人を狙った詐欺が横行している。

 液体燃料削減装置を開発したという省エネ技術会社への投資を募られ、110万円を「つい払ってしまった」と告白する老婆がいる。彼女は「騙された自分が悪い。先祖に謝っています」と言うが、番組に登場する老人たちは皆、自分たちを責める。その多くが電話越しの相手であったり、ATMといった機械を相手にしているからだろうか。犯人に対する恨みを口にする人たちは皆無だった。そこが現代的な犯罪だな、と思う。

 彼女を救うのは「熱血弁護士」と紹介される、あおい法律事務所の荒井哲朗氏。一度詐欺に引っかかってしまった老婆の元には、「詐欺から金を取り返せる」と書かれた封筒が速達で届いていた。情報が回り、何度も狙われてしまうらしい。老婆が封筒の番号に電話をすると「とりあえず今回は12万5000円払って」と言う。即座に電話を代わる荒井さん。自己紹介をし「お前のやっていることはお見通しだ」と言わんばかりに「もう電話をしてこないということでいいかな」「約束して」と要件だけを伝える。電話の相手は「わかりました」とだけ答え、会話が終わる。短い言葉だが、曖昧な答えは許さない、という覚悟の伝わる内容だった。

 さらに、荒井弁護士は奪われた金を取り返しに行く。事務所には中年男しかいなかった。上司は外出をしていて、いつ戻るかもわからないらしい。荒井弁護士は居座ることに決めた。男は話しかけてきて「ろくなことしてなかったみたい。こっち(暴力団)とつながりがある」と忠告するが、そんな言葉が効く相手ではない。訴訟も辞さない覚悟を伝え、ただ待つ。2時間後、中年男が上司から届いたFAXを見せる。そこには老婆が振り込んだ110万円の入金書が。あきらめた上司が返金に応じた、ということだ。老婆の元には、荒井弁護士の着手金5万円と16%の成功報酬を引いた額が戻った。しかし、この組織が壊滅した、という話ではない。

 老人を狙った詐欺に引っかかってしまうほとんどは孤独な老人たちだ。一日中、誰とも話すことなく家の中にこもっている彼らは、詐欺師にとって絶好のカモだ。「注文したはずだよ」という会話がいつしか脅迫に変わり、老人は「自分が悪いのかも」と思ってしまう。昨年度は81億円もの被害総額を記録している。

 もう注意を促したり、弁護士が代わりに金を取り返すだけでは、これらの詐欺の解決にならないのだろう。行政は、さらに踏み込んだ対応を進めている。盛岡市は、2004年に「悪質商法に負けないまちづくり」を宣言した。

 例えば、認知症の夫婦の場合には、金銭の管理を行っている。口座を管理し、必要な分だけの生活費を渡す。余分なお金を持たないことが被害を食い止めることは間違いないから。また人を集めて講座を開き、常に注意を促す。さらには演劇同好会と共に芝居をつくり、町ぐるみでこの問題と向き合うことをアピールしている。

 正直、僕にはこれらの取り組みにどれだけの効果があるのかわからない。もちろん実行している彼らも同じ気持ちだろう。しかし、近年になって発生したこのような詐欺の原因は、老人の孤立化や地域社会との疎遠が大きな原因になっていることは間違いない。

 問題の対策には、現代を生きる老人たちが、生活を見つめ直すことから始めないといけない。これからも詐欺はなくならない。人の心のスキを狙う犯罪だから。しかし、対策はあるはずだ。演劇同好会と共にシナリオを書いた若き生活センターの担当者は「蓄えてきたお金には“思い”があるはずだ」と語っていた。金銭には換算できない“思い”を踏みにじるような犯罪に立ち向かうのも“思い”だ。
(文=松江哲明/映画監督)

●松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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