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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第39回

経済社会小説をユダヤ問題と勘違いして書籍広告を拒否 事なかれ主義が蔓延する大手新聞社

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 「あいつ、執行役員のままだろ。煙たいから経営の中枢に入れないんだ。でも、名門出身だから、それなりに処遇しているようには見せるんだ」
 「執行役員4年やっていますけど、九州、北海道、名古屋と、ドサ回りばかりですね」

 「丹野はね、“転向”したかもしれんが“デモシカ”で記者になった俺なんかと違う。ジャーナリストになりたくてなったんだ。牙はとっくに折られてしまったが、根っこは残っているはずだ。今、日亜や大都の中枢に残っている連中よりはましさ。奴らは有名大企業に入ったら、せいぜい中堅幹部止まり。毒にも薬にもならない、つまらんサラリーマンだぜ」
 「まあ、おっしゃる通りですけど、吉須さんが“デモシカ”記者だったなんていうことはないでしょ。記者時代にはスクープを連発して、取材先からも一目も二目も置かれる存在だった、と聞いていますが…」

 吉須はすぐ答えず、ガラス窓越しに隅田川沿いに立ち並ぶビルの向こうに広がる夜空をぼんやり見つめていた。そして、スコッチの水割りを舐めるように飲んだ。
 「“スクープ連発”か。そりゃ、誤報を恐れてチャレンジしないサラリーマンの連中と違うのは当り前さ。リスクを取って勝負したからね。それが快感とか、生きがいだった。それも遠い昔のことだな。今は旅行三昧“楽しい日々”が過ぎて行く」

 吉須は、たばこを取り出し火をつけた。いつも人の心の中に土足で踏み込み、からっとした明るさで傍若無人に振舞う吉須からは想像もつかない、その顔つきをみると、返す言葉が見つからなかった。深井が黙って水割りのグラスに手を伸ばすと、吉須が続けた。

 「脇道にそれたけど、丹野君に大都の惨状を聞いた。それを話そうと思ってね」
 このとき、吉須の顔から陰は消え、目を上げた深井の前に普段の吉須の破顔があった。

 「丹野さんは何を言ったんですか」
 「大都もうちの日亜と同じくらいに腐っているってね。でも、話を聞いていると、うちよりましじゃないか、という気もした。うちは愛人、不倫、セクハラ、パワハラ、やりたい放題。そういう傷がないと中枢に入れない。まあ、それでも五十歩百歩かもしれんが…」

 「そんなこと、誰でも知っているじゃないですか」
 「誰でもなんて知らないよ。知っているのは大都の社員だけさ。どこにも出ないじゃないか。俺だって、日亜のことはある程度知っているが、大都のことは知らなかった。多少知られているのは前の社長の愛人問題だけだろ。月刊情報誌『風聞(ふうぶん)を穿(うが)つ』に何度か載ったからな。他の話はどこにも出ていないぞ」
 「そうかもしれませんが、丹野さんはそんな話をするために吉須さんと会ったんですか」

 「違うよ。俺が南半球一周の船旅から戻って丹野に電話したんだ。大阪に行くんで、名古屋で途中下車して久しぶりに会おうと思ったんだ。君と同様に昨年10月に会ったきりだったから。でも、丹野は1週間東京にいるというから、今日会ったんだ」
 「丹野さんは1週間も東京に居たんですか」

 「そう、今晩名古屋に戻るらしい。大都の広告掲載を巡りトラブルがあって、その収拾のために呼び寄せられていたらしい」
 「なんですか。それは?」

 「ある作家の新刊本宣伝を巡る話だ。出版社も超有名な大手だ。ユダヤ問題絡みと早トチリした大都が広告掲載を拒否した。触らぬ神に祟りなし、と思ったんだろうな。そうしたら、作家は訴えると言って大都に抗議してきた。調べてみると、ユダヤ問題などとは全く無関係な経済社会小説で、大都は平謝りに謝ったが、作家は収まらない。たまたま、丹野が友人で作家の説得を頼まれたというんだ」
 「うちはもうジャーナリズムとは無縁の新聞社ですからね。宜(むべ)なるかな、です。事なかれ主義が蔓延している証拠でしょうけど、その件はどうなったんですか?」

 「知らないよ。結論は聞いてないから。でも、丹野の奴、なんでそんな馬鹿なことをするんだと思って詰問したよ。元全共闘が泣くぞ、とね」
 「丹野さん、どうでした?」
 「しょげていたさ。それで、いろいろ話し出した。でも、あいつは辞められない。それがもしかしたら救いかもしれないけど…」
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週8月23日(金)掲載予定です。

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