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防衛大入校者の2割以上?自衛官ではなく民間就職を選んだOBの本音〜便宜与える企業も

文=秋山謙一郎/経済ジャーナリスト
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 陸・海・空の3自衛隊の幹部(旧軍の士官に相当)を養成するのが防衛大学校(以下、防大と略)だ。毎年、約480人の入校者を迎えるが、卒業するのは、おおよそ350人から400人程度。この卒業生の中には、幹部自衛官への進路を拒み、任官を辞退する者もいる。その数は、年によっては30人前後、少ない年でも10人ほどいる。これが、しばしばマスコミで報じられる「任官拒否者」の実態だ。

 一方、防大卒業と同時に防衛省・自衛隊を去る任官拒否者とは別に、自衛官に任官しくべ、陸・海・空の各自衛隊幹部候補生学校に入校後、ほどなく退職するのが「早期退職者」である。この数も、年によって多少の違いはあるが、陸・海・空合わせて、毎年最低10人以上はいるという。

 さらに幹部就任後に退職する者も含めれば、卒業後6年までに、防大に入校した一学年約480人のうち、約100~150人が自衛隊を去り、民間に進路を転じるという。

 防大に入校すると、特別職国家公務員となり、学費から衣食住の費用にいたるまでを国費でまかなわれ、さらに手当てとして毎月約11万円と賞与年額約38万円が支給される。こうした防大卒業後、任官しなかった者、任官しても6年以内に自衛隊を退職する者から、学費を徴収する制度が平成26年4月以降の入学生から適用されることが決まった。ついては、防大を卒業しながら任官拒否、早期退職した卒業生に話を聞き、知られざるその実態に迫ってみた。

<座談会参加者>

A氏:30代。防大卒業時に任官拒否し民間企業へと就職、現在に至る。
B氏:30代。防大卒業後、自衛隊幹部候補生学校に入校。入校後すぐに退職願を出し、民間企業に「新卒枠」で採用され、現在に至る。

任官拒否、自衛隊早期退職という進路

――それでは、お2人が防大を卒業しながらも、幹部自衛官への進路を歩まず、民間企業へと進路の舵を切った、その理由からお願い致します。

A 国防、安全保障を防大で考える機会を与えていただいたことは、国民の皆様、母校・防大に感謝しています。しかし、私は、自衛官として社会に貢献するよりも、民間企業でこそ、自らの能力を活かせると判断致しました。そして任官を辞退させていただきました。

B 学生時代、任官するかどうか迷いました。しかし、日々忙しい防大生活では、就職活動もままならなかった。そのため、まずは防大を卒業し、その上で民間へ転じるかどうかを決めようと考えました。幹部候補生としてしばらく自衛隊におりましたが、この生活で、民間に出ようという決意が固まった次第です。

――防大生時代から、民間企業を意識されていたのですね?

A 私は、2学年に上がった頃から、自衛隊も含めて進路を真剣に考えまして、3学年の終わりには、もう任官する気はなく、民間への就職を検討していました。

B おぼろげながら、1学年の頃から任官拒否を意識していました。しかし学年が上がり、日々の生活に追われる中で、その気持ちも、だんだんと失せていきました。

――就職活動は、どんな段取りでされたのですか?

A 一般大学の学生とまったく同じ扱いで活動しました。夏の長期休暇を利用して、集中的に行いました。自分は、防大生だから特別に企業側から就職活動で便宜を図ってもらった、とかそんなことは一切ありませんでした。

B 比較的、早期に退職したので、春の連休から始めました。国家公務員試験や地方公務員試験も考えましたが、やはり、自分の実力がダイレクトに評価される民間企業を中心に回りました。防大を卒業した翌年の、新卒枠での採用でしたが、内定を頂いて、すぐに入社させてもらうよう企業側から便宜を図っていただけました。

――防大生が任官を辞退する際、どういった手続きなり、教官からの説得があるのですか?

A まず任官しないと伝えると、所属する小隊の指導教官から指導されます。それから今度は中隊、大隊……と上がっていく。人と年度によって違うと思いますが、大隊首席指導教官を経て、総括首席指導教官からOKが出れば、任官辞退は認められます。

――その際、指導教官から殴られたり、高圧的な物言いでの指導はあるのですか?

A それはなかったですね。昔は知りませんが。私のときは、殴られたり、高圧的な物言いで威圧されたりとか、そういうのは一切ありませんでした。親身になって諭す……そんなイメージです。

――そんな親身になって諭されても、やはり外に出たかった?

A はい。そもそも何か目的を持って、あるいは、縁あって防大に来た人と、いろいろな学生がおりますが、防大に入校したからといって、全員が幹部自衛官に向いているとは限らないのです。理系の研究者気質な人もいれば、文系ではタフ・ネゴシエータータイプも、営業やらせたらうまいだろうなと思う人もいます。

――任官拒否者は、防大の卒業式後は、そのまま謝恩会などの祝典に出て、学校を後にするのですか?

A いえ。謝恩会は、自衛官任命されて幹部候補生の制服で出ます。そのため任官拒否者は、卒業式が終ると私服(スーツ)に着替えて、裏門から学校を後にします。謝恩会には出させてもらえません。

B 私は、そうした任官辞退者への学校側の差別的扱いが嫌で、任官したところが正直ある。

A 私は、防大のそうした扱いがあったからこそ、その後の人生を頑張れたと思っています。

――防大は、約500人入校して、卒業時にはもう100人くらい欠けていますよね? これはなぜ?

A 世間では「厳しい生活に耐えられないからではないか」という声もありますが、そうした理由で退校する人は、案外少ないのではないかと私はみています。理系では、数学や物理、化学のセンスがなくて、退学を余儀なくされたという人が多いのではないかと。これは一般大学の理系学部と同じではないでしょうか。英語をはじめとする外国語でもそういう状態が生じています。

B 文系は、理系と比べて、留年や退校を余儀なくされた人というのは聞きません。ただ、文理問わず、防大は1学年から4学年まで、立場は変わっても、誰かが常に自分を見ている。教官だったり、先輩、同期、後輩と。そうしたプライバシーのなさ、強制参加の部活動もあり、自分のペースで勉強ができない。そのため、学業面で振るわない人も出てくる。民間すなわち外の世界だと、自分のペースで勉強したり、仕事ができるので、最大限のパフォーマンスが発揮できるのです。

――必ずしも防大生活の厳しさだけが理由で、退校するというわけではないと?

A そうです。任官拒否や卒業後の早期退職も、集団生活、プライバシーのなさといったものも理由に挙げられると思います。

――防大の文系では、国際関係論専攻の学生に、任官拒否者・早期退職者が多いと聞きますが?

B 任官拒否者・早期退職者が多いかどうかはわかりませんが、国際関係論専攻の学生は、防大生の中でも、一般の大学の人たちに引けを取らない、柔軟な思考力を持っている人は多いように感じます。ですから、そういう人たちは、民間でも通用すると思います。

民間企業と自衛隊の違い

――民間企業と自衛隊、防大卒のお2人からみてどう違います?

A 自衛隊はマニュアルが徹底されている。そこは素晴らしい。だが応用が利かない。特に曹士自衛官(編註:下級自衛官の総称)にその傾向が顕著です。だから若手幹部が何か新しいことをしようとしても、それが阻まれることがある。その点、大卒総合職として採用された民間企業では、職位が下位の社員でもプロフェッショナルであることが求められ、高い利益やパフォーマンスを追及しなければなりません。自衛隊では、幹部といっても、自分より年上の曹士自衛官から「いかに楽させるか」を求められることがあります。民間企業ほどのプロ意識を持っていない人の割合が意外に高いです。

B 仕事のスピード、即応性、柔軟性……、本来、自衛隊が求められているものは、民間企業では、実に普通のこととして捉えられているところです。自衛隊といってもお役所であり、何か行うときは、書類と稟議に追われます。そこが違います。

――任官拒否、卒業後、早期退職されたことに後悔は?

A ありません。制服を脱いだものの、意識は防大OBとして、私服で民間企業に勤務しているつもりなのです。民間、即ち“外”の世界で防大のプレステージ(権威・名声)を上げるべく、今日まで励んでまいりました。

B 私も後悔はありません。防大卒民間企業人として、“外”から防大と防衛省・自衛隊を守り、盛り立てていく、そんな役回りをさせていただいているという思いです。自衛隊はもちろん、民間企業、法曹界、官界、政界とありとあらゆる業界に防大OBがいることこそが、防大のプレステージを高めると信じています。

――任官辞退者、自衛官任命後、早期退職した方から学費を徴収しようという制度が、将来的に適用されようとしていますが?

A 反対です。確か、国立大学の学費に準じた250万円を返還するそうですが、すぐに返せる額とはいえ、金で返せない恩義や負い目があるからこそ、防大への愛着と矜持があると思います。

B 一般大学は学校に通いながら学費を納めるが、防大は卒業後に納めればいい、という意見も出てきかねないですから。なんとか撤回してもらいたいです。

任官拒否者、自衛隊6年以内退職者の学費返還は忠誠心をなくす?

 このままいけば、平成26年4月以降に入校する防大生は、任官拒否や卒業後に早期退職した場合、国立大学の学費に相当する250万円を返還することになる。だが、その結果、任官拒否も早期退職も「金さえ払えばいいんだな」という風潮につながりかねない。

 4年間の厳しい学業と訓練に耐えながら、真剣に悩んだ末、幹部自衛官以外の進路を見いだしたというのであれば、これは国家・国民の懐の深さとして、4年間の学費を賄ってもいいのではないだろうか。嫌々ながら勤務する幹部自衛官を輩出するよりも、むしろ別の進路で社会に役立つ人材を防大が輩出できれば、それはそれで社会のためになるのではないだろうか。
(文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

秋山謙一郎/経済ジャーナリスト

1971年兵庫県生まれ。経済ジャーナリスト。『友達以上、不倫未満』『弁護士の格差』(ともに朝日新書)、『ブラック企業経営者の本音』(扶桑社新書)など著書多数。週刊ダイヤモンド、ダイヤモンド・オンライン(ともにダイヤモンド社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。本サイトは発刊時からの執筆メンバー。創価大学教育学部大学院修了という学歴から宗教問題にも詳しい。

 

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